福岡(2000)による〔『「風化と環境」研究会』発表会資料〕
表1 地質作用のなかの風化作用とそれに関連する諸作用との関係
2000年12月20日
「風化とは何か」を考える@
総合科学部 福岡正人
『風化(weathering)』という言葉は、地球表層における現象を取り扱う場合にしばしば用いられる。正確には『風化作用(weathering
process)』という地質学的な『作用』の一つであり、海底においても重要な過程ではあるが、普通は陸上にある地質体がその対象とされる。温度と圧力が低い地表条件下で起こる現象であるため、その反応は非常に遅く、平衡論的にも速度論的にも取り扱いが面倒であるため、具体的な風化現象の解釈においては未解決の問題が数多く残されている。しかし、地質体(固相)−大気成分(気相)−水(液相)間での反応であり、地球表層の物質循環において重要な役割をはたしている過程である。
そこで、風化における問題を考えるにあたって、まず風化の定義およびその内容について整理をおこなうことにする。風化について、いくつかの文献から引用したものを以下に示す。
- 加藤(1970):『岩石が地表にさらされてルーズな含水物質に変化する過程。露天化作用ともいう。機械的に砕片化する物理的風化と変質して粘土を生成する化学的風化に分けられる。』
- 庄子(1984):『岩石圏の物質が地表近く、すなわち気圏、水圏、生物圏またはその近くにおいて平衡に達し、安定な状態になろうとする作用である。』
- 加藤・歌田(1985):『地表または地表付近で、大気、地表水などの関与の下で岩石の色、組成、固結度などが変化する作用をいう。機械的な破壊によって岩石が細かい破片に割れる物理的風化作用(または機械的風化作用)と構成鉱物の溶解や変質のような化学変化によって最終的にもろい軟らかい物質(土)へと変化する化学的風化作用に区分することができるが、一般には両者は相伴って進行する。』
- Wyatt[ed.](1986):『The
mechanical disintegration, solution, and chemical decomposition,
of rocks at or near the earth’s surface by the action of the
atmosphere (‘weather’). The destructive effects of plant
and animal life (e.g. rot penetration, earthworms) may be included
(‘biotic weathering’).』
- 大羽・永塚(1988):『地殻の表層にある岩石が、地表に作用するさまざまな営力によって、物理的・化学的に破壊されてルーズな含水物質を生じる作用である』。『風化(weathering)という言葉は、気象(weather)から派生したもので、もともとその内容は、地表に露出した岩石が風雨にさらされてぼろぼろに破壊されていく過程を意味するものであった。』
- 一國(1989):『地表の岩石が機械的、化学的作用を受けて細粉化される過程が風化である。風化は機械的風化と化学的風化とに区分されるが、多くの場合、これらの風化は同時に進行する。』
- 歌田(1991):『風化作用は岩石がその位置で水・大気・生物などの関与の下で性質が変っていく現象で、地表では多かれ少なかれ常にどこでもおこっている変化である。普通は陸上での変化を指し、海底での変化を含めないことが多い。風化は主として岩石を破壊し、粒径を減少させるような作用の物理的風化(または機械的風化)と、岩石を構成する鉱物組成や化学組成などを変化させる作用の化学的風化に分けられる。一般にこれら2つの風化作用は相伴って互いの進行を促進させる。』
- 木宮(1991):『風化作用とは、岩石が地表条件のもとで、気圏、水圏、あるいは生物圏の影響で変化していく現象』。『これを物理的にとらえるならば、岩石が細かく破砕されていくことであり、化学的にとらえるならば、岩石が溶解されたり、新しい物質が沈殿したりすることである。さらに鉱物学的に言えば、岩石を構成する造岩鉱物が地表条件で最も安定な鉱物に変化することである。』
- Jackson[ed.](1997):『The
destructive process or group of processes by which earthy and
rocky materials on exposure to atmospheric agents at or near
the Earth’s surface are changed in color, texture, composition,
