水谷・歌田(1991)による〔『地球表層の物質と環境』(35-49p)から〕


1.4 続成作用
 沈積直後の堆積物は一般に多量の水を含み、軟らかい。一方、砂岩や泥岩は未固結の砂や泥に比べて密度が高く、固い。両者の間には物理的性質や岩石学的特徴に明らかな差が認められ、堆積物は地下深部に埋没され、時間が経過すると、その性質が連続的に変化していくことがわかる。この沈積後の変化にはいろいろな現象が含まれているが、それらは一括して続成作用とよばれる。堆積岩がもっと深く、圧力も温度もより高い場所に、さらに長時間おかれれば、このような変化は継続して進行し、その結果堆積岩は変成岩にかわっていく。したがって、続成作用と変成作用との間には明瞭な境界があるわけではなく、研究の対象となる鉱物や岩石、あるいはその方法によって、これらのことばは便宜的に用いられているにすぎない。続成作用がおこっている環境は、おおよそ200℃、2kbarぐらいまでで、それより高温あるいは高圧の環境は変成作用の領域とされている。しかし、これも本質的な意味があるわけではない。
 続成過程でおこる変化を明らかにするためには、堆積岩の性質がどのような因子に影響されて、どう変化するかを知る必要がある。理想的には自然と同じ環境条件をつくり、長い時間をかけて実験を行なえばよいが、実験の完了までに続成作用が進行するに要すると同じだけの時間がかかり、実験は可能であってもその結果を知ることは困難であって、研究としては意味がない。これを克服するために実験温度を自然のそれよりも高くして反応速度を高める方法がとられる。また比較的短い時間におこったわずかな変化をとらえ、それを全変化過程に外挿する方法もある。これらの結果は、前者では変化の温度依存性の程度が実験条件と低温の自然状態とで変わらないという仮定、後者では観察された変化が全過程を通して定常的に進むという仮定にたって、実際の現象を説明するのに用いられる。
 一方、自然が行なった実験結果、すなわち堆積岩の性質の変化を観察することもまた重要である。続成作用の過程でおこっている現象には、堆積物の間隙が減少し、その密度の増加する圧密(compaction)、構成粒子を互いに結びつけ、あるいは間隙をうめていく膠結(cementation)、すでに存在する物質が結晶として大きくなっていく再結晶(recrystallization)、鉱物が別の物質によって置換されていく交代(replacement)、構成鉱物の差によっておこる差別的溶解(differential solution)、新しい鉱物が生成する自生作用(authigenesis)などの諸作用がある。これらはいずれも堆積物と堆積岩を観察し、それらを比較して明らかにされた現象である。適切な年代資料が得られる場合には、その時間的変化を追跡することもできる。いかなる性質がどのように変わり、またそれがどう説明されているか、以下、続成過程でみられる変化を概観してみよう。

