『1.風化作用の種類と風化指標
風化作用は、一般に化学的風化作用、物理的風化作用、生物的風化作用の3つに分類されるが、生物的風化作用の個々の作用は、植物の根による圧力のような物理的作用や、バクテリアによる鉄の酸化のような化学的作用であるので、前二者のいずれかに分類できる。また前二者も、便宜的な分類であり、相乗作用によって効果が倍加すると考えられる。例えば、化学的風化作用に分類される水和作用は、鉱物による水の吸着という化学的過程と、それに続く膨張による圧力の発生という物理的過程から成り立っている。同様に、物理的風化作用に分類される塩類風化は、蒸発という化学的過程とそれに続く結晶作用による圧力の発生という物理的過程から成り立っている。さらに、代表的な物理的風化作用である熱風化は、高温と低温の繰り返しによる疲労破壊と定義されているが、水の存在なしにこの作用が単独で岩石を風化させることは確認されていない。例えば、GRIGGS1)は花崗岩供試体を乾燥空気中において、温度差110℃で急熱急冷を89,400回繰り返したが表面に全く変化が認められなかったのに対し、水道水で冷却した場合は960回で表面に変化を生じたことを報告している。またAIRES-BARROS
et al.2)の耐久性試験でも、水分の存在が岩石の風化過程に重要な影響を及ぼすことが報告されている。このように、熱風化は、熱疲労のみでは生じず、水分による化学的作用があって初めて進行する。したがってこれらの作用において、化学的風化作用と物理的風化作用のいずれが主要な過程であるかを決めることは困難である。
以上のような風化作用分類上の問題はあるが、本文では風化の程度を定量的に表現するための風化指標について生物的風化作用を除き、化学的観点からなされた研究と、物理的観点からなされた研究に分けてレビューした。なお、化学的観点からなされた研究は、主に化学分析によって元素の移動について検討したものと、偏光顕微鏡によって鉱物や組織の変化について検討したものに分けられる。ここでは前者によって求められた指標を化学的風化指標、後者によって求められた指標を鉱物学的風化指標として分類した。同様に、物理的観点からなされた研究は、純粋に物理量の変化を追求したものと、応用的に力学量の低下を追求したものに分けられるが、前者による指標を物理的風化指標、後者による指標を力学的風化指標として整理した。さらに、特別の目的のためこれらの指標を組合わせたものを複合指標とした3)。
風化指標は理学的な立場から風化のプロセスを解明するため、あるいは土木地質的立場から岩盤や材料を評価するために求められることが多い。前者には主に化学・鉱物学的手法が、後者には物理・力学的手法が用いられてきたが、最近はこれらを総合した研究が進められている。それぞれの指標の適用範囲は、研究目的によって新鮮岩から風化残積土まで様々であるが、ここでは、フィルダム用岩石材料として用いられるような新鮮な硬岩に対して適用可能な指標について検討し、風化残積土を対象とした指標は除外した。最後に、岩石材料の耐久性評価手法との関連から各種指標の適用性についてコメントした。』
2.化学的風化指標
2.1 溶脱されやすい成分
2.2 溶脱されやすい成分と主要成分の比
2.3 溶脱されやすい成分とAl2O3等との比
2.4 三二酸化物等に対するSiO2の比
2.5 新鮮岩と風化岩の指標の比
2.6 その他
3.鉱物学的風化指標
4.物理的風化指標
4.1 密度、有効間隙率、吸水率等
4.2 弾性波伝播速度、動弾性係数
4.3 硬度
4.4 質量減少率
5.力学的風化指標
6.複合指標
7.岩石材料の耐久性評価のための風化指標
『引用文献(注:関係分のみ)
1)GRIGGS,D.T.(1936): The factor of fatigue
in rock exfoliation, J. Geol., Vol.44, pp.783-796.
2)AIRES-BARROS,L., GRACA,R.C. and VELEZ,A.(1975): Dry and
wet laboratory tests and thermal fatigue of rocks, Eng. Geol.,
Vol.9, pp.249-265.
3)中村康夫(1996):岩石の劣化・風化に関する実験的研究、土と基礎、Vol.44、No.10、pp.55-60.