firmness, or form, with little or no transport of the loosened
or altered material; specifically the physical disintegration
and chemical decomposition of rock that produce an in-situ mantle
of waste and prepare sediments for transportation. Most weathering
occurs at the surface, but it may take place at considerable
depths, as in well-jointed rocks that permit easy penetration
of atmospheric oxygen and circulating surface waters. Some authors
restrict weathering to the destructive processes of surface waters
occurring below 100℃ and 1kb; others broaden the term to include
biologic changes and the corrasive action of wind, water, and
ice.』
- Drever(1997):『Minerals,
particularly minerals formed at high temperatures and pressures
in the earth’s interior, are unstable in contact with dilute
waters at the earth’s surface and tend to dissolve or transform
into minerals that are more stable there. Weathering is a
general term for this transformation, including the physical
and chemical breakdown of the primary rock, and the accumulation
of secondary products as soil.』
- 中村(1998):『風化作用は、一般に化学的風化作用、物理的風化作用、生物的風化作用の3つに分類されるが、生物的風化作用の個々の作用は、植物の根による圧力のような物理的作用や、バクテリアによる鉄の酸化のような化学的作用であるので、前二者のいずれかに分類できる。また前二者も、便宜的な分類であり、相乗作用によって効果が倍加すると考えられる。』
- 関(1998):『風化とは、岩石圏の様々な深度で平衡状態にあった鉱物からなる岩石が地表(付近)に置かれ、そこでの条件のもとで気圏、水圏、生物圏と相互作用することにより岩石が変化する現象である(岩生・木村、1973;歌田、1979;一国、1989など)。この変化は全体積の増加、密度と粒径の減少、地表付近の環境で安定な新しい鉱物の生成などとなって現われる。風化作用を扱う場合、異なる風化プロセス、すなわち物理的、化学的、生物学的風化、を個別に考えると理解しやすい。』
- Bland
and Rolls(1998):『the alteration by chemical, mechanical, and
biological processes of rocks and minerals, at or near the Earth’s
surface, in response to environmental conditions』
- 秦 明徳(1999):『固体地球表面付近の岩石と雨水による間隙水、その雨水に溶存する酸素、二酸化炭素の相互作用であり、その間の物質移動は次式で表現することができる。
岩石+水+酸素+二酸化炭素→風化生成鉱物+残留鉱物+溶脱成分
このうち、風化生成鉱物の種類や溶脱成分の量比は、その岩石が風化を受けた古気候が与えた営力の強さやその継続時間によって決定される。』
上記をまとめれば、風化とは「地表付近で岩石が大気、水、生物の働きにより、そこで安定な物質に変化していく現象」となる。具体的には、物理的ないし機械的な作用と化学的作用とに分けて説明されるが、最近は生物的な作用を別に分けて説明する場合も多くなっている。それぞれの作用の内容は次のとおりである。
