技術戦略マップ(エネルギー分野)〜超長期エネルギー技術ビジョン〜  http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g51013a41j.pdf
 経済産業省による(2005年10月)。109p。
産業構造審議会産業技術分科会研究開発小委員会(第13回)  配付資料-配付資料(資料4−1 技術戦略マップ(エネルギー分野)〜超長期エネルギー技術ビジョン〜(PDF形式:3,238KB) )  http://www.meti.go.jp/committee/materials/g51013aj.html



【@将来時点における制約条件を仮定】
〔世界の資源制約〕

●石油生産量のピーク(2050年と仮定)
●天然ガス生産量のピーク(2100年と仮定)
〔世界の環境制約〕
●GDP当たりのCO2排出原単位(CO2排出量/GDP)を、1/3(2050年)、1/10以下(2100年)に改善
〔我が国の検討条件〕
●生産量ピークの想定時期までに、他のエネルギーと互換可能な状態とする。
●同等の改善率でCO2排出原単位を改善。(将来に亘って世界をリード)
【A極端なエネルギー構成によるケーススタディ】
〔ケースA〕石炭等の化石資源と二酸化炭素回収・隔離の最大利用ケース
〔ケースB〕原子力の最大利用ケース
〔ケースC〕再生可能エネルギーの最大利用と究極の省エネルギー実施ケース
【B分野毎に求められる技術スペックの洗い出し】
例)効用が増大する中、民生、運輸、産業の各分野では、
●転換分野からの供給が必要なエネルギー(単位当たり)を、70〜80%削減。
(※必要エネルギー量がGDPに比例して増大した場合を基準)等
【C技術スペックの実現に必要となる主な技術メニューを分野別ロードマップに時間軸展開】

要約

1.今般のエネルギー分野の技術戦略マップは、2100年までの長期的視野から、地球的規模で将来顕在化することが懸念される資源制約、環境制約を乗り越えるために求められる技術の姿を逆算(バックキャスト)することによって描き出した。これは、長期を見据えた研究開発の重点化や、ポスト京都議定書の国際枠組み等の長期的地球的視野からの議論への貢献を目的としたものである。(副題「超長期エネルギー技術ビジョン」)

2.本検討では、将来の制約条件を仮定し、エネルギー構成のケーススタディを通じて、民生、運輸、産業、転換の各分野が満たすべき最も厳しい技術スペックを洗い出した。

【制約条件の仮定】
〔世界の資源制約〕 石油が生産量のピークを迎える(2050年と仮定)
天然ガスが生産量のぴオークを迎える(2100年と仮定))
〔世界の環境制約〕 GDP当たりのCO2排出原単位(CO2排出量/GDP)を、
2050年に1/3、
2100年に1/10以下
〔我が国の検討条件〕 各資源の生産量のピーク想定時期までに、他のエネルギーと交換可能な状態とするとともに、将来に亘って世界をリードし続けるとの考えから、同等の原単位改善率を条件として検討を行った。


【極端なエネルギー構成によるケーススタディ】
〔ケースA〕石炭等の化石資源と二酸化炭素回収・隔離の最大利用ケース
〔ケースB〕原子力の最大利用ケース
〔ケースC〕再生可能エネルギーの最大利用と究極の省エネルギー実施ケース

【分野毎に求められる技術スペック(2100年の概観)】
(民生分野) ○「効用」がGDP比例で増大する中、転換分野からの必要エネルギー量を80%削減(世帯、床面積当たり)
○電化・水素化率を100%
(運輸分野) ○「効用(≒人・km、トン・km)」がGDP比例で増大する中、必要エネルギー量の70%削減相当(※自動車では80%削減相当)の燃費改善
○電化・水素化率を100%(飛行機等を除く)
○資源制約解消に必要なタイミングでの燃料転換
(産業分野) ○「効用(≒製造量×製品の価値)」がGDP比例で増大する中、必要エネルギー量を70%削減(効用当たり)
○資源制約解消に必要なタイミングでの原燃料転換
(転換分野) ○需要分野の必要エネルギー量を各ケースにて不足なく供給


