水谷(1987)による〔『日本の堆積岩』(2-14p)から〕


1.1 堆積岩と堆積作用
 地球の表層部で堆積作用によって形成される岩石を総称して堆積岩と呼ぶ。堆積作用は、地殻が大気や水と接する部分で起こっている大規模な物質移動現象であり、既存の岩石が物理的に崩壊したり化学的に分解する風化作用に始まり、運搬作用沈積作用、そして、軟らかな堆積物が固い堆積岩へと変っていく続成作用の全過程を含んでいる。
 堆積岩を構成する物質は、主に既存の岩石から供給される。従って、新しく形成される堆積岩の構成物質は、それら既存の岩石とその構成鉱物の地表条件下での挙動と密接な関係をもっている。例えば、風化作用に対して抵抗性をもつ岩石や鉱物は、分解したり溶解したりすることなく、固体粒子として残り、運ばれ、集積して砂や泥などの堆積物をつくるが、そうでないものは、変質して別の鉱物に変わったり、分解して水に溶けたりする。大気中の酸素と結合して酸化物をつくったり、水を取り込んで含水珪酸塩となるものもある。ヨーロッパやアメリカなどに発達している蒸発岩は、海水や湖水が蒸発作用を受けた結果、その中に溶解していた成分が無機的に析出し、沈殿・集積したものである。このように、堆積岩の鉱物組成や化学組成は形成環境や成因によって異なっている。
 既存の岩石から供給されたばかりの石英粒子(図1.1:略)は、貝殻状断口と呼ばれる破断面を示し、また外形は著しく角ばっている。一方、砂漠の砂の石英粒子(図1.2:略)は、運搬作用の過程で角が磨滅して丸くなり、その表面に微細な傷が沢山ついている。しかし、これらの粒子の内部は花崗岩の石英と全く同じ結晶構造をもっている。このように、物理的あるいは化学的な作用により、外観や大きさだけが変化しながら運搬され、沈積する粒子のことを砕屑粒子という。砕屑粒子の形状は、運搬された距離や環境によって変わる。肉眼では認めにくいわずかな変化も、電子顕微鏡で高い倍率にして詳しく観察すると、粒子の表面組織の特徴をつかむことができる。
 砕屑粒子とは対照的に、化学的に沈殿した堆積物の性質はそれができた場所の環境条件を反映している。例えば、固体粒子を核とし、アラレ石からなる球状体(ウーイド、図1.3:略)の同心円構造は、炭酸カルシウムが沈殿を繰り返しながら成長したことを示し、このウーイドが形成されたところでは、アラレ石が海水から直接析出する時期のあったことを物語っている。微粒のアラレ石は続成作用の過程で、化学成分は同じであるが結晶構造の異なった方解石に変わる。この変化と並行してウーイド粒子の間隙に粗粒の方解石が沈殿し、固い緻密な魚卵石石灰岩ができる。
 堆積岩をつくっている構成要素は、その形成過程を反映して、組織あるいは構造と呼ばれる特有の集合状態をもつ。顕微鏡的な規模のものを組織、肉眼的なものを構造と便宜的に区別するが、両者をともにファブリクと呼ぶこともある。堆積岩に共通に見られる構造は層理であり、一般に堆積物の粒度または組成の異なる境界面として示されている。堆積時にできた構造は初生堆積構造と呼ばれ、地層の底面、内部、表面にさまざまな形態をもつ模様として観察される。その多くは実験室において再現できるので、いかなる条件の時にどのような構造が形成されるかがわかる。すなわち、初生堆積構造は堆積岩の沈積時における状況を知る重要な手掛かりである。初生堆積構造は、その後の底生生物の活動などによって著しく乱されることがある。この生物擾乱作用の結果、層理面が不明瞭になり、泥と砂が不規則に入れ混じった岩石が形成される。
 続成作用の過程では、堆積物は圧密を受け、塑性変形を伴う粒子の再配列が起こる。さらに、細粒の構成鉱物が合体して粗粒の結晶をつくる再結晶作用、差別的溶解作用、新しい鉱物が生成する自生作用、あるいはミクロ的な結晶構造の変化などによって、別の組織や構造ができる。この過程では、堆積物の構成要素もその集合状態も、ともにそれまで準安定であった状態から物理的にも化学的にもより安定な状態へと変っていく。その変化過程はきわめて遅いが、続成作用の期間は、それ以前の風化作用や運搬作用の期間に比べてはるかに長い。それ故、わずかな変化が長い間に集積され、結果として特有の鉱物組成や構造をもった緻密で固い堆積岩ができることになる。
 温度と圧力を指標として考えると、続成作用と変成作用は連続的で、両者の間には明確な境界はない。例えば、火山灰が集まってできた凝灰質堆積物は続成作用の結果、その中に新しく沸石鉱物ができることが多いが、沸石鉱物を含む岩石は必ずしも堆積岩に限られているわけではない。沸石鉱物は火山岩の中の気孔や割れ目にも産し、また変成岩類の一部にも変成鉱物として含まれている。相対的に低い温度と圧力で起こる変化現象を続成作用として取り扱い、おおよそ200℃、2kbarを温度・圧力の上限の目安としているが、この値に本質的な意味はない。事実、固結した堆積岩中に時々見られるマイクロスタイロライト構造(図1.4:略)は、応力下での鉱物の溶解現象を示していて、圧力溶解作用によるとされているが、同様な構造は変成岩中にも観察される。