【物理的(physical)作用〔機械的(mechanical)作用〕】
- 『温度変化による差別的膨縮と水の凍結膨張で起こる破壊』(加藤、1970)
- 『温度変化の激しい高山地方などで、熱膨張係数の異なる造岩鉱物の間に亀裂を生じる作用、割れ目に浸透した溶液が氷結したり、植物の根のくさび作用などにより、岩石が細粒化する作用』(加藤・歌田、1985)
- 『岩石や鉱物が化学変化を受けることなく、機械的方法によって、より小さい粒子に破壊されていく過程のことで崩壊作用(disintegration)ともいう。』「除荷作用(unloading)、温熱変化(thermal
changes)、凍結破砕作用(frost shattering)、スレーキング(slaking)、塩類風化(salt
weathering)、植物根の機械的作用」(大羽・永塚、1988)
- 『温度変化による岩石の膨張と収縮、岩石のき裂中の水の凍結、岩盤上を移動する氷河による切削などによって起る岩石の粉砕の過程』(一國、1989)
- 『岩石が地表に露出すると、気温変化に伴う鉱物間の熱膨張率の違いや、水の凍結による体積膨張などにより岩石中にクラックが発生する』。『クラックが入る原因としては、前述した温度変化(日射風化)、水の凍結(凝結風化)のほかに、塩類の結晶成長(塩類風化)、乾燥と湿潤の繰り返し(乾湿風化)等がある。また、かなり重要なものとしてシーティングがある。シーティングとは、地下深部にあった岩石が地表に現れると、拘束力が減少したり、なくなったりするので岩石塊が膨張し、それに伴いクラックが発達すること』(木宮、1991)
- 『除荷作用、日射風化(熱風化)、乾湿風化、塩類風化、凍結破砕などに細分され、それらの風化の結果、岩石は破砕(disintegration)する』(松倉、1994)
- 『地下深所の高圧下にあった岩石が地表付近に現われることにより応力が開放されて生じる除荷割れ目(シーティング)、日射や温度変化に起因する岩体の歪による亀裂の発生や熱膨張率を異にする鉱物相互の分離、乾湿の繰り返しに起因する膨潤性粘土鉱物の乾燥収縮・湿潤膨張による剥離(スレーキング)、凍結融解による亀裂や剥離の進行、霜上現象による細粒化、塩類の結晶成長による盤膨れなどにより、岩石が物理的に破砕されていく、すなわち岩石の細片化のプロセスである(小島、1992;木宮、1992)』(関、1998)
【化学的(chemical)作用】
- 『岩石が水和、炭酸化、酸化、加水分解、溶解など水を中心とした接触反応で分解し、洗脱される成分と残留成分とにわかれる』(加藤、1970)
- 『(1)母材鉱物の構造の破壊、(2)易溶性成分の溶出、(3)水、酸素、二酸化炭素の鉱物への付加、(4)風化残渣と溶解成分からの新しい鉱物の生成が含まれる』、『溶解、加水分解、炭酸化合、水和、酸化、還元、キレート化、イオン交換などの反応がある。』(庄子、1984)
- 『ほぼ常温常圧、またはほぼ一定の酸素および二酸化炭素フュガシティーの下で、造岩鉱物が酸化、水和、溶脱で特徴づけられる化学変化を受けることであり、特に水の働きが重要』(加藤・歌田、1985)
- 『大気中や地表の水およびその中に溶けている物質の作用によって岩石の化学組成が変化する過程であり、分解作用(decomposition)ともいわれる。化学的風化過程作用するおもな物質は、H2O、CO2、O2、H+イオンである。』「溶解作用(solution)、加水分解作用(hydrolysis)、酸の作用、酸化作用(oxidation)、水和作用(hydration)」(大羽・永塚、1988)
- 『岩石の化学的分解のことであって、岩石が水、二酸化炭素などの作用によって地表条件下で安定な物質に変化する過程』、『水和、加水分解、溶解、酸化などの反応に分けて記述することができる』(一國、1989)
- 『岩石が地下水や空気と接触すると、次の2つの現象が同時に起こる。まず、地下水と接触することにより、@岩石中の溶解しやすい成分が溶解して水溶液となって除かれる。例えば、Cl、SO4、Na、K、Ca、Mgなどが溶解して除かれる。また、A地下水や空気中からOH基、O、CO2、SO4などを取り込む。この結果、原鉱物とは全く異なる鉱物に変化する。風化が進めば進むほど、アルカリ類の少ない珪酸に富む岩石に変化し、さらに風化が進むとSiも溶脱し、Fe、Alのみに富む岩石に変化する。これらが粘土鉱物で、強風化を受けた地域には、ボーキサイト、ラテライト、粘土鉱床などのいわゆる風化残留鉱床ができあがる』(木宮、1991)
