歌田(1991)による〔『地球表層の物質と環境』(10-22p)から〕


1.2 風化作用とその生成物
 地上付近の岩石の変化でもっとも顕著なものに風化がある。風化作用は岩石がその位置で水・大気・生物などの関与の下で性質が変わっていく現象で、地表では多かれ少なかれ常にどこでもおこっている変化である。普通は陸上での変化を指し、海底での変化を含めないことが多い。風化は主として岩石を破壊し、粒径を減少させるような作用の物理的風化(または機械的風化)と、岩石を構成する鉱物組成や化学組成などを変化させる作用の化学的風化に分けられる。一般にこれら2つの風化作用は相伴って互いの進行を促進させる。しかし両者は地球表層で一様に進んでいるわけではなく、気候条件や造構運動に規制されて、どちらかの作用だけが活発であったり、その進行がたいへん遅い場所があったりする。このことから、地球表面でおっている、またかつておこった風化は次のように大きく3つの型に分けられる。
A 氷河気候型 B 乾燥気候型 C 湿潤気候型
 C1 造構運動の弱い地域
 C2 造構運動の活発な地域

A型とB型は液態の水が乏しい地域にみられ、化学的風化よりも物理的風化の卓越する型である。A型では氷雪による岩石の機械的破壊だけが行なわれる。B型では科学的風化もわずかに行なわれるが、C型とはいろいろな点で違いがみられる。化学的風化が典型的に進むのは湿潤気候地域であるが、そこでも地形が急峻で造構運動が活発なところでは、風化の速度に比べて浸食の速度が大きいため厚い風化殻は生じない。もっとも厚い風化殻を生じるのはC1型で、ときにその厚さは100mに達することがある。C1型の典型的な風化殻のいくつかの例について、どのような変化によってどのような鉱物が生成しているかを述べよう。

