宇沢(1995)による〔『地球温暖化を考える』(7-9p)から〕


 地球温暖化の原因
 このように、地球温暖化は、世界の自然環境を大きく変えて、将来の世代にわたって大きな被害を与えますが、それは人類の活動によってひこおこされたものです。地球温暖化の原因は主として化石燃料の大量消費です。石炭、石油、天然ガスという化石燃料を燃焼すると、二酸化炭素が大量に放出されます。ところが、二酸化炭素は、大気の温度を高めて、地表全体をあたためる役割をはたします。このような物質を温室効果ガスといいます。もし大気中に温室効果ガスがまったく含まれていないとすると、地表の平均気温は零下18度にまで下がってしまってとても生物が生存することができなくなってしまいます。温室効果ガスはごく微量ですが、大気中にちょうどぐあいのよい量だけ含まれ、地球の平均気温が15度に保たれていて、美しい自然がつくられ、生物が快適に生きていくことができるのです。
 ところが、産業革命以来、人類は、石油、石炭をはじめとする化石燃料を地中深くから大量に掘り出して、それを燃やして、大気中に放出しています。
 化石燃料というのは、数千万年から数億年前に、地球上に繁茂していた植物が枯死し、炭化して、地中深く貯蔵されてきたものです。人類は、それを毎年大量に掘り出して、燃やして、二酸化炭素のかたちで大気中に放出しているわけです。つまり、数千万年、あるいは数億年というながい時間をかけて地中に固定化されてきた炭素を、毎年非常に速いペースでふたたび大気中に放出していることになります。

 大気中の二酸化炭素の濃度が上がっているのは、化石燃料の燃焼だけでなく、熱帯雨林の伐採にも、その原因があります。現在世界には約3600万平方キロメートルの森林がありますが、この数年間、毎年、20万平方キロメートル近くが消滅しています。そのほとんどが熱帯雨林です。焼き畑耕作、居住地の建設、材木の伐採など、原因はいろいろありますが、いずれも、大気中の二酸化炭素の濃度を高める結果となっています。
 年々大気中に蓄積される二酸化炭素のうち、約4分の3が化石燃料の燃焼によるもので、残りの4分の1が熱帯雨林の伐採によるものと推計されています。
 熱帯雨林の消滅は、その周辺に住み、熱帯雨林から生み出されるさまざまな資源を生活の糧としている人々にとって、生存の基盤をおびやかすものとなっています。また、熱帯雨林のなかには、地球上に生存する生物種の大部分が存在するといわれています。そのなかで、分類されて、学名をつけられている種はほんの一部でしかありません。熱帯雨林の消滅によって生物種の多様性が失われることは、地球上の生命が、ながい進化の過程を経てつくりだし、まもってきた貴重な遺産を永久に失ってしまうことを意味します。

 地球温暖化は、たんに平均気温の上昇、あるいは気候条件の大きな変化という問題だけでなく、現代文明のあり方とも重要なかかわりをもち、人間の生き方について大きな問題をつきつけるものです。
 この書物では、地球温暖化という現象について、くわしく掘り下げて考えるとともに、地球温暖化を防ぐために、どのような手段が考えられるかを分析したいと思います。そして、20世紀文明のあり方をふりかえってみて、新しい世紀に向かって、私たちがどのような展望をもつことができるのかを皆さんと一緒に考えていきたいと思います。』