木宮(1991)による〔『地質学から見た岩石風化』(22-24p)から〕


1.はじめに
 岩石の風化作用は、岩石学、鉱物学、粘土鉱物学、土壌学、堆積学、地形学、土木地質学、災害地質学、土質工学、土木工学、地下水学の学問境界分野であり、各方面からの各々の立場に基づく研究がなされてきた。筆者は、地質学の立場から岩石風化の研究を進めてきたが、ここでは「地質学と土質工学の接点」というテーマに沿い、主に土質工学と関連深い内容について述べることにする。ただし、土質工学者が知っておいてよい、むしろ知っておいてもらいたいと思われる地質学的立場からの内容についても述べることにする。
 風化作用の研究は、地質学(純理学的地質学)の学問領域の中では決して主流テーマとなってはいない。しかし、応用地質学的立場に立てば、非常に重要なテーマであり、土質工学においても同様であろう。地質学において風化作用の研究が軽視されているのは、日本の地質学界の歴史的経過の中でたまたまそうなったにすぎず、ようやく最近その重要性に気付き、純理学的研究がぼちぼちなされるようになった。特に若い院生等が進んで風化作用に関するテーマを選ぶことは喜ばしいことである。今後ますます研究が進展し、この拙文がそれらの礎となることを願っている。

2.風化とは
 風化作用を定義すると、「風化作用とは、岩石が地表条件のもとで、気圏、水圏、あるいは生物圏の影響で変化していく現象」となろであろう。
 これを物理的にとらえるならば、岩石が細かく破砕されていくことであり、化学的にとらえるならば、岩石が溶解されたり、新しい物質が沈殿したりすることである。さらに鉱物学的に言えば、岩石を構成する造岩鉱物が地表条件で最も安定な鉱物に変化することである。地表条件で最も安定な鉱物というのは、土壌中に含まれる鉄やマンガンの酸化物や粘土鉱物のことで、粘土鉱物が大部分を占める。風化作用の定義を鉱物学的に言い換えれば、風化作用とは“造岩鉱物が粘土鉱物に変わろうとする作用”であると言うことができる。地表に現れた鉱物は風化作用を受け、最終的には粘土鉱物に変化し、これらが侵食運搬され、淘汰堆積したのがいわゆる泥層(泥岩)であり、土質工学の人たちが扱う主要土質の1つとなっている。
 以下に風化作用を物理的風化作用、化学的風化作用、鉱物学的風化作用に分けて述べることにする。なお、これらは各々別個に進む現象ではなく、各々が相互に複雑に絡みあって進行するので、分けて述べるのは誤解を招きやすい。しかし、各々の現象を理解するには分けて考えた方がわかりやすいので、ここでは、物理的風化作用とは岩石の風化作用の諸現象のうちの物理的現象の部分を言い、化学的風化作用とは、岩石の風化作用の諸現象のうち化学的現象の部分を言うと解釈していただきたい。鉱物学的風化作用は一部化学的風化作用とだぶり、化学的風化作用の結果としての鉱物学的変化と考えてもらえばよい。なおこのほかに、生物学的風化作用というのもある。植物の根が岩石中のクラックに入り、根の成長に伴い岩石を破壊するとか、カモシカが岩場を走る時、岩石の一部を落とすなどであるが、いずれもその営力は小さいのでここでは省くことにする。また、人間が山を切って道路を作るとか、いろいろな場面で掘削をするが、それらも風化を促進していることには変わりない。すなわち、山体の内部で水と空気とそれ程接触せず風化が進みにくい状況にあった部分が、掘削により地表に現れると風化は今までの何倍ものスピードで進むことになる。このように考えれば、人間が行う多くの行動そのものが風化作用の一部となってしまうが、ここではもちろん扱わない。

 2.1 物理的風化作用
 岩石が地表に露出すると、気温変化に伴う鉱物間の熱膨張率の違いや、水の凍結による体積膨張などにより岩石中にクラックが発生する。このクラックは化学的風化作用が進むとさらに発達しやすくなり、鉱物と鉱物の境界から、さらには鉱物内部にまで小クラックが発達してくる。これらのクラックの発達は化学的風化作用の進行を助長することになるが、物理的に言えば、岩石の強度が弱くなり、弾性波の速度が遅くなり、比重が軽くなることになる。
 クラックが入る原因としては、前述した温度変化(日射風化)水の凍結(凝結風化)のほかに、塩類の結晶成長(塩類風化)乾燥と湿潤の繰り返し(乾湿風化)等がある。また、かなり重要なものとしてシーティングがある。シーティングとは、地下深部にあった岩石が地表に現れると、拘束力が減少したり、なくなったりするので岩石塊が膨張し、それに伴いクラックが発達することで、地表と平行な節理状のクラックが地表ほど密に、深部に行くほど租に入る。トンネルを掘削した時に起こる岩はねと同じ現象と考えればよい。