- 『水和作用、加水分解、溶解、酸化などの諸作用によって岩石の化学的性質を変化させる。この作用による岩石の変化は分解(decomposition)と呼ばれている。化学的風化は、基本的には岩石と水との反応であるので、物質の収支を考えると、分解によって残されたものと、岩石からの溶脱(leaching)によって岩石の系から外部に運搬されるものの両者を考慮しなければならない』(松倉、1994)
- 『岩石と水、酸素や二酸化炭素を主とするガスとの反応による岩石の化学的変化であり、溶解、加水分解、炭酸化合、水和、酸化、還元、キレート化、イオン交換などがある。これらの作用により地表条件下で(準)安定な粘土鉱物の生成や岩石中の溶解しやすい化学成分の溶脱が進行し、岩石が化学的に分解される。すなわち化学的風化は岩石の粘土化のプロセスでもある(小島、1992;木宮、1992)』(関、1998)
【生物的(biological)作用】
- 『高等植物の根は岩石の割れ目に侵入し、その肥大に伴う圧力によって岩石を崩壊する。動物による土壌の穴掘、移動、混合などによって風化が促進される。土壌中の炭酸ガス濃度は植物根や土壌中の生物の呼吸によって大気中のそれに比べて著しく高い。この炭酸は水にとけて岩石鉱物の化学的風化を促進する。植物や微生物の生産する各種の有機酸やキレート化合物、また植物や微生物遺体の各種の分解産物による土壌の酸性化、金属イオンとのキレート結合は重要な生物的風化作用である。』(庄子、1984)
- 『植物や微生物の働きによって生産・分解される有機物の作用による風化であり、植物根による陽イオン交換、腐植酸類(例えばフルボ酸)のキレート作用による珪酸塩鉱物の分解、バクテリアの作る酸(例えば乳酸、シュウ酸など)によるマフィック鉱物の分解などが知られている(Chorleyほか、1995)』(関、1998)
これらの作用の働きは、破砕(おもに物理的作用)と分解(おもに化学的作用)という2つの過程に集約でき、これら両方の過程を含む現象が風化と呼べることになる。
以下に、上記の風化作用のなかの諸作用ならびに風化作用に関連する諸作用のうち、代表的なものについて掲げ、さらにこれら諸作用の関連をまとめて表1に示した。
【凍結破砕作用(frost
shattering, frost wedging, frost splitting, congelifraction, frost
weathering)】
- 『節理・層理・孔隙などの隙間に入った水の凍結によって岩石が砕片化する機械的風化作用。』(小疇、1996)
【除荷作用(unloading)】
- 『隆起や侵食あるいは氷河の後退などによって表面物質の荷重が除去されると、岩塊にかかっていた拘束圧が小さくなり、そのとき生じる内部応力は弾性膨張によって除かれる。岩石は側方が拘束されているので、上方に膨張する。岩石の膨張は破裂をひき起こす、一連の割れ目が表面と平行に形成される。このような作用を除荷作用という。また除荷作用によって生じた、地表面に平行な節理状の割れ目によって岩石が薄板または層に分割される現象はシーティング(sheeting)あるいは地形節理作用(topographic
jointing)ともよばれている。』(大羽・永塚、1988)
【スレーキング(slaking)】
- 『シルト岩や泥岩のような細粒質岩石は急激に乾燥すると収縮し、水を吸収して湿ると膨張する。たとえば夜間に岩石の表面に結ぶ露によって湿り、昼間は太陽に熱せられて乾燥すると収縮する。このような乾湿の繰り返しによって、岩石は多角形のこまかい破片に崩壊する。』(大羽・永塚、1988)
- 『乾燥した粘土や泥岩の塊が降雨などの水分を吸収し、崩れて細粒化する現象。水の浸入によって内部の間隙中の空気が圧縮され土粒子間に引張力として働くこと、土粒子が水を吸収し粒子間隔を広げ粒子間結合力が低下することが原因。』(中山・皆川、1996)
【塩類風化(salt
weathering)】
- 『暑熱の砂漠地方では、岩石の割れ目に入り込んだ溶液から水が蒸発するにつれて、溶解していた塩類の結晶成長が起る。このような塩類の結晶成長は凍結破砕作用に似た効果を岩石におよぼし、岩石を崩壊させる。』(大羽・永塚、1988)
【加水分解作用(hydrolysis)】
- 『難溶性塩類が水の作用によってひき起す分解反応で、水がH+イオンとOH-イオンに解離することによって生じる。珪酸塩の場合にも加水分解が起るが、強固なSi−O結合やAl−O結合の数が多いため、反応は結晶の表面できわめてゆっくりと進行し、しかも結合のゆるいNa−O、K−O、Mg−O、Ca−O結合との反応に限られている。』(大羽・永塚、1988)
【水和作用(hydration)】