1.2 堆積環境の解析
 堆積作用は、現在地表で進行している。異なった環境では異なった種類の堆積物が見られ、その性質を調べて、それぞれの堆積物がどのような環境で形成されたかを知ることができる。現在観察できる堆積環境と堆積物の特徴との対応関係は、過去においても著しく変わることはなかったであろう。つまり、古い地質時代の堆積岩を調べれば、当時の堆積環境を知ることができるであろう。しかし、その考えで地球の歴史を明らかにしようとする立場からは、地球の誕生とか、初源地殻の形成といった地球の根源的な環境の変化に言及することはできない。現在みられるいろいろな堆積環境とそこで形成されている堆積物との対応関係を基本的な経験則とし、これに実験室で調べることのできる物理化学的法則性を加えて事実を解釈するという立場をとるかぎり、議論できる現象には制約がある。しかしながら、一度地殻が形成され、海洋ができれば、その時から堆積作用が始まり、堆積岩がつくられてきたことは明らかである。その時期から以降の歴史については、われわれは上記の立場にたって研究を進めることができる。
 一片の岩石試料にも多くの情報が含まれているが、その集まりである地層や地層群には、さらに広い時間と空間の変動が記録されている。ある期間における広がりをもった堆積岩の性質を堆積相という。堆積環境の復元はこの堆積相の解析によって行われ、次の手法と考え方に従って進められる。まず、現在の地表における堆積物について詳細な観察が行われ、その記載に基づいて、空間的な位置とそれぞれの場所における垂直的な岩相変化を示すモデルがつくられる。これを相モデルという。このモデルは柱状図の形式で表現されることが多い。柱状図で示された垂直的な岩相の変化は、その場所における堆積物形成条件の時間的変化を表し、またそれぞれの地層ができた時期の環境の側方変化を表している。山麓部にできた扇状地や河川デルタ、あるいは海岸地帯など、いろいろな堆積環境について、それぞれの環境の特徴を示した相モデルがつくられ、一方それらとは独立に、古い地質時代の地層について堆積相の特徴が柱状図とあいてまとめられる。これらの結果は互いに比較され、問題とする地質時代の堆積相と最もよく似たものが現在の環境の中から選び出され、過去の環境が推定される。
 例えば、南部北上山地牡鹿半島のジュラ紀の地層の中で、上方細粒化層の繰り返しによって特徴づけられる牧の浜砂岩は、河川流路の不規則な側方移動を主体とする堆積環境で形成されたと推定されている(図1.5:略)。
 地球上の環境は大きく陸域と海域に分けられる。陸域の堆積環境を大きく支配しているのは気候条件である。なかでも年平均気温と年降雨量は最も重要な因子である。植生はいうまでもなく、風化作用や侵食作用の程度はこれらの因子によって大きく左右され、その差により特有の環境がつくられている。代表的な堆積環境とその特徴についてまとめると次のようになる。