a) ボーキサイト・ラテライト−カオリナイト型風化殻(BL-K型)
 風化作用を特徴づけ、最初におこる化学反応は溶脱作用である。熱帯〜亜熱帯気候のように雨量が多く、しかも水が活発に循環する地形条件の下では、可溶性成分は著しく溶脱され、Al、Fe、Ti、Siなど溶脱されにくい元素だけが表層部に濃縮する。ボーキサイトはAl以外のほとんどの成分が溶脱した岩石、ラテライトはAl、Fe以外の成分が溶脱した岩石である。このBL-K型の風化は原岩の化学組成の影響をあまり受けないが、低シリカ岩(SiO2<52%)ほど容易に風化が進行する。図1.4(略)はインドのデカン高原における玄武岩の風化殻の例である。この例では、地下水面より上では溶脱が進んでボーキサイト・ラテライトが生成し、地下水面より下にはシリカの沈殿とカオリナイトの生成がみられる。つまり地下水面より上が溶脱帯、下が集積帯である。乾季と雨季が交互する地域では、地下水面が上下するとともに地下水の化学組成が変化して風化はいっそう速く進むが、風化殻の構造はやや複雑になる。また地形との関係から明らかなように、地表水の流路ではFeの溶脱が進んでボーキサイトが生成している。
 中〜高シリカ岩(SiO2>52%)を原岩とする場合にもボーキサイトは形成される。よく知られている例として、北アメリカのアーカンソー州のボーキサイト鉱床があり、これはネフェリン閃長岩に生じた風化殻とそれに由来する堆積性の鉱床である。また、わが国のAl原料として多量に輸入されているインドネシアのBintan島のボーキサイトは、花崗岩ホルンフェルス起源である。もちろん堆積岩を原岩とするものもあり、南ヨーロッパには石灰岩起源のテラロッサ型ボーキサイトがたくさんみられる。
 もっと特殊な化学組成をもつ原岩、たとえば超塩基性岩などの場合には、このような風化作用によってAl、Fe、Si以外の元素が濃縮することがある。現在、熱帯地方のキューバやニューカレドニアなどの超塩基性岩起源の風化殻には、ラテライトの下にNi鉱物の著しく濃縮した層が知られている。この種の典型的な例は南部〜中部ウラルに分布している後期ペルム紀〜中期ジュラ紀の蛇紋岩風化殻にみられる(スミルノフ、1969)。図1.5(略)はその模式断面図である。風化殻は三畳紀の亜熱帯性気候の下で生成し、その厚さは平均60m、ところによると160〜180mにもおよぶ。鉄蛇紋石の風化によって,Fe-バイデライト→Fe-モンモリロナイト→Fe-ハロイサイト→Fe(OH)3の順に生成すると考えられ、弱変質帯にはモンモリロナイト系の粘土鉱物がみられる。また、この風化殻にはFe、Co、Ni、Mnなど有用元素が濃縮するため、鉱床としての価値が高い。超塩基性岩中にはこれらの元素はもともと多く(たとえばNiは0.3〜0.4%)、ラテライト化の際に鉱物から液相に移り、風化殻の下部に沈殿している。このようにして、珪ニッケル鉱の例では原岩の5〜15倍のNiが濃縮している。Feは水酸化物をつくって地表近くに濃縮するため、褐鉄鉱鉱床として採掘されることもある。この型の鉱床はCo、Mn、Ni、Cr、TiやPtなどを多く含むので天然合金鉄鉱ともよばれる。Mgは
   H4MgSi2O7(蛇紋石)+H2O+3CO3=MgCO3(マグネサイト)+2SiO2+4H2O
   H4MgSi2O7(蛇紋石)+2SiO2=H2Mg3SiO10(滑石)+H2O
の反応で示されるように、炭酸塩や珪酸塩として風化殻下部に沈殿する。後者の反応が風化の過程でおこっているかどうかについては疑問もあるが、生成物はいずれも重要なMg資源として利用されている。Mnは超塩基性岩だけでなく、随伴するチャート、石灰岩、凝灰岩などの風化殻中にも濃縮し、しばしば数%の品位をもつ鉱床となる。キューバ、インド、アフリカ、ブラジル、オーストラリアなどにその例が多い。
 わが国には典型的なボーキサイトは知られていないが、ラテライト型風化殻は地質時代のものがいくつか報告されている。もっとも新しいものは福岡県八女のラテライトで、鮮新世〜更新世の石英安山岩質軽石から変化し、アロフェン、ベーマイト、ギブサイトが生成している。岩手県岩泉付近には古第三系の炭層に伴って良質のカオリナイトが産出し、その基盤には18mに及びラテライト型風化殻がある。Iijima(1972)によると、その原岩は溶結凝灰岩で、白亜紀末から古第三紀の温暖気候の下で生成し、カオリン粘土もこれに由来するものという。また岩生(1972)は九州新木浦鉱山産のエメリー鉱が、古期岩層中のラテライト質化石土壌またはラテライト質堆積層に由来する熱変成岩であることを明らかにした。これと同様に、北上山地や阿武隈、領家、飛騨などの変成帯(図1.6:略)に産するクロリトイド岩や十字石岩も、かつてはラテライト型の風化殻であり、その後変成作用を受けたものと推定されている(Iwao、1978)。