- 『水の分子が無水鉱物に添加して、その鉱物を水和物に変える作用であり、もっとも普通に見られるのは酸化鉱物とくに赤鉄鉱(Fe2O3)と磁鉄鉱(Fe3O4)の水和作用である。』(大羽・永塚、1988)
【シアリット化作用(siallitization)】
- 『湿潤温帯における化学的風化作用の型。地表条件下で不安定な造岩鉱物の大半は分解して、SiやAlの非晶質含水酸化物になり、それらが地表で安定な構造をもった粘土鉱物(層状アルミノ珪酸塩鉱物)を生成する作用。』(松井、1996)
【アリット化作用(allitization)】
- 『湿潤熱帯の化学的風化作用の型。岩石が長期(数万年以上)にわたって深層(数m〜10m以上)まで強く風化され、大半の造岩鉱物は分解、分解産物の塩基類や珪酸の大半は溶脱、難分解性のアルミナと酸化鉄が残留・富化する作用。』(松井、1996)
【脱珪酸作用(desilication)】
- 『化学的風化作用により土壌・岩石から珪酸が失われていく作用。高温多湿な熱帯気候下では、石英を除く珪酸塩鉱物が激しい風化を受け、中性付近のpH条件下で珪酸塩の加水分解が進行、浸透水により可溶性メタ珪酸が溶脱する。同条件下では鉄やアルミニウムは残留、鉄アルミナ富化作用が進行する。』(加藤・永塚、1996)
【ラテライト化作用(laterization)】
- 『かつては、熱帯地方の鉄・アルミニウムの酸化物や水酸化物に富んだ赤色土壌(ラテライト性土壌)が生成する過程に対して用いられたが、今日では、このような土壌生成過程に対しては鉄アルミナ富化作用という用語を採用。ラテライト化作用は土壌生成作用を表す用語としては用いられず、プリンサイトが日光に照射されて不可逆的に硬化し、ラテライト皮殻が形成される過程に限定して用いられる。』(松井・永塚、1996)
【深層風化(deep
weathering)】
- 『岩石が地下深くまで風化を受ける現象。その深度は100mに達することも多い。日本では花崗岩の深層風化が顕著で、構造的破砕作用と地下水の影響が大きいと考えられている。』(高浜、1996)
【土壌生成作用(pedogenic
processまたはsoil forming process)】
- 『生物および有機物の存在下において、母材から層位分化した一定の形態的特徴をそなえた土壌体が生成される過程』。『風化作用と土壌生成作用のおよんでいる深さが等しい場合には、土壌生成作用はつねに風化作用を伴っている。一方、風化作用は岩石の内部深くまでおよびことができ(深層風化)、土層とは全く独立に岩石の破砕をひき起すこともある。このような場合には、岩石の深部では風化作用は進行しているが、土壌生成作用は進行していない。すなわち、風化作用は必ずしも土壌生成作用を伴うものとは限らないが、土壌生成作用は必ず風化作用と相互に関連しながら進行するものであって、風化作用よりも高次な運動形態である。』(大羽・永塚、1988)
- 『基礎的土壌生成作用は、(1)初成土壌生成作用、(2)土壌熟成作用、(3)粘土化作用(シアリット化作用)、(4)褐色化作用、(5)鉄アルミナ富化作用(セラリット化作用)、(6)腐植集積作用、(7)泥炭集積作用、(8)塩類化作用、(9)脱塩化作用、(10)塩基溶脱作用、(11)レシベ化作用(粘土の機械的移動)、(12)ポドゾル化作用、(13)水成漂白化作用、(14)グライ化作用、(15)擬似グライ化作用、(16)均質化作用。その他バーティソル化作用や鉄質化作用などを挙げる場合もある。』(松井・永塚、1996)
【鉄アルミナ富化作用(ferrallitization)】
- 高温・多湿の熱帯気候下で、塩基類や珪酸が溶脱し、鉄やアルミニウムの酸化物が相対的に富化する土壌生成作用。』(永塚、1996)
【削剥作用(denudation,
erosion)】
- 『地表面を外因的に削り取る作用。風化や溶食・雨食・風食・雪食・氷食・河食・波食などを含む。』(松井・志岐、1996)
【浸食作用(erosion)】
- 『地球の表面が雨・流水・風・波・雪・氷河などの外因的営力で削られる作用。』『それぞれの営力に対応して、雨食・河食(水食)・風食・波食(海食)・雪食・氷食という。以上は主として機械的な浸食作用であるが、雨水や地下水の溶解作用による浸食は溶食という。』(木村・野村、1996)
【溶食作用(corrosion)】
- 『広義には、岩石・土壌が天然水に接触したとき、溶解・加水分解・水和などによって化学的におかされる作用の総称。』『狭義の溶食作用はカルスト地形の形成作用を指す。溶食作用を化学的風化作用とするか浸食作用とするかの議論があるが、後者とするのが普通。溶食作用が継続するためには、溶解した物質が外部に運び去られることが前提となるので、溶食作用は風化作用と浸食作用を同時に含むとの解釈も可能。』(平山、1996)