 河川堆積環境   山岳地域では流水は削剥作用によって地表を削り、砕屑物を下流域へ運搬する。平野部に流れ出た河川は流速が急激に低下するため、そこに多量の砕屑物を堆積する。典型的な形態をもつものとして扇状地が挙げられる。ここでは短期間に大量の砕屑物を運ぶ岩屑流が堆積物をつくっている。また、その中を間欠的に流れた河川流路が不規則に広がり、これをうめた堆積物がレンズ状に分布する。さらに平原地域に出た河川は、出水や増水ごとにランダムな流路をとり、分岐と合流を繰り返して網状河川をつくる。この環境では、礫と砂を主とする堆積物が形成される。地層には斜交層理の見られることが多い。また流路の時間的変遷によって、しばしば上方細粒化層が発達する。
 砂漠堆積環境   乾燥地帯では流水の作用はほとんどなく、また、あったとしても継続的ではなく短期間で間欠的なものである。ここで作用する営力の大部分は風であり、それによって運ばれた砂が堆積物を構成する。砂丘に見られるように、巨大な斜交層理が発達し、砂粒はよく分級され、円磨され、その表面には磨りガラス組織が見られるようになる。乾燥地帯の一部には、時に高塩度の湖沼ができて、小規模な蒸発岩が形成されることもある。一方、海に面した地域では岩塩、石膏などを伴った石灰質堆積物が発達する。このような環境はサブカと呼ばれる。
 氷河堆積環境   氷河の発達する寒冷地帯には、きわめて分級の悪い礫と砂、泥の混合物が広域に分布する。この堆積物は漂礫土と呼ばれる。この中には氷河が流下する際、基盤の岩石につけた擦痕をもつ礫がしばしば含まれる。氷河が形成された時、その地域に湖沼があると、夏冬の年間気温の変動に伴ってそこに流入する融水の量に変化があるので、年周期を示す特徴的な堆積物ができる。すなわち、夏期を示す厚い比較的粗粒な層とほとんど流水のない冬期にできた薄い泥の層との互層が形成される。これが氷縞粘土である。氷河堆積環境では、植生や雨水の影響がほとんどないため、相対的に風の作用が目立つ。その結果として、この堆積環境では、細粒の砕屑物からなるレスの発達が顕著になる。
 三角州堆積環境   河川が平原から海に入ると、供給された砕屑物はそこで堆積し、沿岸流などで他へ移動しないかぎり、大きな三角州が発達するようになる。その構成物は蛇行河川から浅海性の大陸棚までの堆積物からなり、これらをまとめて三角州複合堆積物と呼ぶことがある。河口付近では淡水と海水の環境はしばしば変化し、実際には、そこに生息していた生物を手掛かりとしなければ両者を区別することはできない。三角州体の構成物を河川の流路に沿って調べてみると、内陸から海に向かって砕屑物の粒径は小さくなり、その先端の海底には泥質堆積物の分布することがわかる。この分布状態を保ったまま三角州体が成長して前進すると、その結果として上方粗粒化層が形成されると考えられる。一般に、三角州地帯には広大な沼沢地が発達することが多く、そこは生物活動の活発なところでもある。従って、ここで形成された地層には生物擾乱作用の跡がよく見られる。また、陸側の沼沢地には泥炭が形成されることが多い。
