小松(2001)による〔『環境社会学の視点』(225-226p)から〕


1 計量的アプローチとは何か
 環境社会学は現場の学問である。現場に行って自分の眼で見、当事者の話を聞く。現場で資料を収集する。このようにして現場で集めたデータから、現代社会の矛盾や歪みを浮き彫りにしていく。
 ここでは計量的アプローチを「調査によって収集されたデータに統計的・論理的な処理を施すことで当該社会集団を分析する手法」と暫定的に定義しておく。統計的な処理といっても難しいことではなく、数えることが基本である。したがって、原子力発電所建設の住民投票で〇〇%が「反対」だったという記述は計量的アプローチであると十分にいえる。しかし、われわれの志向は社会集団の状況の記述だけにはとどまらない。われわれは、環境問題を生み出さざるをえない社会のしくみや歪みを明らかにし、問題解決に寄与することを志向しているのである。
 調査という言葉からは調査票調査を想起するかもしれない。調査票調査では、数百人から数万人の対象者に対して、同じ調査票を用いた調査を行い、結果を統計的に分析する。調査票調査の方法は本章(A)の中心であり、次節でその意義と対象者選定に際しとくに注意する点を論じる。しかし、計量的アプローチの方法は調査票調査だけではない。既存の統計データや新聞記事などのドキュメントも計量的な手法で分析することができる。第3節では、調査票調査以外の計量的アプローチ法を紹介する。
 収集したデータは適切な方法で分析して初めて意味のある知見を得ることができる。調査をした、資料を収集した、インタビューや観察をした、ドキュメントを集めた。さて、では、どうやって分析しようか。データ収集を始める時点で明確な分析方針と方法を確立しておかなければ、このようにデータの山を目の前にして途方にくれてしまう。せいぜいが、無意味な単純集計表(度数分布表)とクロス集計表を載せただけの報告書ができあがってしまうのが関の山である。あるいは、単純集計表やクロス集計表による、調査結果の全体的な概観をせずに、いきなり高度な多変量解析をして、意味のある結果が出たと勘違いしているかである。筆者は単純集計表やクロス集計表の分析も非常に重要なことだと考えている。また、多変量解析を用いた分析を否定するものでももちろんない。周到な準備に基づいて多変量解析をし、有意義な結果を見出している研究も少なくないのである。要は、研究の企画・設計段階で分析のことまで考慮して計画を立てるべきであるという(一見あたりまえの)ことである。第4節では、計量的アプローチを進めるにあたって全体的な注意点を論じる。
 本論に入る前にひとつだけ確認しておきたいことがある。それは「テーマが先にありき」ということである。先に環境社会学は現場の学問であると述べたが、何の予備知識もなしにいきなり現地に行っても重要なデータは何も得ることができない。なお、社会調査方法論の基礎は修得しているものとして議論を進める。調査論一般については、安田・原[1982]、盛山ほか[1992]、栗田[1996]、大谷ほか[1999]などを参照されたい。また、既存の社会調査の知見をまとめたものに、栗田[1999]がある。』

文献(関係分のみ)
栗田宣義編[1996]、『メソッド/社会学−現代社会を測定する』 川島書店。
栗田宣義編[1999]、『データブック/社会学−調査データでわかる日本社会』 川島書店。
大谷信介・木下栄二・後藤範章・小松洋・永野武編[1999]、『社会調査へのアプローチ−論理と方法』 ミネルヴァ書房。
盛山和夫・近藤博之・岩永雅也[1992]、『社会調査法』 放送大学教育振興会。
安田三郎・原純輔[1982]、『社会調査ハンドブック 第3版』 有斐閣。』