【雨食(rain
wash)】
- 『雨水による地表面の浸食作用。雨洗、洗食とも。雨滴が地面に直接落下して土粒子を飛ばす雨滴浸食と、雨水が地表を流れ始めるときに進行する小規模な初期の流水浸食がある。』(小池、1996)
【雪食作用(snow
erosion, nivation)】
- 『雪が存在することによって発生したり加速されたりする風化・浸食作用の総称。その作用には、夏遅くまで残る積雪の縁辺・底部で起こる風化作用・ソリフラクション・洗い流しや、残雪が存在した結果生じた裸地で起こるソリフラクション・雨水浸食・小土石流・多雪地で融雪期に起こる残雪のクリープによる浸食、さらには底雪崩による浸食も含まれる。』(岩田、1996)
【流水浸食(fluvial
erosion)】
- 『河食ともいわれ、川を流れる水の浸食作用。』『岩屑は研磨材の働きをするので、これを含む流水は硬い岩盤でも容易に浸食する。』(小池・木曽、1996)
【磨食作用(corrasion)】
- 『水や氷が河川や氷河となって移動するときに行われる』。『一般には地質学的侵食作用に属すものとみなされており、機械的風化作用とは区別して考えられている。』(大羽・永塚、1988)
- 『河流が谷壁や河底に突き当たり、機械的に削り去る作用。』(荒巻、1996)
【研磨作用(wind
abrasion)】
- 『風で運ばれる砂』による。『一般には地質学的侵食作用に属すものとみなされており、機械的風化作用とは区別して考えられている。』(大羽・永塚、1988)
【風食(wind
erosion)】
- 『風による浸食・運搬・堆積作用。デフレーション(deflation、風による細粒物質の吹飛ばし作用)とウィンドアブレージョン(wind
abrasion、吹きつける砂粒による削磨作用)とを含む広義の用語。』(小池・木曽、1996)
【海食(abrasion,
marine erosion)】
- 『海水の運動すなわち波浪・潮流その他による陸地の浸食。』『波浪の破壊作用には直接の打撃による作用、岩石の割れ目に浸入する水の強い圧力、そのときの空気の圧縮による作用、岩石破片・礫を媒介とする攻撃などがある。潮流などの流れは波浪が破壊した岩屑を運び去って新たな岩を露出させ、波浪の浸食を復活させる。』(茂木、1996)
【氷食作用(glacial
erosion)】
- 『氷河の浸食作用。氷食は研磨作用(scouring)と破砕作用に分かれる。』(式・林原、1996)
【海底風化(submarine
weathering)】
- 『海底に長らく露出している海底堆積物や火山岩が、その間に酸化・溶解あるいは底生生物の作用を受けて変質し、再配列・置換を行い、複雑な二次的物質をつくること。海緑石・セラドナイト・重晶石・フィリップス沸石・マンガン塊・リン酸塩団塊の生成や、炭酸塩の溶解などがその例。特に堆積速度の遅い深海底などで著しく、深海風化とも呼ばれる。』(岩淵・佐藤、1996)
【変質作用(alteration)】
- 『地表あるいは地殻内で岩石と溶液が反応して岩石・鉱物に起こる反応。一般に鉱物の分解・生成・化学成分の変化・組織の変化をもたらす。脱色による白色化や鉄の酸化による褐色化、あるいは同位体組成の変化なども含む。関与する溶液の違いにより、風化作用・続成作用・熱水変質作用に区別される。』(井沢、1996)
引用文献
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- 永塚鎮男(1996):地学団体研究会(編)、新版 地学事典+付図付表・索引、871、平凡社(1443p+374p)。
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- 式 正英・林原陽子(1996):地学団体研究会(編)、新版 地学事典+付図付表・索引、1097、平凡社(1443p+374p)。
- 庄子貞雄(1984):久馬一剛ほか、新土壌学、32-34、朝倉書店(271p)。
- 高浜信行(1996):地学団体研究会(編)、新版 地学事典+付図付表・索引、620、平凡社(1443p+374p)。
- 歌田 実(1991):勘米良亀齢・水谷伸治郎・鎮西清高(編)、地球表層の物質と環境 地球科学選書、10-22、岩波書店(326p)。
- Wyatt,A.(ed.)(1986):Challinor’s Dictionary of Geology
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