 2.2 化学的風化作用
 風化作用のうち、化学的現象を取り上げたものを化学的風化作用という。岩石が地下水や空気と接触すると、次の2つの現象が同時に起こる。まず、地下水と接触することにより、@岩石中の溶解しやすい成分が溶解して水溶液となって除かれる。例えば、 Cl、SO4、Na、K、Ca、Mgなどが溶解して除かれる。また、A地下水や空気中からOH基、O、CO2、SO4などを取り込む。この結果、原鉱物とは全く異なる鉱物に変化する。風化が進めば進むほど、アルカリ類の少ない珪酸に富む岩石に変化し、さらに風化が進むとSiも溶脱し、Fe、Alのみに富む岩石に変化する。これらが粘土鉱物で、強風化を受けた地域には、ボーキサイト、ラテライト、粘土鉱床などのいわゆる風化残留鉱床ができあがる。
 鉱物が水と接触して化学反応を起こし、やがては粘土鉱物に変化する過程を風化反応と呼ぶ。1例を、正長石(KAlSi3O8)の風化で説明すると、
 2KAlSi3O8+3H2O =Al2Si2O5(OH)4+4SiO2+2KOH   (1)
という反応式が書かれる。この反応は正長石の典型的な反応で、正長石中のKイオンすべてが溶脱された時の反応である。右辺のSiO2およびKOHは水溶液中に溶脱してしまい、Al2Si2O5(OH)4はカオリナイトである。すなわち、正長石と水が反応しカオリナイトが生成されるわけである。この反応は可逆反応なので、実験室内の閉じた系で行われると、ある程度反応が進んだ後平衡になってこれ以上反応は進まないが、自然状態での風化では、SiO2とKOHが溶脱した後、その水はさらに地下深くへ移動し新しい水が供給されるため、決して平衡状態とはならない。よって、左辺から右辺への反応がずっと続くと考えてよい。このような反応が起こる条件にある正長石は、遅かれ早かれカオリナイトに変化するわけである。
 自然界の条件が、風化の進行にとって少し悪条件の時(例えば温度が低いとか)は、正長石中のKイオンすべてが溶脱しきれない。その時は、
 3KAlSi3O8+2H2O=3KAl2(AlSi3)O10(OH)2+6SiO2+2KOH   (2)
という反応式となり、KAl2(AlSi3)O10(OH)2で表されるイライトが生成される。SiO2、KOHは溶脱し、反応式としては可逆反応であるが、自然界の風化作用では左辺から右辺へ一方的に進むことは同じである。
 逆に、(1)式よりさらに激しい溶脱を受けるような条件になると、正長石中のKイオンはもちろん、Siイオンもすべて溶脱されてしまう。この場合、
 KAlSi3O8+2H2O =Al(OH)3+3SiO2+KOH   (3)
という反応式で表され、ギブサイトAl(OH)3が生成する。ギブサイトはよく知られるように、アルミニウムの原材料である。ボーキサイトは日本では全く産せず(わずかに、香川県の五色台付近のサヌカイトの風化したものが、第二次大戦中ボーキサイトとして稼行された)、熱帯、亜熱帯湿潤気候帯中に多く産するのは、(3)式のような溶脱の激しい風化反応が起こらなければ、ギブサイトが生成しないからである。
 以上、化学的風化作用として認められる現象を一般論としてまとめてみると、次の3原則としてまとめられる。
 @ 母鉱物の構造が破壊され、Siイオンが遊離する。
 A 遊離したイオン、分子などがそこから移動する必要がある。
 B 残留物、水、炭酸ガス等が結合して、地表条件で安定な、あるいは準安定な新鉱物をつくる。