b) カオリナイト−モンモリロナイト型風化殻(K-M型)
 冷温帯湿潤気候地域では、AlやFeの酸化物・水酸化物が生成することは稀になり、それに代って主としてカオリナイトやモンモリロナイトなどの粘土鉱物ができる。溶脱元素の種類や量は原岩によって差異があり、生成した風化殻の厚さも熱帯〜亜熱帯の場合に比べると一般に薄い。K-M型風化殻は、Al、Si以外の成分が溶脱することによって形成されるため、中〜高シリカ岩を原岩とする場合にその発達が著しい。とくに花崗岩の場合には典型的である。名古屋市に近い瀬戸地方は窯業の一大中心地であるが、その原料は花崗岩を起源とし、鮮新世〜更新世にかけて形成されたカオリン鉱床から得られている。図1.7(略)はその模式図で、鉱床は風化した花崗岩とその上にのる陸成堆積物中にある。風化花崗岩は‘マサ’とよばれ、下部では未風化の花崗岩に漸移する。マサの構成物は長石と黒雲母から変化したカオリン鉱物と少量のバーミキュライト、変化しないで残った石英、カリ長石などで、上部ほどカオリン鉱物の量が多く下部に向かってその量は減少している。そこでの風化系列は長石→アロフェン→ハロイサイト→カオリナイト、および黒雲母→Alバーミキュライト→カオリナイトであるが、雲母型粘土鉱物や混合層粘土鉱物が見出されることもある。図1.7でマサの上には‘蛙目(がいろめ)’とよばれるカオリン粘土がある。蛙目の鉱物組成はマサとほとんど同じであるが、層状に分布し堆積構造を示す。蛙目の上位には‘木節’粘土がくることが多い。こえは明らかに堆積性で、細粒のカオリン鉱物と炭質物がまざりあい縞目状を示している。蛙目粘土や木節粘土が下の花崗岩風化殻に由来することは、Nagasawa et al.(1969)の報告からも疑いない。
 花崗岩起源のK-M型風化殻は世界各地で知られていて、それに由来するカオリン鉱床も多い。蛙目型や木節型の粘土は世界のいろいろな時代の石炭層に伴って、その下位や炭層に挟まれて存在し環境指示堆積物の1つとなっている。
 火砕岩起源のK-M型風化殻は、火山ガラスの変質速度が速いため造構運動の激しい地域でも比較的厚く「発達する。これはわが国の現在の地表にみられる風化殻としてはもっとも普遍的なものであり、その生成過程を詳しく検討することができる。多くの研究結果によると、火砕物質のもっとも初期の風化生成物はアロフェンやイモゴライトなどの非晶質部物質で、その後これらはハロイサイトに変化する。イモゴライトは吉永・青峰(1962)の研究によってはじめて見出されたもので、わが国のように火山灰起源の土壌が卓越するところでは重要な構成物である。火山ガラスの場合にも、高シリカのものと低シリカのものではやや異なる変化系列をもっている。近堂(1969)によると有珠火山灰では、高シリカ火山ガラスの変化系列はFe-Siゲル→ハロイサイト→ハロイサイト/メタハロイサイト混合層→メタハロイサイト、低シリカ火山ガラスのそれはFe-Al-Siゲル→アロフェン→ハロイサイトの順になっている。その他の火砕岩起源の場合にもおおよそ同様な変化系列が認められ、ときにはギブサイトが共存することもある。図1.8(略)は‘関東ローム’最上部にみられる風化断面であるが、そのハロイサイト化は腐植土の直下がもっとも顕著であり、未変質帯との間にはモンモリロナイトの生成域がみられる。化学分析の結果では、Alを除く全成分が系から溶脱している。しかしモンモリロナイト帯ではMgはむしろ濃縮し、Si、Ca、Naなどの含有量も高い。したがって、この場合モンモリロナイト帯は集積帯の性格をもつものであろう。
 低シリカ岩でFeやMgを多く含む原岩の場合、風化の初期段階が少し異なっている。FeやMgに富む鉱物は地表条件で緑泥石やバーミキュライトの中間段階を経て容易にモンモリロナイトに変化する。その後の変化はモンモリロナイト→H+-モンモリロナイト→モンモリロナイト/ハロイサイト混合層→ハロイサイト→カオリナイトの順に生成し、最終生成物に差異はない。しかし天然では中間のモンモリロナイトのステージが広くみられ、共生するリモナイトとともに緋色〜赤色を呈するため、高シリカ岩の場合とは異なった風化過程のようにみえる。
 K-M型の風化殻は低緯度から高緯度までもっとも広くみられるが、その生成速度、したがって風化殻の規模は場所によって著しく異なる。低〜中緯度では数十mに及ぶにもかかわらず、高緯度低温地域の風化殻は造構運動のほとんどないところでも、厚さ数mを越えることはない。針葉樹林におおわれた先カンブリア界よりなる盾状地で、土壌化の進んだタイガ−ポドゾル帯でさえその風化殻は0.5〜1.2mしかなく、カオリン帯にシリカが残留し、その下にFeの集積帯が形成されている。

