田中(1998)による〔『廃棄物学概論』(1-4p)から〕


第1節 廃棄物の発生と問題
1−私たちの暮らしと廃棄物発生

 地球上では現在多くの人が生活を営み、また将来にわたってその数は増えつづけるという予測がある。そして、地球上に生を受けた人はいつまでも健康で快適でそして便利な生活を望むものである。この人びとが望んでいる生活の達成の度合いが「豊かさ」といえるかもしれない。
 豊かな生活を支えるに、食料や新聞や雑誌、諸々の商品が必要とされる。そして、このように豊かな生活を支えるいろいろなものも、私たちが消費した後には廃棄物として発生する。1995年の現在において市町村が収集したり、処理・処分したりする廃棄物、これを一般廃棄物というが、その量は1年間に5000万tである。一方、このような商品を生産、製造したり、そして流通、販売の段階でも多くの廃棄物が発生する。また、豊かな生活を支えるために行われる水道や下水道の事業に伴って発生したり、いろいろな建物を建てたり壊したりするときに発生する産業廃棄物も一般廃棄物の8倍に相当する4億tが発生している。以上のような4億5000万tの廃棄物以外にも、土木建設工事に伴って出てくる建設残土、川や湾の浚渫に伴って出てくる浚渫土砂は、法律上は廃棄物とはいわれないが、どこかで処分しなければならず、その多くは埋め立てされるものである。
 このように不用のもの、どこかで処分を必要とするものは広い意味で廃棄物である。国際的に廃棄物の定義として統一されたものはないが、一般には「役に立たないもの」「不要なもの」ということで、あくまで主観的に判断され、いらないものと思うかどうかで決まる。一方、排出する人がいらないと思っても、ほかの人が必要なものはリサイクルされ有効に活用される。それらは廃棄物と呼ばれない場合もある。廃棄物の定義によってはそれらの処理や処分、減量化やリサイクルに影響する。
 ここで、日本の廃棄物処理を規定する「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」に基づいて廃棄物を分類する。廃棄物のなかで放射性物質、またはそれによって汚染されたもの、これを放射性廃棄物と呼ぶが、これは全く別の体系で管理されている。建設残土、浚渫土砂はそもそも廃棄物のなかにも入っていないし、また、生き物、動物なども廃棄物には入らないが、食物は廃棄物になりうる。このように広い意味で所有主が不要と思ったものが廃棄物の発生につながり、それが具体的に処理・処分のために排出され、収集されるという形になっていく。放射性物質を除いた廃棄物は、産業廃棄物と一般廃棄物になる。生活系廃棄物と事業系一般廃棄物を合わせたものを一般廃棄物というが、このなかにはし尿やごみ、粗大ごみなどが含まれる。産業廃棄物は燃えがらや汚泥など19種類が定義されている。
 一般廃棄物と産業廃棄物のなかで特に留意して処理しなければならないものを特別管理廃棄物と呼び、それぞれ特別管理一般廃棄物、特別管理産業廃棄物と呼んでいる。外国語でHazardous Wasteを日本語に訳すと有害廃棄物となるが、法律には有害廃棄物という言葉はない。特別管理廃棄物が最も近い意味の言葉であろう。ただ、日本で有害廃棄物というときは、有害重金属等による環境汚染の心配がある廃棄物という広い意味で使われている。
図1-1-1 廃棄物の分類(注意:原図を表に変えたため、一部不正確な表現になったところがある)



(注)










物+事






















可燃物 紙類
厨芥
繊維
木、竹類
プラスチック
不燃・焼却不適物
ゴム
金属
ガラス・陶磁器
雑物




冷蔵庫、テレビ、洗濯機等家電製品
机、タンスなど家具類
自転車
畳、厨房用具など
し尿・生活雑排水
特別管理一般廃棄物










燃えがら(石炭火力発電所から発生する石炭がらなど)
汚泥(工場廃水処理や物の製造工程などから排出される泥状のもの)
廃油(潤滑油、洗浄用油などの不要になったもの)
廃酸(酸性の廃液)
廃アルカリ(アルカリ性の廃液)
廃プラスチック類
紙くず(紙製造業、製本業などの特定の業種から排出されるもの)
木くず(木材製造業、工作物除去などの特定の業種から排出されるもの)
繊維くず(繊維工業から排出されるもの)
動植物性残渣(原料として使用した動植物にかかる不要物)
ゴムくず
金属くず
ガラスおよび陶磁器くず
鉱さい(製鉄所の炉の残さいなど)
建設廃材(工作物の除去に伴って生じたコンクリートの破片など)
動物のふん尿(畜産業から排出されるもの)
ばいじん類(工場の排ガスを処理して得られるばいじん)
上記の18種類の産業廃棄物を処分するために処理したもの(コンクリート固型化物など)
特別管理産業廃棄物
放射性廃棄物
(注) 廃棄物の処理及び清掃に関する法律に基づく廃棄物
表1-1-1 特別管理廃棄物の種類
区分

種  類
備        考









PCBを使用した部品 一般廃棄物である廃エアコン・テレビ・電子レンジから取り出されたもの、昭和51年3月17日付環境整備課長通知「PCBを含む廃棄物の処理対策について」に従い処理
ばいじん 1日当たりの処理能力が5t以上のごみ焼却施設のうち、焼却灰とばいじんが分離して排出されるものに設けられた集じん装置で捕集されたばいじん
感染性一般廃棄物 医療機関等から排出される、血液の付着したガーゼなどの、感染性病原体を含むまたはそのおそれのある一般廃棄物









廃油 産業廃棄物である揮発油類、灯油類、軽油類
廃酸 水素イオン濃度指数(pH)が2.0以下の廃酸
廃アルカリ 水素イオン濃度指数(pH)が12.5以上の廃アルカリ
感染性産業廃棄物 医療機関等から排出される、血液、使用済みの注射針などの、感染性病原体を含むまたはそのおそれのある産業廃棄物








廃PCB等・PCB汚染物 1991年改正前の廃棄物処理法で廃PCB等・PCB汚染物としていたものと内容は変わらない
廃石綿等 建築物から除去した、飛散性の吹付け石綿・石綿含有保温材、および、その除去工事から排出されるプラスチックシートなど大気汚染防止法の特定ばいじん発生施設を有する事業場の集じん装置で集められた飛散性の石綿など
1991年改正前の廃棄物処理法の有害産業廃棄物等 改正前の廃棄物処理法施行令別表第3の有害産業廃棄物またはしゃ断型最終処分場に埋め立てなければならないとされていた産業廃棄物(重複あり)
廃棄物処理法施行令第7条第13号の2の産業廃棄物の焼却施設から排出される燃えがら、ばいじんで判定基準を超えるもの
(注) 「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」を「廃棄物処理法」と略す。