内嶋(1996)による〔『地球温暖化とその影響』(2-5p)から〕


1 大気の温室効果
 1860年代から気象観測がヨーロッパ諸国で始まりました。その後次第に世界各国に広がり、いまでは気象観測網が全地球をカバーしています。それらのデータによると、1961〜1990年にいたる30年間の地球平均気温はほぼ15℃です。しかし、物理的な式を用いて大気をもたない裸の地球の温度を計算すると、驚くほど低いマイナス18℃がえられます。これでは地球上のすべてが凍てついて、とても生物はすめません。しかし、実際は約15℃で、裸の地球より33℃も高くなっています。
 地表近くの地球平均気温が33℃も高くなっているのは、地球が大気という毛布で包まれているからです。大気という毛布の保温効果を、花や野菜類を栽培する温室の保温効果になぞらえて、一般に大気の温室効果とよんでいます。でも実際の温室の保温効果は、ガラス壁やプラスチック膜で内部の暖気が外部へ逃げないためです(これはネズミ取り理論とよばれることがあります)。しかし、古くから大気の温室効果とよばれていますので、そのまま使うことにします。
 では、なぜ大気は温室効果を発揮して地球を暖めてくれているのでしょうか。それは大気を構成しているガス成分に原因しています。よく気象の教科書に示されている大気の化学組成を示すと表1.1のようになります。大気の成分は2つに大別することができます。場所や季節などでほとんど変化しない準定常成分とよく変化する変動成分とがそうです。表1.1に示されているように、窒素ガス・酸素ガス・アルゴンなどの準定常成分が大気のほとんどを占めています。一方、大気中で刺身のつまほどの量もない変動成分には、水蒸気・二酸化炭素・メタン・フロン類などがあります。
表1.1 大気の化学組成
ガス 分子量 容積比(%)
準定常成分
窒素(N2 28.02 78.11
酸素(O2 31.99 20.95
アルゴン(Ar) 39.94 0.93
ネオン(Ne) 20.18 18.2×10^(-4)
ヘリウム(He) 4.00 5.2×10^(-4)
クリプトン(Kr) 83.80 1.1×10^(-4)
キセノン(Xe) 131.3 0.09×10^(-4)
熱力学的にアクティブな変動成分*
水蒸気(H2O) 18.00 0〜7
二酸化炭素(CO2 44.00 平均0.036
メタン(CH4 16.04 0.00017
一酸化ニ窒素(N2O) 44.02 0.5×10^(-4)
オゾン(O3 47.99 平均4×10^(-4)
フロン類 2.8〜4.8×10^(-8)
* 温室効果ガス
 大気中の準定常成分も変動成分も、約1.5億キロメートル離れた太陽から地球へやってくる日射エネルギーに対してはほぼ透明です。そのため日射は大気層を透過して効率よく地球表面へ達し、地球を暖めたり、光合成作用に使われたりしています。暖まった地球表面上のすべてのものは、その温度に応じて人の目に感じない光の形でエネルギーを外部へと出しています。この目に感じない光は赤外線とよばれ、その光の波長は3.0から数十マイクロメートルの範囲に広がっています(1マイクロメートルは1000分の1ミリメートル)。その様子が図1.1(略)に示されています。
 大気中の準定常成分は、この目に感じない赤外線に対してもほとんど透明ですが、刺身のつま的な変動成分は赤外線エネルギーをよく吸収し、ガス自身の温度に応じて再び放出するという特異な性質をもっています。地球表面から放出される赤外線エネルギーに対する準定常成分と変動成分の物理的性質の違いが、大気の温室効果の原因なのです。このように赤外線エネルギーを吸収して再び放出するガスは、温室効果ガスとよばれています。』