a) 続成作用による堆積岩の変化
 顕微鏡下で砂岩の薄片をみると、大きさの異なった砂粒が相互に入り組み合いながら、その間をうめている基質とともに、この岩石をつくっていることがわかる。Griffith(1967)Pettijohn et al.(1972)は、砂岩にみられる粒子と粒子の接触関係を整理し、粒子が基質で囲まれている独立粒子(floating)、互いに点で接触している点接関係(point contactまたはtangent contact)、面で接している面接関係(long ncontact)や凹凸関係(concavo-convex contact)、さらに粒子の境界が複雑に入り組んでいる縫合関係(sutured contact)とに分けている(図1.20:略)。
 堆積物が圧密を受けると粒子あたりの接触点の数や接触面積が増加し、点接状態にはじまる接触関係はやがて面接関係へと変わり、ついには粒子どうしは互いに密着して凹凸関係や縫合関係をもつようになる。このような変化過程はいかなる機構によって進むのであろうか。礫と礫とが直接接している場合、一方の礫の表面上に他の礫によってつくられた凹みのみられることがある。相接する礫が同じ岩質であっても凹みは発達するが、とくに一方が固く丸みの曲率が小さい場合には、これが他方に対して深く食い入っていることが多い。このような礫はその外観から‘えくぼ石’(pitted pebble)とよばれる。この凹みの内部や周辺に割れ目が発達することもあるが(図1.21:略)、この構造ができるときに礫が塑性的に変形したという証拠はなく、この凹みは圧力を受けながら片方の礫が差別的に溶解したことによってできたものと推定されている。固体粒子が互いに接触する部分には、局部的に大きな力が加わる。この力はときには粒子自身の破壊強度を越えるほど大きくなることもあろう。たとえ破壊にいたらなくても、このような応力を受け歪んだ鉱物は化学的には不安定である。たとえば石英の水に対する溶解度を研究したSiever(1962)は、歪のほとんどない石英が常温で水に約10ppm溶解するのに対して、歪んだ石英はその10倍もの溶解度をもつことを明らかにしている。粒子と粒子の接触部に応力が集中した場合、間隙水が十分にあれば、その部分は選択的に溶解が進む。凹凸関係や縫合関係、あるいは‘えくぼ石’ができるのは圧力を受けながら溶解が進むためとされていて、この変化過程は圧力溶解作用(pressure solution)とよばれる。
 縫合関係が極端に発達すると、ジグザグの細長い柱状の形態をもつスタイロライト(stylolite;顕微鏡的なスケールのものはmicrostylolite)がみられるようになる(図1.22)。このような構造は、鉱物によって相対的に圧力溶解作用の受け方に差があることを示唆している。圧力溶解作用は接触部にはたらく力と堆積物の間隙に保持されている水溶液の化学的性質とによって規制され、きわめて局部的な環境を反映して進行するため、多くの岩石学的事実があるにもかかわらず、いかなる条件でどの程度の変化がおこるかについては不明な点が多い。ともあれ、溶解を規制しているのは、ごくかぎられた一部分の物理化学的条件である。その規制が解かれれば、その近傍であっても水に溶けた成分はそこで沈殿するであろう。たとえば、図1.23(略)をみてみよう。石英砂岩の中には、砕屑粒子の外側にこのようにして光学的連続性をもって2次的に石英が成長していることがしばしばある。この新しくできた部分は続成作用の過程で形成されたことは疑いない。それをつくる珪酸はおそらくごく近傍の石英粒子の圧力溶解作用によって溶出したものと考えられている。
 堆積物の圧密による変化はとくに体積の減少として現われ、図1.24(略)に示すように類似の性質をもつ堆積物は埋没深度とともにその間隙率を減ずる。しかし、その変化率は粒径や基質の量などにも関係していて、必ずしも深度だけによって間隙率が決まるわけではない。泥質堆積物の場合、これを構成する粘土鉱物は葉片状の形態をもっているため、その集合状態に応じて堆積物の中でいろいろな骨格構造をつくっている。葉片の端面と底面が互いにT字形に接触したカードハウスとよばれている構造(図1.25:略)はその1例であり、粘土鉱物が凝集して沈積する際にしばしば形成される。このような集合状態をもつ粘土鉱物を主体とする泥質堆積物は明らかに間隙率が高い。このカードハウス構造は圧密の過程で変形し、葉片状の鉱物は次第にその底面を受けた力の方向に直角に向け、互いにほぼ平行な選択方位をもって配列するようになる。そして、それがつくっている空間は狭められ、間隙率は減少していく。泥質堆積物はこうして泥岩から頁岩へと変わる。
 水を含んだ堆積物が圧密を受けると、その中の水は地下深部から地表へと移動する。その速度はその間に通りぬける地層の透水度によって異なり、上下に透水度の低い層があれば、その間の堆積物中の流体は堆積物の圧密が進むにつれて高圧をもつようになる。時間が経過すれば最終的には静水圧につりあった平衡状態になるであろう。しかし、その途中の段階では部分的に高圧が発生するのはむしろ普通の現象である。
 堆積岩が深く埋没され、固体の粒子がつくる骨格構造によってそこに加わっている全圧力(lithostatic pressure)が支えられるようになると、間隙にある水の圧力はその全圧力と必ずしも同じではなくなる。たとえ温度や圧力が同じであっても、岩石中の水は常にいくらかのガスや可溶性成分を含んでいて、水が純粋な場合に比べると反応に関与する水の量(化学ポテンシャル)はやや少なくなり、固相との間で成り立つ化学平衡の温度も異なってくる。純粋な水が十分にあってこれが岩石の間隙をうめていれば、水の圧力(PH2O)は岩石にかかる全圧力(PTotal)に等しい。しかし一般には上に述べたような関係から、前者は後者より小さい。この差は堆積物の中でおこる反応−とくに水が直接関係する反応−に大きな影響を与える。Liou(1971)の行なった次の脱水分解反応についての研究結果はその影響を示す1例である。彼は
   CaAl2Si4O12・4H2O(ローモンタイト)=CaAl2Si4O12・2H2O(ワイラカイト)+2H2O
の反応について実験により図1.26(略)の太線で示す平衡曲線を得た。この結果を参考にして、PH2O/PTotalの差による平衡曲線の位置の変化が求められる。計算された結果は図1.26の細線および点線で示されているが、PH2OがPTotalより小さく、PH2O/PTotalが減少するにしたがい、この反応の平衡関係はより低温側へと移動する。このような関係は他の反応についても予想されていて(Coombs et al.、1959)、とくに水が関与する低温の変質作用に関する平衡を考える場合、PH2O/PTotalは鉱物の安定領域を決める重要な規制因子となっている。

