飯島(2001)による〔『環境社会学の視点』(3-4p)から〕


1 環境社会学の定義と特徴
 環境社会学の定義

 環境社会学という学問分野をどう定義するかは、論者によってニュアンスの面で違いがあるなど、かならずしも定まってはいないが、筆者自身としては、これまでに何回か定義を試みる機会があった。最も近年に定義した例は、1998年に刊行された「講座社会学」(東京大学出版会)の12巻『環境』においてである。編者のひとりとして、もうひとりの編者の舩橋晴俊氏とも議論したうえで行った定義でもあり、また、現時点では、これに大きく変更を加えるべき点はないと考えられるので、ここでは、その定義を引用することにしたい。

 環境社会学は、対象領域としては、人間社会が物理的生物的化学的環境(以下、自然的環境と略)に与える諸作用と、その結果としてそれらの環境が人間社会に対して放つ反作用が人間社会に及ぼす諸影響などの、自然的環境と人間社会の相互関係を、その社会的側面に注目して、実証的かつ理論的に研究する社会学分野である(飯島[1998])

 少し細くしておくと、この定義で強調しているのは次の4点である。その第1は、対象領域として、従来の社会学が主要な研究対象としてきた社会的・文化的環境に加えて自然的環境を重要な対象領域として設定していることである。第2に、環境社会学が重要な研究対象領域とみなして新たに対象領域に加えた自然的環境と、社会学全般が、主要な研究対象領域としてきた人間社会自体との相互作用を研究するものであるということ。第3に、自然的環境と人間社会の相互関係を研究するに際して、自然的側面ではなく社会的側面のほうに注目して研究するということ。そして、第4に、環境社会学の研究は、何よりも実証的であることが必要であるが、しかし、同時に、理論的な研究をめざすものでもあるということである。

 環境社会学の特徴
 そして、ここに述べた環境社会学を定義するための4つのポイントは、そのまま環境社会学の特徴でもある。環境社会学は、人間社会の研究をするにあたって、社会的・文化的環境に加えて自然的環境との相互的な関係の研究を不可欠と判断している点において特徴的であり、この特徴によって、社会的・文化的環境に関する学問領域であった従来の社会学ときわだって異なっている。
 また、環境社会学は、研究対象を丁寧に実証的に検討することによって、そこで発生している社会的現実を的確に把握することを重視する。初期社会学において、第一次的なデータを発見することを通して社会的現実を実証的に分析した(Durkheim[1897])伝統を受け継いでいる面もあるが、むしろ、研究対象である自然的環境と人間社会の相互関係が生み出す諸相が、書斎における思索による把握を超えることを経験的に感得している現代的な確証に基づいた姿勢である面が強い。ほかの研究領域においても共通することであるが、とりわけ環境問題は、自然的環境が研究対象に加わっていることによって、より複雑な様相を示しており、その人間社会との相互関係に関する社会学的な発見(Nisbet[1970])は、事柄が発生している現場に密着することによって初めて理解できることが多い。環境社会学も、そこで指摘されているような丹念な実証的検討を重ねることによって、独自な分析装置や理論枠組みを生み出してきている。問題の現場を重視する学問であることの強みであり、特徴である。』