 海浜堆積環境   海岸線に沿った幅狭い地帯は、沿岸流、波浪、潮流などの影響が著しいところである。ここにみられる堆積物は、礫の場合も砂の場合もすべて分級度が高く、よく円磨され、斜交層理がよく発達している。波浪の影響があるところには対称性をもった砂漣ができる。最も普遍的に分布するのは、潮間帯(最高満潮位と最低干潮位の間の地帯)堆積物の中〜粗粒砂である。また干満の差が激しい地域には潮間平地が広く発達し、細粒砂やシルト堆積物がこれを形成している。潮間平地には不規則に曲りくねった潮流路が発達していて、そこには細かい砂礫〜粗粒砂堆積物がみられる。海岸線に沿ってしばしば潟の発達することがあり、ここでは泥炭地が形成されることが多く、泥炭あるいは有機物に富んだ泥質堆積物ができる。海浜堆積物はこの泥質堆積物と指交関係で側方に移り変わることがある。海浜堆積物は、また、中粒〜細粒の砂質堆積物を主とし、多くの生物遺骸を含んだ浅海性堆積物にも移化する。
 乱泥流堆積環境   大陸斜面から海洋底にかけての海底で主な運搬作用の役割を果たしているのは乱泥流であり、また、大陸斜面で発生する海底地すべりである。前者はタービダイトを形成し、後者はスランプ堆積物をつくる。大陸斜面からの距離や乱泥流の規模に依存して、形成される地層の粒度や厚さ・内部構造が変わり、その末端では泥質堆積物となる。陸上の山麓部に扇状地ができるように、海底でも扇状の堆積体が発達することが知られていて、これらは海底扇状地と呼ばれる。
 遠洋性堆積環境   大陸や島弧から離れた海域には、地層をつくる物質の供給が極端に少なく、そのため堆積速度は著しく遅い。平均して数mm/千年の程度と推算されている。ここには、潮流で運ばれたどく細粒の粘土、風で運搬された物質、火山爆発によって形成された火山灰、海水中に浮遊し死後沈下していった生物の遺骸などが集積している。炭酸塩補償深度より浅いところでは、CaCO3はほとんど溶解しない。そのため、有孔虫など石灰質の殻を含んだ石灰質の堆積物もみられる。一方、それより深いところでは、CaCO3は溶解し、珪質の殻をもつ放散虫遺骸などが集まった珪質軟泥が多くなる。堆積速度が遅いので、その間に、酸化作用が進んで赤色粘土が形成されたり、マンガン化合物が堆積物の表面に沈殿し、あるいは団塊をつくったりする。
 蒸発岩堆積環境   気温が高く、乾燥している地域では水分の蒸発が盛んであり、そのため内陸にある湖沼は高塩度になる。溶解している塩類の溶解度をこえるほど濃度が高くなると、それらの塩類は化学的に析出・沈殿し、集積して蒸発岩をつくる。地質時代の蒸発岩は大部分が岩塩で、そのほか石膏や石灰岩、ドロマイトを伴うこともある。
 石灰岩堆積環境   石灰質の硬質部をもつ生物が繁殖し、これが集積すると石灰岩をつくる。代表的なものがサンゴ礁であり、生物の生育と繁殖に好適な熱帯〜亜熱帯の海域にはいろいろな形状を示すサンゴ礁が発達している。火山性海洋島の周辺および上位に形成される例が多いため、この種の石灰岩は火山岩や火山性堆積物と密接に関係をもつものが少なくない。石灰岩はまた、浅く広がった熱帯地域の海域にも形成される。よく知られているバハマ諸島では、小さな島々の間に深さ数mの広大な浅海地域があり、ウーイドが現在生成している。このほか炭酸塩補償深度より浅い部分では、深海または遠洋性石灰岩が形成される。これは細粒・均質な石灰岩で層状をなし、他の遠洋性堆積物中に夾在する。

