一國(1989)による〔15-16pから〕


3.2 天然における風化速度
 天然において進行している風化の速度を見積ることは以前から試みられてきた。これまでの方法では、比較的小さい集水域を対象に、個々の元素について外界から降下物として、また耕作地があれば肥料などとして供給される量Qinとその集水域から河川水・地下水に含まれて流れ出す量Qoutを求め、その差Qout−Qinをもって風化量としてきた。
 このようにすれば、その地域の単位時間当りの風化量は求められるが、その結果を直接に実験値と比較することはできない。これは実験値が mol m^(-2) s^(-1) という単位で表されているためである。野外における測定から得た風化量Qout−Qinをこの単位に換算するためには次の操作が必要である。
 @ 実験値は特定の鉱物について求められているので、集水域に分布する岩石の鉱物組成を明らかにし、その中の特定鉱物の風化に相当する量を求める。
 A 目的とする鉱物が水と接触している表面積を求める(単位体積の岩石のもつ表面積と鉱物組成から計算するが、岩石にき裂があるかないかでその結果は大きく変動する)。
 B 雨水が地下に浸透してから河川水・地下水として集水域を離れるまでの時間(平均滞留時間)を見積る。この時間が反応時間に相当する。
 Paces(1983)は、チェコスロバキアのTrnavka河とElbe河の集水域におけるNaの物質収支から灰曹長石の溶解速度として5.2×10^(-15)〜6.8×10^(-13) mol m^(-2) s^(-1) の値を得て、この地域における溶解速度は10^(-14) mol m^(-2) s^(-1) とみるのが妥当と判断した。この値は、BusenbergとClemencyが灰曹長石からのNaの溶解に対して与えた1.7×10^(-12) mol m^(-2) s^(-1) よりもかなり小さい。このような大きな差ができた理由として、風化を受けた鉱物表面の歴史が実験材料のものと異なること、帯水層の温度、CO2分圧とも実験条件の25℃、1atmよりも小さいことをあげている。
 Paces(1983)はまた風化が種々の人間活動によって加速されることを指摘し、例として農業生産活動が風化速度を5倍も大きくしたと述べている。人間活動が地殻の風化に影響を与えていることはよく知られた事実である。酸性雨はその典型的な例であろう。』