b) 続成作用の特徴
 続成作用には上に述べたようにいろいろな現象があり、それらは物理的にも化学的にも多くの因子によって規制されている。続成作用のおこる系は地殻表層部にあって開放系に近い。さらに、そこではある環境条件におかれてすぐに平衡に達するような速い変化は少ない。また埋没とともに環境条件も変わっていく。そしてその変化も決して定常的ではない。しかしながら、堆積物や堆積岩の性質を比較検討してみると、続成作用の過程でみられる変化には次のような特徴のあることがわかる。すなわち堆積岩の性質は続成作用の過程で明らかに連続的に、しかも累進的(progressive)に変わり、その変化は非可逆的である。この事実は堆積岩の性質を検討し、その相対的な変化を整理することによって、続成作用の全過程を追跡することができることを意味している。表1.10に示した変化は続成作用のときにおこるそのような特徴をもった現象である。これらはいずれもそれぞれ順序的な、あるいは相対的な尺度として続成作用の程度を比較するのに有効ではあるが、これらの間の相互の関係についてはよくわかっていない。ただ実際の堆積岩について系統的にその変化の傾向を調べ、結果を並記してみると、それら相互の関連性を推察することはできよう。図1.27(略)は泥質堆積岩の属性過程における変化をまとめたもので、各変化がどのような時期におこり、いかなる条件下で進行しているかが示されている。

表1.10 続成作用の過程でみられる堆積物・鉱物・有機物の累進的な変化(主として下山・飯島、1977による)
堆積物の物性 間隙率の減少
密度の増加  
鉱物 転移 珪酸(opal A→opal CT→石英)
炭酸塩(アラゴナイト→方解石)
鉱物組成 粘土鉱物(モンモリロナイト→混合層粘土鉱物→緑泥石)
沸石・長石(クリノプティロライト→モルデナイト→アナルシム→アルバイト)
結晶度 イライト
opal CT
有機物 石炭化度 ビトリニット反射率の増加・炭化度の進行
石油系列 熟成度の進行
化石殻の保存度の低下

