原島・功刀(1997)による〔『海の働きと海洋汚染』(2、4p)から〕


1 多様化・広域化した人為影響
 一口に海洋汚染といっても、実に多岐にわたっています。かつての水俣のように、人体に対する危険性がはっきりと認められる海洋汚染は日本では少なくなりました。一方で、海洋で検出される人為起源の化学物質のリスト(表1.1)を見ると、その種類の多いことに驚かれることでしょう。しかし、これでもその一端をみているにすぎないのです。これらの濃度が、有害なレベルに達しているかどうかは簡単には評価できないのですが、人為起源物質が、多様化しながら広域に拡がってきているといえそうです。
表1.1 海洋で検出される人為起源の物質

用途

物質名
農薬 DDTs(DDT、DDE、DDD)、BHSs(α-、β-、γ-、δ-)、ディルドリン、アルドリン、エンドリン、クロルデン、(ダイオキシン)、ノナクロル、2,4-D、2,4,5-T、BHT、フルオレン
溶剤 トリクロロエチレン、ジメチルナフタレン
絶縁材など PCB、コプラナーPCB
塗料(防腐剤) TBT、TPT
梱包材など 発泡スチロール、塩化ビニール
油類 原油、ビルジ水
重金属 水銀、鉛、カドミウム、セレン、ヒ素
その他 ジイソプロピルナフタレン、アセナフチレン、アセナフテン、シクロヘキシルアミン、ジフェニルメタン、トリクロロベンゼン、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、ヘプタクロルエポキシド、ペンタクロロベンゼン

 この章では、人為起源の化学物質のほか、原油汚染、重金属汚染、浮遊プラスチックによる汚染を紹介します。これらのはっきり汚染とわかる問題のほかに、リンや窒素などのように、それ自身は有害ではなく、本来栄養塩として海洋を肥沃にしているものが、「過ぎたるは及ばざるがごとし」というたとえ通り、富栄養化や赤潮・青潮問題として海洋環境を悪化させているもの、あるいは、埋め立てや自然海岸の工事による生態系の改変など、広い意味での環境問題として考えるべき問題があります。これらについても別の章で紹介します。』