c) パラゴナイト−沸石型風化殻(P-Z型)
 ハワイのオアフ島のメリライト−ネフェリナイト質およびネフェリン−玄武岩質凝灰岩は、その表面がパラゴナイトとよばれる蝋状または樹脂状の黄褐色ないし黄緑色物質になっている。Hay & Iijima(1968)は地形や雨量との関係を調べ、このパラゴナイトは浸透地下水と反応した火山ガラスの風化生成物であることを明らかにした。鉱物組成や化学組成の変化をみると、玄武岩質火山ガラスはパラゴナイト化に際し、その中のアルカリ、アルカリ土類と同じようにAlが溶脱されている。FeやTiはほとんど変化がないが、わずかに減少している。もっとも興味深い点は、溶脱された成分はパラゴナイト凝灰岩のセメントとして、再び固定されていることである。すなわち、アナルシム、キャバザイト、フィリップサイトなど多種の沸石と炭酸塩がそこに生成している。その生成順序はK沸石→Na沸石→モンモリロナイト+オパール→Ca,Mg炭酸塩→石膏であり、地下水の化学組成変化を示すものであろう。沸石を伴うパラゴナイト凝灰岩は多くの例が知られてるが、その成因は多様である。いまのところ上述と同様に浸透地下水と火山ガラスの反応によるものは、カリフォルニアのBlack Pointなどの例がある(Christensen & Gilbert、1964)。

d) 風化殻の特徴
 以上述べた3つの代表的風化殻の特徴を表1.6にまとめた。水和と酸化(たとえばFeO→Fe2O3の変化)はいずれも共通にみられる反応であるが、溶脱については各型の風化殻に特徴的な溶脱成分が認められる。すなわちBL-K型SiK-M型FeP-Z型Alである。この溶脱成分の違いは関与した溶液の化学的性質や温度条件により説明されなければならない。降水の化学的性質は地球上どこでもあまり差異がなく、全溶存物質量が10mg/lを越えることはないし、pHも5.9±0.3の程度である。この条件では図1.3(b)からも明らかなように、Feの溶脱が顕著な変化、つまりK-M型の風化がおこりやすい。BL-K型P-Z型が形成される場合も、その初期や一部にK-M型がみられるのは、この条件が普遍的であることを暗示している。しかしカオリン鉱床を形成した多くの場合、関与した溶液は、腐植酸や酸性熱水の混入により降水と比べてかなりpHが小さかったと思われる。図1.8に示した風化断面では、腐植酸によりハロイサイト化が進行したことをよく示している。酸性熱水が混入したためハロイサイト化が進んだと思われる例もわが国に多く、壱岐、大村、大口など代表的な鉱山がある。

表1.6 風化の各型の特徴(太字は各型の特徴的な溶脱成分)
 