 続成作用の過程でおこっている変化は、ある特定の因子によって決定的に規定されているものは少なく、いくつかの因子によって規制されながら進んでいくものが多い。しかし、なかにはもっとも本質的な要因だけに注目して、簡単な系として取り扱うことができるものもないわけではない。物質移動をほとんど無視し、近似的に閉鎖系での反応とみなして変化を追求することが許される現象もある。一方、自生作用や交代作用の結果できた新しい鉱物の中には、それが形成される以前にいかなる経緯を経たかは不明ではあるが、それができたときの環境条件を反映し、そのときの安定状態を凍結した形で残しているものもある。また埋没深度が大きくなり、地温勾配から判断して温度が十分に高くなり反応が速く進むため、平衡論的な考察が許される場合もある。近似的に閉鎖系での反応とみなされる例には続成過程における珪酸鉱物の変化があり、平衡論的な取り扱いがされている例として沸石の生成があげられよう。

c) 珪酸鉱物の続成変化
  珪質堆積岩を構成する鉱物は主として珪酸鉱物である。古い地質時代のチャートは石英やカルセドニーからなり、第三紀中新世の珪質頁岩などは鉱物学的にはクリストバライト(opal CT)からなる。珪質堆積岩の中の物質が長い時間の経過とともに、続成作用の過程で変化し、非晶質の珪酸(opal A)が石英になっていくことは古くから知られていた。その変化がどのような特徴をもち、何によって規制されるかは、Heydemann(1964)の研究をはじめとして多くの実験的研究によって明らかにされ、現在までに表1.11のような変化過程が知られている。この表のうちvi)の反応がもっとも普通にみられ、自然界でもこの過程で変化が進んでいるものと考えられている。中間生成物のシリカK、シリカXおよびケニヤアイトの形成は溶液の性質に関係しているらしい。また、これらの反応で現われるopal CTは、初期にできるものはクリストバライト結晶構造の(101)面間隔が広く、その後、これが次第に狭くなるという性質をもっている(Mizutani、1977)。最終生成物の石英は厳密にはカルセドニーであり、その光学的伸長性は正のものも負のものもある。この変化過程の速度は反応温度により異なり、高温では速く、低温では遅い(図1.28:略)。反応速度式を実験的に定めることができれば、この反応速度の温度依存性は活性化エネルギーの値として計算できる。また、この速度は水溶液の性質にも依存している。たとえばpHが大きくなると変化は速く、小さいと遅い。溶液中の陽イオンの種類によってもこの速度が左右されるといわれている。

表1.11 熱水実験による珪酸鉱物の変化過程1)
i) opal A → シリカK → 石英 Keat(1954)
ii) opal A → シリカX → シリカK → 石英 Robarick(Bettermann & Liebau, 1975による)
iii) opal A → シリカX → opal CT → 石英 Heydemann(1964)他
iv) opal A → メラノフロジャイト → …… Stein(1978)2)
v) opal A → ケニヤアイト → opal CT → 石英 Florke et al.(1975)
vi) opal A → opal CT → 石英 Campbell & Fyfe(1960)他
vii) opal A 石英 Oehler(1976)
1) 鉱物の化学組成などについては表3.3参照(p.137:略)、2) 私信