 堆積相の研究は、その堆積岩のできた場所の環境解析に主眼がおかれている。一方、砕屑岩を構成する物質には、それが沈積した場所とはほとんど直接関係ない後背地の性質を示す粒子が多く含まれている。礫質堆積岩中の礫などはその好例であり、礫の岩石学的研究は礫岩の構成物質が供給された後背地を議論するためには不可欠である。
 初生堆積構造には、しばしばその堆積物を運んだ流水の性質や方向を示す構造が残されている。底痕あるいは斜交層理などはこの古流系を知る手掛かりを与える。鏡下における砕屑粒子の岩石学的検討と供給地域の推定、堆積相に基づく堆積環境の解析、古流系の復元、そしてこれらの空間的な広がりについての野外調査などを総合することによって、当時の堆積盆地全体の様相が明らかにされ、古地理を知ることができる。

1.3 堆積作用と地層の形成
 堆積岩は一般に層状の形態をもつ。野外の露頭で見られる地層は、肉眼で識別できる堆積岩の岩石学的特徴、つまり岩相に従って区分される。岩相の著しく異なった部分があると、地層はそこで境され、この境界によって地層の厚さが規定される。その厚さは数mm程度の薄いものから10mをこえる厚いものまであり、厚さの薄いものは特に区別して葉層と呼ばれることがある。時間の流れと地層の形態との関係を考えてみると、“時刻”を表す“面”と、二つの面で挟まれた“時間”を表す“層”が定義できる。しかし、この“層”は必ずしも“地層”に対応するわけではない。同じ時刻面は、場合によって、岩相層序学的な地層面と斜交するからである。このことは、岩相が側方に移化し、地層がしばしばレンズ状あるいは楔状の形をとることからも理解できる。しかし、長い地質時代の間には、広い地域にわたって比較的短い期間に地層が形成されることがある。火山の爆発に伴って降下堆積した火山灰層がその例で、地層の積み重なりの中には、時々このような特定の時期を示す地層が挟まれている。長い地質時代に比べればこの地層の分布する面は、ほぼ同時刻面を表しているとみなしてよい。このような地層を鍵層という。
 地層の積み重なりを岩相に基づいて分け、その順序と広がりを明らかにすることを岩相層序区分という。これに対し、産出化石の組み合わせ、順序および垂直分布によって地層を分けることを生層序区分という。岩相層序区分と生層序区分とは必ずしも一致するわけではない。また、生層序区分も、研究対象とした化石の種類によって互いに異なってくる場合が多い(図1.6:略)。とはいえ、地質学では、N.Steno(1638〜1687)の“地層累重の法則”、およびW.Smith(1769〜1839)の“化石による地層同定の法則”に従って、生層序を立て、その結果を相互に比較し、地質年代区分を確立するという研究が伝統的に続けられてきた。この仕事は、基本的には層序と化石によって地層形成の“順序”を定めるのを目的としている。その過程で、ある部分はさらにいくつかに分けられ、また、いくつかの部分は一つにまとめられたりした。われわれに馴染みの地質年代表はこのような試行錯誤を繰り返してできたものである。地質年代は、ちょうど歴史の流れがいくつもの時代に分けられているように、連続する時間を、化石となった古生物群の出現や絶滅に基づいて区分されている。一方、堆積作用は、これらの区分とは直接関係なく、間断なく続いていると考えられるので、結果としてできる一連の層序は連続しているはずである。ただ、伝統的に、生層序学的手法によって地質年代が区分されているので、それぞれの期間に合わせて便宜的に地層群をまとめて取り扱うことがある。例えば、第三紀という期間に形成された地層群は第三系と呼ばれ、古生代にできたものはまとめて古生界と呼ばれる。この“時間”と“地層”との関係を表1.1に示す。
表1.1 地質時代の区分およびそれらの期間に形成された地層群に対する名称。
この名称は必ずしも厳密に使用されてはいない。地域や時代によって地層の広がりや厚さは著しく変化し、研究の目的やその記述の仕方によって、地層群をどのようにまとめるかは、研究者の考えにまかされているためである。
 