溶 脱 帯

集 積 帯
BL-K 型
(ボーキサイト・ラテライト−
カオリナイト型)
溶脱成分…Si、Mg、Ca、Na、K
生成鉱物…ギブサイト、ベーマイト、ダイアスポア、ゲーサイト、ヘマタイト、アナターゼ
濃集成分…Si、(Mg)
生成鉱物…カオリナイト、オパール
K-M 型
(カオリナイト−
モンモリロナイト型)
溶脱成分…Fe、Si、Mg、Ca、Na、K
生成鉱物…カオリナイト、ハロイサイト
濃集成分…Mg、(Fe)
生成鉱物…モンモリロナイト、オパール
P-Z 型
(パラゴナイト−沸石型)
溶脱成分…Al、Si、Mg、Ca、Na、K
生成鉱物…パラゴナイト
濃集成分…Mg、Ca、Na、K、(Si)、(Al)
生成鉱物…アナルシム、フィリップサイト、ナトロライト、トムソナイト、メソライト、キャバザイト、モンモリロナイト、オパール、方解石、Mg方解石
 このように、K-M型風化殻が中性から酸性の地下水と反応することにより生成すると考えられるのに対し、BL-K型はpHの大きな領域で生成しやすい。浸透地下水が岩石と反応すると一般にpHは増大する。温度が高いほどこの変化は速い。図1.9(略)に示したように中性付近の水に対しては、Si、Alともに溶解度は小さいが、pHが増大するとまずSiの溶脱が進む。よく知られているようにSiの溶脱は、温度が高いことによっても促進される。したがって、pHが大きくなり高温の溶液が多量に供給される熱帯〜亜熱帯の多雨地域はSiO2の溶脱に好都合である。このときFeも溶脱されればボーキサイト、溶脱されなければラテライトが形成される。
 地下水と岩石の反応だけではpHが8.5を越えることはすくない。しかし乾燥気候下で蒸発が進むと、著しくpHの高い溶液が形成される。現在、北アメリカや東アフリカにみられる塩湖では、pH>10も稀ではなく、浸透地下水でもpH>8.5の例がたくさん知られている。Alの溶脱はこのような特殊な条件下でおこり、P-Z型風化殻が生成するのであろう。BL-K型K-M型では集積帯が形成されたとしても小規模で、ほとんどの成分、とくにアルカリ、アルカリ土類は系の外に逃げている。これに対し、P-Z型ではアルカリ、アルカリ土類が濃集した集積帯をつくっている。これは乾燥気候地域における特徴で、塩湖堆積物や土壌中(Hay、1966)にもここにみられるものと同じ沸石や炭酸塩、硫酸塩などが生成している。
 溶脱帯にみられる鉱物累帯は逐次変化とみられるから、原岩は中間生成物を経て時間の経過とともに最終生成物に変化していくであろう。一方、集積帯ではその条件下で反応論的に安定な鉱物が生成しているとみられる。したがって、BL-K型の集積帯におけるカオリナイトやK-M型の集積帯におけるモンモリロナイトを、溶脱帯の中間生成物として出現するそれらと混同してはならない。