 一般に、地殻表層部の堆積岩の形成される環境では、化学的条件はそれほど著しく変動しない。したがって実験結果を参考にすれば、珪質堆積岩中の珪酸鉱物が石英へ変化する過程は温度と時間によって決まると考えられる。珪質堆積岩の年代と構成鉱物の関係を調べてみると、石英を主成分とするチャートは新第三紀以降の地層にはきわめて例外的にしか産出しない。新第三紀中新統についてUtada(1965)がまとめた結果は、深く埋没された地層では珪酸鉱物が石英であり、浅い部分ではクリストバライトであることを示している。そこでは表1.11のvi)の変化が現在も徐々に進みつつあると考えられる。珪酸鉱物を含む各地層が経てきた温度変化の歴史がわかれば、それらの中の珪酸鉱物の種類を知ることができるという考えにもとづき、沸石の種類とその分布を手がかりとしてMizutani(1970)Utada(1965)によって明らかにされた珪酸鉱物の分布を説明した。
 クリストバライトの結晶構造における(101)面間隔は、珪酸鉱物種の変化に比べて、はるかに鋭敏で精密な続成区分のスケールとして役立つ。クリストバライトを含む地層において、深さとともにこのd(101)の値が連続的に減少し、これによって地層がさらに細かく区分できることはMurata & Nakata(1974)Mitsui(1975)Mitsui & Taguchi(1977)によりカリフォルニアおよび北海道の中新統から報告されている。この事実はクリストバライトの(101)面間隔の変化を用いて、さらに詳細な温度変化の経過を議論できることを示唆する。地層は地温勾配にしたがい、埋没や上昇の過程でそれぞれの部分で異なった温度変化を経験する。この差は同一の地層においても褶曲の向斜部と背斜部ではことに著しく現われ、その結果はクリストバライトの(101)面間隔に反映するであろう。図1.29(略)に示したカリフォルニアの中新統Monterey Shaleの褶曲構造とクリストバライトの結晶構造との関係は、地層の境界線とd(101)等値線が平行ではなくわずかに斜交し、変形が行なわれながら珪酸鉱物の変化が進行していったことを示している。

d) 沸石相
 堆積岩中の火山ガラスは埋没されると、温度・圧力あるいは化学的条件の変化に応じて種々の沸石に変化し、最終的には変成岩になる。この過程の研究はCoombs(1954)がニュージーランドの三畳系について沸石を記載し、Coombs et al.(1959)が‘沸石相’を定義したことにはじまった。彼の研究した地域では、それまで非変成と考えられていた部分に普遍的に沸石が存在し、堆積物の上部にはヒューランダイト・アナルシムが、下部にはローモンタイトが、さたに下位の高変成相には、プレーナイトとパンペリー石が出現する。同様な沸石類の産状はオーストラリア東部やプエルトリコなどの造山帯で塩基性物質に富む地層が発達する地域からも報告されている。わが国の第三系や白亜系のように酸性物質が多く、地温勾配の高い地域には図1.30(略)のような沸石の分布がみられ、より高い変成相にあたるところにはアルバイトが現われる。これとまったく同様な分布は現在も沸石化が進行していると考えられる新潟油田・秋田油田・関東平野地下の海成堆積物でもボーリングにより確認されている。
 このような各地の沸石の広域的な分布と系統的な変化は、この鉱物がある程度化学平衡の成り立った状態を反映しているためにみられる現象と考えられ、沸石は変成作用の中の1つの鉱物相を表わすとみなされている。沸石相の岩石は、一般に変成岩特有の片状構造を示さない。沸石相の変成作用はこのような構造をつくる運動とは直接関係をもたない変成作用である。そのため、これは埋没変成作用(burial metamorphism)とよばれることもある。沸石相は、いわゆる変成作用の中でもっとも低温低圧の領域を代表し、同時にまた続成作用のもっとも進んだ段階を示す。
 温度は沸石化の進行を規制するもっとも大きな要因である。上述の新潟、秋田、関東の3地域で沸石化のはじまる温度は共通して40〜50℃である。この値は他地域で炭質物ビトリニットの反射度から推定された値とも矛盾しない。沸石化のはじまる埋没深度では地層の中に含まれている水の組成変化はまだ小さく、間隙は十分に残っていてその移動も容易なため、水の化学的性質は一様であるとみてよい。したがって上述の沸石化の温度は特殊な環境のものを除けば一般にあてはまる温度条件と考えられる。しかし異常な堆積環境では、沸石化はもっと低い温度でしかも速く進む。アメリカ西部やアフリカ東部の高アルカリ湖では、常温下で数千年内に火山ガラスが沸石化している例がある(Hay、1966)。
 埋没が進んで沸石帯からアルバイト帯へと変化する部分は、新潟油田で実測された結果によれば、約120℃の条件にある。ここではおそらく、次の反応がおこっているものと推定される。
   NaAlSi2O6・H2O(アナルシム)+SiO2(石英)=NaAlSi3O8(アルバイト)+H2O  
この反応についての実験では、普通の地温勾配領域(0.5〜5℃/100m)で平衡曲線は約190℃のところを通る(図1.31:略)。この実験値とさきの実測値との差、約70℃はどのような原因によるのか、まだ解決されていない。
 火山ガラスから沸石に変化する初期の過程では水のはたす役割が非常に大きい。火山ガラスが溶液と反応すると、まず諸成分の溶脱と水和がおこる。結晶化もガラス片の外縁から中心へと進むから、粗粒のガラス片では反応がかなり進んでも中心部に未変質のガラスを残していることがある。溶液からの沈殿によって沸石やオパールがガラス片を膠結する作用もこれとほとんど同時におこる。こうしてできたクリノプティロライトやモルデナイト(ときにはスティルバイトやフィリップサイト)は、その後、埋没が進むとアナルシムやローモンタイトに変わる。おそらく埋没とともに温度や圧力が変化するからであろう。しかしながら、この反応は
   2(NaAlSi5O12・3H2O)(モルデナイト)+Ca++=CaAl2Si4O12・4H2O(ローモンタイト)+6SiO2(石英)+2H2O+2Na+
からわかるように、液相と固相の間での成分の交換を伴う。つまり温度や圧力だけでなく、陽イオンの活動度もこの反応を規制する原因になっている。このように沸石化作用に伴って液相も固相もその化学組成を変える。アナルシムが形成される場合、化学分析値を比較してみるとアナルシムのできている岩石は原岩に比べてはるかにNaが多く、その値はときには原岩の5倍にもなることがある。この事実からも推定されるように、沸石化作用にはかなりの物資移動がある。これは最初間隙に含まれていた地層水からだけではとてもまかないきれない量であって、何らかの形で系の外から移動してきたものと考えざるをえない。沸石化作用に伴う成分移動は顕微鏡的規模のものから、地層間にわたる大規模のものまで知られており、アルカリまたはアルカリ土類イオンの移動によっても沸石の帯状分布ができると解釈されている。』