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1.溶脱されやすい成分 | ||
Weathering Index | (2Na2O/0.35+MgO/0.9+2K2O/0.25+CaO/0.7)×100 | Parker(1970) |
2.溶脱されやすい成分と主要成分の比 | ||
WPI (Weathering Potential Index) |
〔(CaO+Na2O+MgO+K2O−H2O+)/(SiO2+Al2O3+Fe2O3+CaO+Na2O+MgO+K2O)〕×100 | Reiche(1943) |
MWPI (Modified Weathering Potential Index) |
〔(CaO+Na2O+MgO+K2O)/(SiO2+Al2O3+Fe2O3+CaO+Na2O+MgO+K2O)〕×100 | Vogel(1975) |
3.溶脱されやすい成分とAl2O3等の比 | ||
DF (化学的新鮮度) |
(FeO+MnO+MgO+CaO+Na2O+K2O)/(Al2O3+Fe2O3+H2O+) | 三浦(1973) |
CIA (Chemical Index of Alteration) |
〔Al2O3/(Al2O3+CaO+Na2O+K2O)〕×100 | Nesbit & Young(1982) |
CIW (Chemical Index of Weathering) |
〔Al2O3/(Al2O3+CaO+Na2O)〕×100 | Harnois(1988) |
SIW (Simple Index of Weathering) |
〔Na2O/(Al2O3+H2O+)〕×100 | 天田・岡谷(1989) |
4.三二酸化物等に対するSiO2の比 | ||
PI (Product IndexまたはWeathering Direction) |
〔SiO2/(SiO2+Al2O3+Fe2O3)〕×100 | Reiche(1943) |
Silica-to-Almina Ratio | SiO2/Al2O3 | Ruxton(1968) |
SAIR | SiO2/(Al2O3+H2O+) | 大見ほか(1975) |
Silica-Titania Index | {(SiO2/TiO2)/〔(SiO2/TiO2)+(SiO2/Al2O3)+(Al2O3/TiO2〕}×100 | Jayawardena & Izawa(1994) |
5.新鮮岩と風化岩の風化指標の比 | ||
WI (Weathering Index) |
風化岩のWPI/新鮮岩のWPI | Short(1961) |
ADF (絶対的化学的新鮮度) |
(風化岩のDF/新鮮岩のDF)×100 | 三浦(1973) |
Imob (Mobiles Index) |
(Mobf−Mobw)/Mobf Mobf :新鮮岩の(K2O+Na2O+CaO)含有量 Mobw :風化岩の(K2O+Na2O+CaO)含有量 |
Irfan(1996) |
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K (Quality Index) |
ΣPiXi/ΣPjYj Pi :新鮮な鉱物Xi の割合(%) Pj :風化鉱物・亀裂等Yi の割合(%) |
Mendes et al.(1966) |
Percentage of Secondary Minerals |
(1) (二次鉱物の個数/石英以外の初生鉱物の個数+石英の個数)×100 |
Weinert(1968) |
(2) (二次鉱物の個数/石英以外の初生鉱物の個数)×100 |
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変質部量 | 〔長石の変質部/(長石の変質部+未変質の長石)〕×100 | 九里ほか(1971) |
RSM (Secondary Mineral Rating) |
Σ〔P,M〕TR P:二次鉱物含有量(%) M:鉱物の安定性に関する評価点(2.0〜10.0) TR :岩石の組織に関する評価点(0.3〜2.0) |
Cole & Sandy(1980) |
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DAR (Durability Absorption Index) |
Durability Index/(吸水率+1) Durability Index:摩耗損失量の1種 |
Smith et al.(1970) | |
RDI (Rock Durability Index) |
RDIS (Static Rock Durability Index) |
〔Is(50)゜−0.1(SST+5
WA)〕/SGssd Is(50)゜:飽和供試体および絶乾供試体の点載荷試験値の平均値 SST:硫酸マグネシウムによる安定性試験における質量損失 WA:吸水率 SGssd:飽和表乾比重 |
Fookes et al.(1988) |
RDID (Dynamic Rock Durability Index) |
0.1(M.AIV+5 WA)/SGssd M.AIV:Modified Aggregate Impact Value |
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IRD (Index of Rock Durability) |
R/(n+2a) R:一軸圧縮強度(MPa単位) n:有効間隙率(%) a:吸水膨張ひずみ(10-4単位) |
Rodrigues & Jeremias(1990) |