3.将来に求められる技術スペックを実現するために必要となる主な技術メニューを時間軸に沿って分野別ロードマップとして整理した。

〔主なポイント〕
【民生分野】
 民生分野における技術スペック実現のためには、(1)今後新たに出現する機器を含めてできる限り省エネ(2)太陽光等の身の回りのエネルギーを使って創エネを実施する。(1)と(2)を究極まで進めることで、転換分野からのエネルギーに頼らない自立化が可能となる。また、再生可能エネルギーによる創エネルギーをその時々の状況に応じてネットワークを通じて融通、さらには分散貯蔵して最大限に活用する。

【運輸分野】
 運輸分野の技術スペック実現のためのパスは「省エネルギー」と「燃料転換」が主要な柱となる
 機器単体の省エネルギーでは、(1)駆動・推進システムの高効率化と(2)移動体(車体、船体、機体)の軽量化が重要。
 燃料転換では、(1)石油消費削減のため天然ガスや石炭を原料とする合成燃料の導入、(2)カーボンニュートラルなバイオマス由来燃料の導入、そして究極的には(3)使用時にCO2を排出しない水素または電気への転換が重要。

〔自動車〕
 自動車の主流は、内燃機関従来車→内燃機関ハイブリッド車→燃料電池ハイブリッド車と移り替わり、電気自動車は短距離走行が主体の小型車を中心に使用される。内燃機関用の燃料は、2050年までに石油から合成液体燃料主体に移行する。移行の過程では、石油系燃料と合成燃料が混合利用される。

【産業分野】
 素材系の物質生産(物質転換)部門において投入されたエネルギーは、
@物質中に化学エネルギーとして保存されるもの
A燃焼過程等でエクセルギー損失となるもの
Bプロセスでの廃熱、の3つ。

投入したエネルギー 化学プロセス @物質中に保存 →物質エネルギーとして再利用(物質エネルギー再生)
Aエクセルギー損失 →電力・水素として回収(コプロダクション)
B廃熱 →プロセス廃熱を少なくする(省エネ)


〔製造プロセスにおけるエネルギー利用の高度化〕『うまくつくる』
 AとBの製造プロセスに必要なエネルギーの削減を目指す。

(※)コプロダクション:
 例えば、化石燃料を用いる場合であってもガス化プロセスによって熱/電気/水素等を高効率に取り出すことができる。従来の生産プロセスでは失われていたエクセルギーを電力または水素として回収することができることから、同じ原材料を投入した場合には、あたかも物質に加えてエネルギーを併産しているように見ることができる。

〔物質エネルギーの再生〕『上手につかう』
 @のように製品(物質)は自らの中に化学エネルギーを保存しており、製品が社会での使命を終えたあと、この@のエネルギーを物質あるいはエネルギーとして再生させる。

(※)物質エネルギーの再生:
 例えば、化学品では、製造時必要とするエネルギーの60%以上を物質として保有しており、使用済み製品のガス化による原材料としての利用やエネルギーの生産等が可能。

〔産業分野共通技術〕
 炭素(C)を物質として利用する業種を中心として、バイオマスや廃棄物は貴重な原料・燃料となるため、物質のマネジメント技術も必要となる。

【転換分野】
 エネルギー需要を効率的かつCO2排出原単位改善を図りつつ満たすため、以下の3つの技術群の備えが必要。

(化石資源の効率的利用)
 石油ピークに備えて天然ガスへの燃料転換、さらには資源量が比較的豊富な石炭への燃料転換を行う。石炭等の資源も有限であるため、発電(転換)効率向上など化石資源利用の高効率化が重要であり、ガス化発電(燃料製造)技術、燃料電池と複合した高効率発電技術が必要となる。同時に、CO2排出を伴うため、CO2回収・隔離(CCS)技術が必須となる

