加藤・歌田(1985)による〔『粘土の事典』から、378-380p〕


『地表または地表付近で、大気、地表水などの関与の下で岩石の色、組織、組成、固結度などが変化する作用をいう。機械的な破壊によって岩石が細かい破片に割れる物理的風化作用(physical weathering)(または機械的風化作用(mechanical weathering))と構成鉱物の溶解や変質のような化学変化によって最終的にもろい軟らかい物質(土)へと変化する化学的風化作用(chemical weathering)に区分することができるが、一般には両者は相伴って進行する。物理的風化は、温度変化の激しい高山地方などで、熱膨張係数の異なる造岩鉱物の間に亀裂を生じる作用、割れ目に浸透した溶液が氷結したり、植物の根のくさび作用などにより、岩石が細粒化する作用である。一方、化学的風化は、ほぼ常温常圧、またはほぼ一定の酸素および二酸化炭素フュガシティーの下で、造岩鉱物が酸化、水和、溶脱で特徴づけられる化学変化を受けることであり、特に水の働きが重要である。
 風化作用の状況は気候条件により氷河気候型乾燥気候型湿潤気候型に分けられる。氷河気候型では地表付近の溶液が凍結しているため化学的風化の進行が遅く、物理的風化が優勢である。相対的に侵食が進むため一般に厚い風化殻は形成されない。乾燥気候型も物理的風化が卓越するが、蒸発が盛んなため地表水の総イオン量が大きく、pHも大きいものが存在し、流通系も異なるので、化学的風化は他の型とは異なるものがみられる。風化殻には溶脱帯とともに明らかな集積帯が認められる。湿潤気候型では化学的風化が物理的風化よりも卓越し、厚い風化殻が形成されやすい。風化の進行は、一般には雨量が多く温度も高い熱帯多雨地域で最も速く、寒冷地域では遅いが、水の地中への浸透の早いことも風化を促進する。
 岩石を構成する鉱物の化学的風化作用に対する抵抗力をみると、一般に硫化物、炭酸塩などに比して珪酸塩のほうが抵抗力が強く、さらに酸化物のほうが抵抗が強い。また珪酸塩の中では、マフィック鉱物はかんらん石→輝石→角閃石→黒雲母、フェルシック鉱物はCa長石→Na長石→K長石→白雲母→石英の順で抵抗力が強く、マグマからの晶出順序と逆になる(Goldichの風化に対する安定系列)。
 化学的風化作用によって増加する成分はH2O(+および−)とFe3+で、水和酸化が重要な化学変化であることを示している。それに対し、溶解・溶脱によってもっとも減少しやすい(可動性の高い)グループはNa、Mg、Caであり、K、Siの順に続き、Al、Fe3+がもっとも減少しにくい(多くの場合、他の成分の減少の結果相対的に増加する)。この順序は、風化環境下の水のpH(普通4〜8)での各元素の水酸化物の溶解度(元素のイオンポテンシャル=イオン半径/陽荷電と関係する)、コロイド(二次鉱物)への吸着・固定、共存するCO32-イオンの影響などによって決まる。化学的風化の進行の度合は上記の元素の多少に反映する。Reiche(1943)は岩石の分析値より下式により計算される風化ポテンシャル指数(weathering potential index)により風化の程度が表されるとした。
WPI=100(K2O+Na2O+CaO+MgO−H2O+)/(SiO2+Al2O3+Fe2O3+TiO2+FeO+CaO+MgO+Na2O+K2O)
また、このような元素の動きに基づいて風化の進行を次の5つの段階に分けることができる。
@塩類段階 遊離の易溶性塩類(おもにNa)の存在、
A炭酸塩段階 遊離の炭酸塩(おもにCa)の存在、
B飽和シアリット粘土段階 2:1型粘土鉱物が塩基(おもにCaイオン)で飽和している、
C不飽和シアリット段階 同粘土が塩基不飽和である、
D不飽和アリット粘土段階 1:1型粘土鉱物やAl、Feの水酸化物を主とする。
各段階の間には漸移型がある。@はA、Bを、またAはBを同時に兼ねる。BからDに向かうにつれ、粘土鉱物の珪ばん比(SiO2/Al2O3)が減少する。これらの各段階は、いわば、生物の系統発生のそれのようなもので、個々の岩石の化学的風化(いわば、生物の個体発生)はそれぞれの環境条件(気候、排水状態、母岩の岩質)に応じた段階を最終到達点とし、それまでの過程でそれ以前の段階を通るという傾向がある(いわば、個体発生は系統発生を繰り返す)。たとえば、日本のような温帯多雨地域ではCとDの中間段階を最終とするが、風化の初期には高pH、高塩基飽和、2:1型粘土鉱物といったBにあたる段階が見られる。風化の後期になると次第に最終段階に近づいていく。ただし、マクロの視野では、@、Aが認められない。
 個々の岩石の化学的風化の進行(いわば個体発生)の度合は風化物の粘土含量(陽イオン交換容量、CEC)、水分量、遊離酸化鉄の量(土色の褐色味)の増加によって示される。これと前述の化学的風化段階の進行(いわば系統発生)の度合とを指標として岩石の化学的風化度を区分することがある。特に花こう岩ではその研究例が多く、粘土鉱物種の変遷も重要な指標となっている。
 化学的風化段階の進行は狭い地域内でも一様ではない。ひとつの風化断面では上位ほど、斜面上では上部ほど、年代の古い地形面上の風化物ほど、母岩が塩基成分(Ca、Mgなど)に乏しいほど、それぞれ、進行の度合が大きい。
 化学的風化によって生成する新鉱物(二次鉱物、secondary mineral)には次の3つの場合がある。
@岩石あるいは一次鉱物から遊離した陽イオン成分が水溶液中の陰イオンと結合して難溶性の沈殿物(水酸化物、硫酸塩、炭酸塩など)を生成する。
A遊離した成分相互が結合し沈殿する。
B一次鉱物が結晶構造の大わくをそのまま残して粘土鉱物に変化する。
Cいったん生成した粘土鉱物が消滅して他の粘土鉱物が生まれる。
例として、@では方解石、ゲータイト、ギブサイト、Aでは珪酸塩粘土鉱物の大部分、Bでは雲母を出発点として、加水雲母→バーミキュライト→モンモリロナイトへの変換などが挙げられる。Cは粘土鉱物の風化系列にあたるもので、上記Bの例もこれに含まれる。この他の例として、緑泥石→緑泥石/バーミキュライト混合層鉱物、アロフェン→ハロイサイト→ハロイサイト/メタハロイサイト混合層鉱物、また記述のB→Dと風化段階の進行に伴う2:1型粘土鉱物から1:1型粘土鉱物およびギブサイト、ゲータイトへの変化などがある。
 化学的風化作用によって生成する粘土鉱物は熱水変質や続成作用によるものに比べて、結晶度が低い、複雑な不規則混合層鉱物(中間型粘土鉱物)が多い。アルミニウムを層間複合体とする2:1型粘土鉱物(緑泥石・バーミキュライト中間体など)がC以降の風化段階で普通に見られる、多種類が共存する、非晶質鉱物がしばしば存在する、といった特徴を有する。これが化学的風化によってできた粘土鉱物の単離、分析、定量を困難としている。』