(財)日本生態系協会(1998)による〔『環境を守る最新知識 ビオトープネットワーク』5-8p)から〕


1-2-2 生態系ピラミッド
 野生生物土壌大気太陽光の5つの要素が有機的な関係を保つことにより構成された自然のシステムのことを「生態系(ecosystem)」という。生物は資源(エネルギー)を取り入れ、不要物を捨てることによって生命を維持している。しかし単独の種類だけでは資源は枯渇するか、もしくは大量の廃棄物による汚染を招き生存することはできない。そこで、自然生態系においては、それぞれの物質が生態系内でその形態を変えながら、循環を繰り返している。
 およそ38億年前、地球上に生命が誕生して以来、生物が必要とするすべての物質は、生物とそれをとりまく非生物的環境の間を循環することで再利用されてきた。この生態系を構成する要素のうち、土壌と多様な生き物の集合体がつくる食物連鎖の様子を表したものが「生態系ピラミッド」(図1-1、1-2:略)である。
 生態系ピラミッドは、無機化合物から有機物を合成する生産者、生産者を直接捕食する第一次消費者、それを捕食する第二次消費者、そして第三次、……高次消費者、およびこれらの死体や排泄物を分解する分解者というように栄養段階(trophic level)という考えを使って把握しようとしたものである。
 多くの植物は、土壌から養分と水、大気から二酸化炭素を吸収し、太陽をエネルギー源とし、人間を含め地球上の動物の生存に欠かせない炭水化物・蛋白質・脂肪などの有機物を生み出している。これを草食性の昆虫が食べ、これらの草食性昆虫を肉食性の小動物、昆虫が食べている。さらにこれらを食べる高次消費者が存在する。こうした食物連鎖の頂点に位置しているのが、ワシ、タカ、フクロウといった猛禽類、キツネ、タヌキといった肉食ほ乳類である。
 生態系ピラミッドは、高次消費者であればあるほど、生存に広い自然環境を必要としていることを示している。逆に、ピラミッドの頂点に位置するワシ、タカなどの大型鳥獣がいるということは、その地域の生態系の質と量が総合的に高いことを示している。繰り返しになるが、ワシ、タカなどの大型鳥獣が生息するためには広い面積の土地(土壌)が必要であり、えさとなる生き物の多い、質の高い自然生態系が必要とされる。
 このことはまた、土地(土壌)の一部が失われたり、自然生態系の構成要素の一部が欠けることで生態系のバランスが崩れたとき、まず最初に姿を消すのは生態系ピラミッドの頂点に位置する高次消費者であることも意味している。タカの一種であるサシバが生息している地域の森林が一部伐採されると、植物をえさとしていた昆虫の一部が生存できなくなり、それとともに、その昆虫を食べていたカエルやトンボの一部、そしてヘビや野鳥の数も影響を受け減少する。その結果、高次消費者であるサシバは、えさの必要量が不足し生存できなくなる。残された環境では、サシバの下部層にいるヘビや小鳥が小さくなったピラミッドの頂点になる(図1-3:略)。
 このようにピラミッドの底辺に位置する土地(土壌)の微妙な変化にも敏感に反応するのが猛禽類をはじめとした高次消費者である。生態系ピラミッドの頂点に位置するサシバの場合は、ヘビ、昆虫、小鳥などをえさとして食べている。これらえさとなる生物を支えるには広いピラミッドの底辺が必要である。サシバは主に谷津田などに生息するが、その行動圏は約150ha以上だと考えられている。またオオタカの行動圏は、数百〜1,000ha以上、イヌワシの場合6,000ha以上と推定されている。高次消費者が生息できる生態系を維持していくには広大な土地(土壌)、そして植物や小動物の豊かさが必要である。
 生態系ピラミッドの各栄養段階における生物の絶滅や減少は、生態系全体に大きな悪影響を及ぼすことになる。また森林伐採などによる周辺環境の変化は、それ自体、特に警戒心の強い動物の生息を困難にすることはいうもでもない(p50参照)。生態系ピラミッドの頂点あるいは上部に位置する鳥獣は、生態系の各構成要素のバランスがうまくとれていてはじめて健全に生息することが可能となる。』