万国地質学会
(1881)

万国地質学会
(1900)

国際層序区分委員会
(1976)

日本
(1952)

岩相層序区分単位
Lithostratigraphic units
(Rock units)
    Group 層群
Formation 累層(層)
Member 部層
Bed(s)  
 “Complex”  

年代層序区分単位
Chronostratigraphic units
(Time-stratigraphic units)
    Eonothem  
Group   Erathem
System System System
Series Series Series
Stage Stage Stage
Assise Zone    
    Chronozone  

地史年代区分単位
Geochronologic units
(Corresponding Geologic time units)
    Eon (累代)
Era Era Era
Period Period Period
Epoch Epoch Epoch
Age Age Age
Phase Phase    
    Chron  

 地球上に海陸の区別ができて以来、堆積作用は絶え間なく続いている。地球のどこかには、堆積作用が始まってから現在に至るまでの完全な地層の記録が残っていてもよいように思われる。もし、あるとすれば、それは現在の海の底であろう。しかし、海洋底で確認されている最も古い地層は、大西洋のバハマ諸島の近くで掘られたボーリングのジュラ紀中期石灰質泥岩である。おそらく三畳紀より古い地層は海洋底にはないと考えられている。
 陸上で比較的連続した層序が知られている一つの例はアメリカのグランドキャニオンにあるが、それでもカンブリア紀とデボン紀の間には地層の欠如があり、古生代の末まで続いた堆積作用は中生代の初期で終わっている。岩相と生層序を調べてみると、ある地域では、沈積作用が途中で中断され、堆積盆地は隆起し、侵食作用を受け、そしてその後、再び沈降して海の侵入を受ける、という変遷が何度もあったことがわかる。沈積作用の中断、侵食、そして、次の時期に再び堆積盆地が形成されて新しい地層が、古い地層の上に重なるという一連の変化は、層序の中で不整合として認められる。この間に、広域にわたり変形作用が起こることもあったであろう。顕著な環境の変化もあったかも知れない。堆積作用はそのような大規模な変動と密接な関係をもっていて、層序の中から読み取れるこの変遷の記録は、地球の変動の歴史を示している。
 地層はある特定の期間、ある特定の場所に形成された固有のものである。従って、特定の地層について、岩相を表す用語とともに、地名などの固有名詞をつけて、秋吉石灰岩、薄衣礫岩のように名付けられている。しかし、一種類の岩相だけでその地層の特徴を表現することができない場合もある。例えば、礫岩、砂岩、および泥岩などが繰り返し重なっているのをまとめて呼びたい時には、和泉層群のようにいう。
 相対的な順序を示すだけの地質年代に時刻の年代値を入れ、それぞれの代・紀・世・期の時間の長さを知るためには、同位体年代の測定結果を参考にしなければならない。同位体年代は、主として火成岩について測定される。しかし、その火成岩体と化石を含んだ地層との関係が明確なものは限られていて、すべての地質年代にわたって生層序との関係が明確にわかっている試料があるわけではない。それ故、地質年代に入れられた数値の刻みは、年代や対象とした試料により、あるいは研究者により、わずかに値が異なっている。
 自然界の岩石は、いずれも程度の差はあるが多少は磁気を帯びている。それは自然残留磁化と呼ばれる。地球磁場が地質時代の間に何度もその極性を変えたことが明らかになり、それに基づいて古地磁気層序が検討され、あるいはまた岩石の形成された地理的位置を議論することができるため、岩石磁気の研究は多くの分野で注目されている。よく知られているのは火山岩の熱残留磁化である。これは岩石が冷却する際、その場所の地球磁場の方向に磁化したもので、きわめて安定であり、その方向や強さは長い地質時代の間にもほとんど変わらない。堆積岩のもつ自然残留磁化も堆積岩形成時に獲得されると考えられている。堆積岩の磁化機構の一つは、堆積残留磁化と呼ばれるもので、水流の影響がないところで磁性鉱物が静かに沈降し堆積する時にできる。これらの砕屑性粒子は堆積物の中で地球磁場の方向に並び、その結果、全体がある方向をもった磁化を示すことになる。実際には堆積物はその後、圧密を受け、固結するので、安定な磁化が固定されるのは沈積した時期よりかなり後といわれている。他の一つは、化学残留磁化といわれるもので、続成作用の間に磁性鉱物が磁場の影響を受けながら生成することにより獲得される。赤色砂岩中の赤鉄鉱がその例である。堆積岩の場合、層理面がかつての水平面を表すので、褶曲した地層についても、本来の磁化方向を測定された残留磁化と層理面の方位から計算して知ることができる。こうして復元された磁化の方向は地磁気の極性に基づく対比、年代論や古緯度の推定に重要なデータとなっている。』