e) 地質時代の風化殻と環境の変遷
 地殻ができてから今日まで、風化作用にどのような変遷があったかは、単に気候の変遷を知るためだけではなく、水や大気の組成や量など、地球をとりまく環境の変化を知るために重要な問題である。しかし大部分の風化生成物は堆積盆地に運ばれてしまっていて、現在残されているものは少ないから、それからはごくわずかな情報しか得られない。表1.7(略)は岩生(1977)がボーキサイト・ラテライト風化殻の生成時代をまとめたものである。これをもとに堆積岩中に残された記録によって補うと、風化殻が著しく発達した時代がいくつかあり、その生成域も異なっていることがわかる。
 先カンブリア時代にもK-M型風化殻からもたらされたらしい‘アルコ^ス砂岩’はあるが、確かなBL-K型風化殻の例は知られていない。インドには先カンブリア時代の片麻岩を起源としたBL-K型風化殻があるが、その生成時代を先カンブリア時代とする証拠を欠いている。一方、ボヘミア高原の変成岩中には、藍晶石・珪線石・紅柱石・コランダムなどAlに富む鉱物があり、その起源は先カンブリア時代の風化殻にあると考えられている(Kuzvert、1977)。
 変成されていない確実な地質時代のBL-K型風化殻としては、石炭紀のものがある。中国北部や北アメリカのミズーリ州には、この時期の風化殻に由来する莫大な化石土壌や堆積物が分布している。ヨーロッパではこの期に広くカオリンの生成があり、わが国でも岐阜県一の谷にラテライト土壌の生成が知られている(猪郷、1963)。いずれにしても、この時期が全世界的に気候湿潤で風化が進んだ時期であったことは、陸上植物の繁茂とも調和する事実である。カンブリア紀から石炭紀の間に生成したとされる風化殻もいくつかあるが、大規模なものは知られていない。スペイン南部にはオルドビス紀、シルル紀、デボン紀のカオリン質頁岩が分布し、K-M型風化殻が生成したとみられているが、これらには熱水変質が加わっているという説もある(Galan、1977)。前にも述べたわが国の変成されたラテライトも、古生代後期に形成されたと考えられている。しかし確かな風化の時代はわからない。
 ペルム紀の風化殻は報告が少ないが、ボーキサイトはウラルからトルコ、イラン、スペインなど地中海地域を中心に分布している。秩父地向斜内でも最近、ペルム系と三畳系の間にしばしば不整合が発見され、不整合直上にラテライト土壌のみられることが報告されている(柳本、1974)。
 中生代後期から古第三紀前半にも、汎世界的に広く風化殻が形成されている。ヨーロッパの主要なボーキサイト鉱床やカオリン鉱床はこの時期のものであるし、わが国では岩泉付近のラテライトがこれにあたる。また北海道・常磐・北九州などの古第三紀炭層下底に堆積している蛙目型カオリン粘土も、この期の風化殻に由来したものであろう。北アメリカでは有名なジョージアカオリンがこの時期のもので、合衆国南部には同様なものが広く分布する。BL-K型でこの時期のものとしてインドのデカン高原の例をすでに述べたが、アマゾンやカリブ海地域のものの一部もこの頃形成されたとされている。ソ連ではウラルからシベリアまでBL-K型風化殻が発達しており、この時期が汎世界的に温暖湿潤であったことを裏づけていよう。
 鮮新世〜更新世に生成したボーキサイト鉱床は東南アジアにいくつもあり、わが国でも八女の例がある。しかしわが国ではK-M型の風化殻が卓越し、その環境条件は現在と大差なく、低緯度にBL-K型、中〜高緯度にK-M型がみられる。
 P-Z型風化殻についてはまだ研究例が少なく、更新世より古い地質時代のものが存在するかどうかは明らかでない。パラゴナイトや沸石類は、その後の続成作用などを受けて他の鉱物に変わってしまった可能性もある。しかし、これと等価とみられる塩湖堆積物の沸石化は三畳紀までさかのぼることもできるし、分布も広い。したがって、条件さえ満たされれば、われわれはこれらの環境について手がかりを得ることもできよう。』

引用文献(注:関係分のみ)

Christensen & Gilbert(1964)  (欠)
Galan(1977)
 (欠)
Hay,R.L.(1966)
: Zeolites and zeolite reactions in sedimentary rocks, Geol. Soc. Am., spec. Paper, 85, 130.
Hay,R.L. and Iijima,A.(1968)
: Nature and origin of palagonite ruffs of the Honolulu series on Oahu, Hawaii, Geol. Soc. Am., Mem., 116, 331-376.
Iijima,A.(1972)
: Latest Cretaceous-early Tertiary lateritic profile in northern Kitakami massif, northeast Honshu, Japan, J. Fac. Sci., Univ. Tokyo, Sec. II, 18, 325-370.
猪郷(1963)
 (欠)
岩生(1972)
 (欠)
岩生周一(1977)
:ラテライト・ボーキサイトに関連するいくつかの地学的問題、地学雑、86、213-228.
Iwao,S.(1978)
: Re-interpretation of the chloritoid-, staurolite-, and emery-like rocks in Japan−chemical compositon, occurrence and genesis, J. Geol. Soc. Japan, 84, 49-67.
近堂(1969)
 (欠)
Kuzvert(1977)
 (欠)
Nagasawa,K., Takeshi,H., Fujii,N. and Hachisuka,E.(1969)
: Kaolin minerals, Clays of Japan (S.Iwao ed.), Geol. Surv. Japan, 17-70.
スミルノフ(1969)
;岸本文男訳:“新版鉱床地質学”、859pp、ラティス社.
柳本(1974) (欠)
吉永・青峰(1962) (欠)