(原子力利用技術)
 核燃料資源の有効利用が必要であり、現状の軽水炉の効率向上ともに、核燃料サイクルの確立が必須となる。

(再生可能エネルギー利用技術)
 太陽、地熱、風力、バイオマスなどの再生可能エネルギーによる発電(転換)効率向上が重要。太陽や風力などの設備利用率は低く、大きな設備容量を必要とするため、設置を容易にする技術も必要。また、自然エネルギーは気象条件等に左右され、需給の双方が変動するため、大規模な蓄エネルギー技術や系統制御(エネルギーマネジメント)などのネットワークシステム技術の確立が必須となる。

【分野横断的な事項】
 分野横断的な技術は、技術が実現すると、その効果を発揮できる可能性が高く、その応用分野も広く需要な技術と成り得る可能性があると考えられる。
 (例)省エネ技術、エネルギー貯蔵技術、パワーエレクトロニクス技術、ガス化技術、エネルギーマネジメント技術 等

●3つのケースの技術が融合した社会イメージ(起こり得る可能性が高い社会像)

 我が国では、現状では国内でのCO2の地中隔離には量的限界があり、環境影響評価と社会的合意獲得の面で課題を乗り越える必要のある海洋隔離を想定しなければ量的には不十分であり、また化石資源の有限性を考えるとケースAは長期的な解決とはなり難い。よって、短中期的には必要に応じてCO2回収・隔離により急激な気候変動を回避し、長期的に見れば再生可能エネルギーを最大限活用しつつ、省エネを究極的に行い(ケースC)、原子力を安定的に運転していく(ケースB)ことが持続的な社会としては望ましい組合せと考えられる。ただし、このような各ケースの評価、組合せは今後の情勢等によって変わり得るものであり、技術的な備えとしては、将来の各時点における社会経済情勢、技術の進展状況等を見つつそれぞれの研究を進めていくことが重要である。

4.今後の課題
●短・中期的な視点からの検討の実施
●重要技術等の検討の深化


目 次

目 次................................................................................................................ 1
1.はじめに..................................................................................................... 2
2.技術戦略マップ策定に係る基本的考え方と検討の枠組み.......................... 3
 (1) 基本的考え方............................................................................................ 3
  @エネルギー分野における基本的認識
  A検討の特徴
  ●エネルギー分野における基本的認識
  ●逆算(バックキャスト)による技術戦略の検討
 (2) バックキャストによる検討の枠組み........................................................ 6
  @ 将来展望に基づく制約条件の仮定......................................................... 6
   1)資源制約
   2)環境制約
  ●将来展望の概観
   1)世界の人口・経済の将来展望
   2)世界のエネルギー消費の将来展望
   3)世界の化石燃料生産の将来展望
   4)CO2排出量のシナリオ
  ●我が国における効率の現状とこれまでの推移
  A 将来のエネルギー構成に係る想定....................................................... 10
   ケースA:石炭等の化石資源と二酸化炭素回収・隔離の最大利用ケース
   ケースB:原子力の最大利用ケース
   ケースC:再生可能エネルギーの最大利用と究極の省エネルギー実施ケース
  ●技術シナリオとしての3つのケースの設定
  ●ケースごとの特徴とエネルギー構成のイメージ
    【ケースA(石炭等の化石資源と二酸化炭素回収・隔離の最大利用ケース)】
    【ケースB(原子力の最大利用ケース)】
    【ケースC(再生可能エネルギーの最大利用と究極の省エネルギー実施ケース)】
  B需要側から見た分野による検討............................................................ 15
  ●分野毎の特徴
    【民生(業務・家庭)分野の特徴】
    【運輸(自動車)分野の特徴】
    【産業分野の特徴】
    【転換(発電・水素製造)分野の特徴】
3.分野別ロードマップ.................................................................................. 17
 (1) 制約条件から分野毎に求められる技術スペックの概観(2100 年)...... 17
   〔2100年において求められる主要な技術スペック〕
  ●極端なケースによって各分野に求められる技術スペックの概観
    【ケースA:石炭等の化石資源と二酸化炭素回収・隔離の最大利用ケース】
    【ケースB:原子力の最大利用ケース】
    【ケースC:再生可能エネルギーの最大利用と究極の省エネルギー実施ケース】
  ●2050年、2030年に求められる技術スペックの考え方
 (2) 分野別ロードマップ............................................................................... 22
    (資料1)分野別ロードマップ概要(民生、運輸、産業、転換)
    (資料2)分野別ロードマップ(民生、運輸、産業、転換)
 (3) 分野別ロードマップにおける主要なポイント........................................ 22
    【民生分野】
     (省エネ)
     (創エネ)
     (エネルギーマネジメント)
    【運輸分野】
     (機器単体の省エネルギー)
     (燃料転換)
     〔自動車〕
     〔船舶、航空機、鉄道〕
     〔交通システム〕
    【産業分野】
     (製造プロセスにおけるエネルギー利用の高度化『うまくつくる』)
     (物質エネルギーの再生『上手につかう』)
     (少ない資源での製品製造によるエネルギー削減『良いものをつくる』)
     〔製鉄〕
     〔化学〕
     〔セメント〕
     〔紙パ〕
     〔産業分野共通技術〕
    【転換分野】
     (化石資源の効率的利用)
     (原子力利用技術)
     (再生可能エネルギー利用技術)
    【分野横断的な事項】
     (省エネ技術)
     (エネルギー貯蔵技術)
     (パワーエレクトロニクス技術)
     (ガス化技術)
     (エネルギーマネジメント技術)
  ●その他
  ●3つのケースの技術が融合した社会イメージ(起こり得る可能性が高い社会像)
   〔補足〕技術スペック達成による実現イメージ
4.今後の課題................................................................................................ 30
 (1) 短・中期的な視点からの検討の実施...................................................... 30
 (2) 重要技術等の検討の深化........................................................................ 30
5.おわりに................................................................................................... 31