引用文献(注:関係分のみ)

Coombs(1954) (欠)
Coombs,D.A., Ellis,A.J., Fyfe,W.S. and Taylor,A.M.(1959)
: The zeolite facies, with comments on the interpretation of hydrothermal syntheses, Geochim. Cosmochim. Acta, 17, 53-107.
Griffith(1967)
 (欠)
Hay,R.L.(1966): Zeolites and zeolite reactions in sedimentary rocks, Geol. Soc. Am., Spec. Paper, 85, 130.
Heydemann(1964) (欠)
Liou,J.G.(1971): P-T stabilities of laumontite, wairakite, lawsonite and related minerals in the system CaAl
2Si2O8-SiO2-H2O, J.Petrol., 12, 379-411.
Mitsui(1975) (欠)
Mitsui & Taguchi(1977) (欠)
Mizutani(1970) (欠)
Mizutani,S.(1977): Progressive ordering of cristobalitic silica in the early stage of diagenesis, Contr. Mineral. Petrol., 61, 129-139.
Murata & Nakata(1974) (欠)
Pettijohn et al.(1972) (欠)
下山俊夫・飯島東(1977):埋没続成における有機物と無機物との関係、藤岡一男教授退官記念論文集、131-149.
Siever(1962) (欠)
Utada,M.(1965): Zonal distribution of authigenic zeolites in the Tertiary pyroclastic rocks in Mogami district, Yamagata Prefecture, Sci. Papers, Coll. Gen. Educ., Univ. Tokyo, 15, 173-216.