垣見・加藤(1994)による〔『地質構造の解析−理論と実際−』(105-110p)から〕


3. 不連続的変形−断裂
 断裂(fracture、割れ目)とは、岩石の破壊によって生じた不連続面の総称である。破壊(rupture、fracture)とは、少なくとも一時的に、粘着力の失われた面または帯が生ずることをいう。断裂は、その形態や変位の性質に基づいて、さまざまの名で呼ばれているが、本書では次のように定義して使うことにする。
@断層(fault):面に平行な方向に変位のある断裂
A裂っか(fissure、gash):面に直交する方向に変位のある断裂
B節理(joint):面を境にした変位が(ほとんど)認められない断裂
C劈開(cleavage):岩石中に極めて密にかつ一様に発達する微小な断裂

 このほかに、クラック(crack、ひび割れ)なども使われるが、本書では取り扱わない。また、劈開は微視的(microscopic)な不連続面であるが、破壊の定義の一部である粘着力の喪失があったかどうかは問わない。そして巨視的(macroscopic)にはむしろ連続的な変形の一様式と考えてもよいので、後章で扱うことにする。
 破壊のメカニズムからいうと、一般に断層は剪断(shear fracture)、裂っかは破断(extension fracture)、節理はその両方を含むと考えてよい。このような断裂を発生させる外力としては、圧縮力・引張り力・剪断力(偶力)・ねじり力などが考えられるが、上記のような変位の性質だけから直接に外力の性質を推定することは必ずしもできない。すなわち、外力の性質と断裂の様式は、1対1に対応するわけではないことに注意しなければならない。

3.1 断層の形態
 断層は、面(fault surface)に沿って両側の岩石の部分(盤、wall)が相対的に変位していることが認められる断裂のことをいう。この運動は平行移動または並進(translation)と回転(rotation)の成分に分けられる。回転運動の認められる断層を旋回断層(pivotal or rotational fault)といい、このうち、1つの断層面の中で、無変位の部分が認められるものを、蝶番断層(hinge fault)という。その他大部分の断層は、平行移動を前提として記載・分類されている。しかし、実在の断層はもちろん、変位のないところ、または断裂を生じないで連続的に変形しているところで終わる。すなわち、変位は原則として、断層の各部分で一様ではない。また、断層面そのものも単純な平板ではなく、曲面状を呈したり、分岐したり、破砕物を挟んでより複雑な形状を示すことが多い。断層面に局部的な擾乱がある場合は、後述するようにそれによって断層運動の進行とともに上盤・下盤に様々な変形が生じる。

(1)断層の要素
 傾斜している断層面によって隔てられた上側の岩石の部分を上盤(hanging wall)、下側を下盤(foot wall)という。
 断層による変位(displacement)の要素には、2つの測り方、すなわち、@実際の相対運動(actual relative movement)による変位の測定、Aみかけの相対運動(apparant relative movement)による変位の測定がある。前者による変位は、移動(ずれ、すべり、slip)、後者によるものは、隔離(separation)と呼ばれる。もちろん厳密にいえば、1つの断層面内でも変位量は変化する(たとえばMuraoka and Kamata, 1983; Ellis and Dunlap, 1988)。
 移動とは「断層ができる前には接していたが、断層によって引き離された2点間を、ある決められた方向に測った距離」をいう。この2点間の距離を実移動(net slip)、実移動の走向成分を走向移動(strike slip)、傾斜成分を傾斜移動(dip slip)という。断層のいろいろな要素と移動の成分を図3.1(略)に示す。実移動の方向と量は、断層解析にもっとも重要であるが、断層形成以前に接していた2点が、断層の両側のどこにあるかを知ることは容易ではない。
 これに対して、隔離とは断層によって引き離された、元来は一続きであった面の両側の部分を、ある決められた方向に測った距離をいう。この場合には、同一の地層面、岩脈、既存断層などが、断層の両側に認められさえすれば、実移動の方向とは無関係に測定することができる。断層の走向方向に測った距離を走向距離(strike separation)、傾斜方向の距離を傾斜距離(dip separation)、 水平断面上で測った断層の両側の同一層間の垂線距離を垂線水平距離(normal horizontal separation)またはオフセット(offset)という(図3.2:略)。
 落差(throw)とは、ふつう傾斜隔離の垂直成分をいい、水平成分はヒーブ(heave)という(傾斜移動の垂直成分を落差、水平成分をヒーブと定義する人もいるが、この場合には実移動がわからなければ測定できないから実際的ではない)。断層の両側で異なる層準が接しているとき、その2層間の層厚を層位学的隔離または層間落差(stratigraphic separationまたはthrow)と呼び、1つの露頭で直接に落差を測定できないような大断層の運動量を表わすのにしばしば用いられる(図3.3:略)。
 断層の近くの両側の地層の一方または両方が断層運動に伴う引きずりによって乱されていることがある。また、逆に断層が起こる以前に地層が連続的な変形を行い、その最大変形部に断層の生じていることもある。このような場合は、断層に接している部分の隔離よりも、断層からやや離れた“正常な”地層の延長部で変位量を測定した方が、運動の実態をよく表わしていることがある。このような測り方による距離をシフト(shift)という(図3.4)。
 ある層を追跡していって、それが断層に当たったとき、その点から層に垂線をたて、その線が反対側の盤で再び同じ層と交わったときには、断層による層のオーバーラップ(overlap)または繰り返し(repetation)があるという。交わらない時には、ギャップ(gap)またはひらき(omission)があるという。地層が傾斜していて実移動がわからないとき、オーバーラップ断層(overlap fault)、またはギャップ断層(gap fault)という語を用いるのも有用であろう。繰り返しがあるか、ひらきがあるかは、層状鉱床の鉱量が断層によって増加するか減少するかに関係する。
 断層をある決められた断面で見たときの、両盤の相対的な変位に基づいて、断層運動のセンス(sense of movement)が決められる。
 i) 垂直断面において、上盤側が相対的に下方へ移動または隔離しているものを正(normal)、その反対を逆(reverse)と呼ぶ。
 ii) 水平断面を上から見たとき、右の盤が相対的に手前へ移動または隔離しているものを右(right、dextral)、その反対を左(left、sinistral)と呼ぶ。
 ただし、断層の傾斜が垂直、あるいは傾斜の方向が場所によって変化しているような場合には、その断層運動のセンスは正とも逆ともいえない。たとえば図3.5(略)のような場合には、この断層のセンスは東落ちあるいは西上がりであるというにとどめておく方がよい。』