 これら3つの原則が同時に、また繰り返し継続的に起こっているのが化学的風化作用である。
 造岩鉱物のうちの大部分は珪酸塩鉱物であり、その珪酸塩鉱物中には各種の金属イオンが含まれている。これらの金属イオンにも、風化により溶脱しやすいものと、しにくいものとがある。
 POLYNOV1)は、流域が火成岩のみからなる河川水を分析し、その結果を火成岩の平均化学組成と比較してみた。もし、どの金属イオンも溶脱しやすさが同じであれば、河川水の金属イオン含有量は、火成岩の平均化学組成と同じ比率になるはずであるが、溶脱力に差があれば、その差が河川水の分析結果に反映されるであろう。その結果、最も溶脱しやすいものから溶脱しにくいものへ順番に並べると、
 Ca>Na>Mg>K>SiO2>Fe2O3>Al2O3
となった。すなわち、アルカリイオンが溶脱しやすく、その中でもCa、Naが溶脱しやすい。それに対し、Alが最も溶脱しにくく、次にFeである。
 LOUGHNAN2)は、水のpHと金属イオンの溶解度について調べた。その結果を図-1(略)に示す。図の見方はやや複雑であるが、多くのものは図の右側が安定ゾーンで、左側が溶解ゾーンである。ただし、SiO2は左上が安定、右下が溶解であり、Al2O3は線が2本あるが、2本の線で囲まれた部分が安定、外側が溶解である。これを見ても、CaやMgイオンが溶解しやすいことがわかる。
 化学的風化作用は自然水と接触して起こる。自然界に存在する水は、およそpH4〜9の間におさまる。例えば、海水はpH8.6、湖水、河川水はpH5〜6、地下水はpH7ぐらいであり、有機物を多量に含む湿地帯や硫酸ガスを噴出する火山性の湖の水はpH4程度、乾燥気候帯に存在するアルカリ性塩湖ではpH9程度である。よって、風化作用の場合は図-1のpH4〜9の間だけを見ればよく、pH1〜4やpH9〜14の水との接触は考えなくてよい。
 pH4〜9の水だけに限ると、Ca(OH)2、Mg(OH)2はどの水に対しても完全に溶解する。図-1には示されていないが、同じアルカリ金属のKOH、NaOHも同様である。逆に、TiO2、Fe(OH)3はどのような水に対しても全く溶解しない。SiO2はどの水に対してもある程度は溶解する。鉄もFe(OH)2ではかなりよく溶解する。チタンもTi(OH)4ではpH4〜5.5ぐらいの水に対しては溶解する。CaCO3は、水のpHの違いにより溶解度が著しく変化する。Al2O3はpH4〜9の水、すなわち天然水ではほとんど溶解しない。
 これらのことから、風化作用を受ける時、鉱物中から溶脱しやすい金属イオンとしにくい金属イオンがあり、それにより新たに生成される粘土鉱物も規制されることが理解できるであろう。

 2.3 鉱物学的風化作用
 鉱物学的風化作用という言葉はあまり使わない。それは、化学的風化作用の結果として鉱物学的な変化が起こるのであって、普通は化学的風化作用としてまとめることが多いからである。ここでは個々の変化について述べるのではなく、鉱物による風化の受けやすさの大局的傾向についてのみ述べることにする。
 GOLDICH3)は、風化の受けやすさはBOWENの反応原理の逆である、と述べた。マグマが冷えて固化する時、温度が低下するに伴って晶出してくる鉱物の順序に一定の傾向がある。すなわち、有色鉱物では、かんらん石→き石→角せん石→黒雲母の順で、無色鉱物では、Ca-斜長石→Na-斜長石→カリ長石→石英の順で晶出する。初めに晶出した鉱物は温度が高い時に晶出するので、地表の常温常圧条件にさらされると、非常に不安定となる。晶出した時の温度圧力条件と、地表のそれとの差が大きければ大きいほど不安定となり、風化しやすいと言える。逆に最後に晶出する石英は、その時の温度圧力条件が地表のそれと近いため、なかなか風化しないことになる(図-2:略)。』

3.風化殻の産状
 3.1 化石風化殻
4.風化速度
5.風化による工学的性質の変化
 5.1 風化による微細割れ目の発達
 5.2 変質部量と物理量との相関
6.結び

参考文献(関係分のみ)

1) POLYNOV,B.B.(1937): Cycle of weathering. Murby, London.
2) LOUGHNAN(1969): Chemical weathering of the silicate inerals. Elsevier, New York, N.Y.
3) GOLDICH,S.S.(1938): Astudy in rock weathering. J. Geol., vol.46, pp.17-58.