川幡(1996)による〔『顕生代の気候変動と炭素循環−地球内部要因と地球環境−』(44,45p)から〕



第1表 地球表層環境に影響を与える地球内部因子
アルベド 太陽から地球に供給されるエネルギーの大部分は反射されて宇宙空間に戻る。この反射率は、海洋で低く、大陸で比較的高く、氷床で高い。全球的な反射率の変化は地球表層が受け取るエネルギーに直接影響を与えるし、氷床の形成は反射率を上昇させるため、正のフードバック(ママ)として働く。
大気組成変化 太陽から地球に供給されるエネルギーの大部分は反射されて宇宙空間に戻り、その一部が大気に吸収されて地球を温暖にしている。このような温室効果を示す気体としては、二酸化炭素、水蒸気、メタン等が重要であると言われている。温室効果ガス濃度が上昇すると、太陽からの熱エネルギーが宇宙空間に戻らずに、大気圏に蓄積されて地球表層が温暖化すると考えられる。大気中の二酸化炭素濃度の長期変動をもたらす要因として重要なものには、大陸での化学風化、生物生産力、炭酸カルシウム殻の形成、火山活動による脱ガス、プレートによる炭素化合物のマントルへの輸送がある。
火山噴出 大規模な火山噴出は二つの面で影響を及ぼす。一つは火山ガスの放出を通じて地圏から地球表層の大気圏や水圏に二酸化炭素を放出である(ママ)。海嶺での海洋地殻の形成、プリュームに伴う地殻の発達は地球深部に存在する二酸化炭素を大気中に放出する効果を有する。もう一つの影響は、火山灰の噴出で、大規模な場合には、細粒の火山灰は成層圏に達し、2〜3年間も漂い、太陽光の対流圏への入射量を減少させ、全球的な気温降下をひき起こす。
海陸の地理的分布 一般に、表層海洋大循環は赤道地域にふりそそいだ余分の熱エネルギーを高緯度地域にもたらし、地球表層の温度を平均化する役目がある。大陸の配置は、表層海洋大循環とともに深層海洋大循環にも大きな影響を及ぼす。また、極地域に位置する大陸は、氷床を発達させる場を提供するとの指摘もある。また、海陸の地理は、環境のバリエーションを増やし、生物の多様性にも本質的な支配因子となっている。プリュームの活動はこのような海陸の相対的配置に大きな影響を及ぼす。
海洋大循環 海洋大循環は主に風の働きで駆動される表層海洋大循環と塩分・温度によって支配される密度差によって駆動される深層海洋大循環に分けられる。海洋は通常成層化しているので、浅層と深層との海水の混合はあまり起こらない。そして、海洋の平均水深は3km以上なので、海洋に溶存している物質のほとんどは深層に存在していることになる。海洋大循環は、深層の海水の物理的・化学的性質にも大きな影響を与え、しいては生物生産力をも支配する。これは大気中の二酸化炭素濃度に影響を与える。
海水準 海水準が高い時には海の面積が多くなるため、アルベドも小さくなり、より多くの太陽エネルギーを受け取りやすくなる。また、大陸棚の発達は、生物の進化や炭素の埋没に関して大きな影響を与え、海洋の物質循環を大きく変化させる。
海水組成 海水中の主な陽イオンの組成はこの数億年間変化しなかったと言われている。しかしながら、ストロンチウム同位体をはじめ酸素・炭素同位体比などは大きく変動してきたことが知られている。また、海洋リザーバーは大気リザーバーよりかなり大きいので、海水組成の変化は、必然的に大気組成の変化をもたらした。大気中の二酸化炭素濃度に関連して重炭酸イオンの濃度も変動してきた可能性が高い。
生物群集の変化 炭酸カルシウムを沈積する生物システムには、外洋では円石藻や有孔虫、沿岸では珊瑚虫が重要である。炭酸カルシウムの沈積が沿岸で起こるのか、あるいは外洋で起こるのかということは、地球内部まで含めた長期的な物質循環という観点でみると、外洋で沈積した炭酸カルシウムはマントルへ輸送される量を増やすという働きがある。これは、マントルの物性にも少なからず影響を与えたと考えられている。

第2表 地球表層環境に影響を与える地球外部因子
太陽放射熱量変動 太陽の活動は黒点数の変動周期11年にもみられるように、10年から10億年までの単位で変動し、それが地球の気候変動の原因になっているのではないかと考えられている。
宇宙塵反射率 太陽系は宇宙空間を運行しているが、宇宙塵濃度の高い空間に入ると太陽から地球への日射量が減少するので、氷河時代が始まると考えられる。10億年周期で起こった長期変動型の気候変動に対してこの因子の重要性が提案されている。
地球公転軌道 地球が太陽から受ける総熱量は、太陽活動が一定であると仮定すると、太陽光線の入射角および太陽と地球との間の距離の変化に支配される。すなわち、地球が太陽から受け取るエネルギー量は、地軸の傾き(黄道傾角:現在23.5゜)の変化周期約4万年、地球の公転軌道(楕円)の離心率変化周期約9.3万年、太陽および月の引力による地軸の歳差運動周期約2.2万年の合成周期によって決定される。これらの周期をもったスペクトルをたし合わせたものが地球上のある地域でのエネルギー受け取る量となる。このMilankovitch(1941)説は、第四紀においては検証されており、一部中生代などにおいても確認されている。しかし、この説だけでは、地質時代全体を通じて、なぜ、特定の時代にだけ氷河時代が存在したのかを説明することはできない。
隕石の衝突 隕石の衝突により、地球表層では破壊的なエネルギーの放出と物質の拡散がおこなわれる。白亜紀と第三紀との境界の地層には、地球外物質が多量に含まれていることから、隕石の地球への落下が地球表層環境にも大きな影響を与えたという説もある。