分野別ロードマップ概要(資料1)

1.はじめに
 経済産業省は、平成17年3月に産学官の協力の下、研究開発投資の戦略的企画・実施のナビゲーターとも言うべき、「技術戦略マップ」を策定した。「技術戦略マップ」は、製品・サービスの需要創造のための方策を示した「導入シナリオ」、ニーズの実現に必要な技術を示した「技術マップ」、技術目標を時間軸に沿って示した「ロードマップ」から構成されており、情報通信、ライフサイエンス、環境、製造産業における20分野で策定した。
 今般、技術マップとロードマップから構成されるエネルギー分野の技術戦略マップのとりまとめを行った。
 今般のエネルギー分野の技術戦略マップは、2100年までの長期的視野から、地球的規模で将来顕在化することが懸念される資源制約、環境制約を乗り越えるために求められる技術の姿を逆算(バックキャスト)することによって描き出した。これは、長期を見据えた研究開発の重点化や、ポスト京都議定書の国際枠組み等の長期的地球的視野からの議論への貢献を目的としたものである。(副題「超長期エネルギー技術ビジョン」)
 本マップの策定にあたっては、エネルギー総合工学研究所に設置された超長期エネルギー技術研究会において原案が作成された。本研究会には、産学官の知見を結集し、大学、民間企業(製品、部品、材料、装置メーカー等)、経済産業省(資源エネルギー庁、原局原課及び産技局)、NEDO、(独)産業技術総合研究所等が参画した。また、産業構造審議会産業技術分科会研究開発小委員会(委員長:西尾茂文東大副学長)にて審議願った。

5.おわりに
 本技術戦略マップは、官民における研究開発の戦略、内容等を検討するための参考として、経済産業省のホームページに掲載する等して幅広く情報提供を行う。
 また、今回の長期的な視点からの逆算(バックキャスト)による手法でとりまとめを行った超長期エネルギー技術ビジョンについて、今後の長期的、地球的規模の問題に対する国際枠組みの議論等に活用していく。さらに、今後、現状からの延長(フォアキャスト)による検討を行うなど、完成度を高めていくことによって、我が国の研究開発マネジメントのインフラとして存分に活用していくこととしたい。


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