狩野・村田(1998)による〔『構造地質学』(16-20p)から〕


U.1 断層
断層の記載
 断層各部の名称
 岩石中の破断面のうち、その面に沿って面と平行な変位(移動)が認められるものを断層(fault)と定義している。断層の面自体を断層面(fault plane、面が曲面ならばfault surface)と呼ぶ。
 一般に断層は水平面とある角度で交差する。その交差角度、すなわち傾斜角度に応じて低角、中角、高角*の断層と記載される。断層面が垂直であるならば垂直断層(vertical fault)、水平ならば水平断層(horizontal fault)である。
*それぞれの境界は30゚および60゚とする。他の面構造や線構造の姿勢に対しても、今度同様な表現を用いる。
 傾斜する断層面に対して、断層面よりも相対的に上側の部分が上盤(hanging wall)、下側の部分が下盤(footwall)である(図U.1-1:略)。
 断層の変位成分
 断層面に沿った変位ベクトルを実移動(net slip)と呼ぶ。実移動は、断層面の走向に平行な水平変位(horizontal slipまたはstrike-slip displacement)と、傾斜方向の傾斜変位(dip-slip displacement)の2成分に分解できる。傾斜変位成分は、さらにその鉛直成分である落差(throw)と、水平成分であるヒーブ(heave)とに分解できる(図U.1-1)。このほかに断層は回転成分をもつことがある。
 実移動と隔離
 実際の断層を記載するにあたって、変位成分や変位量を解析することは必ずしも容易なことではない。本来は三次元的にひろがりをもつ地質構造でも、露頭面上では二次元的にしかあらわれないことが多いためである。断層を解析するうえで最も重要なのは、変位ベクトルを示す実移動を認識することである。この実移動の方向を変位センス(displacement sense)と呼ぶ。実移動や変位センスを知るためには、何らかの指標が必要である。
 もともとは一続きであったが断層変位によって切断されてしまった点もしくは線的な物質が断層の両側にあれば、それが実移動を示す変位の指標となる。しかしながら、自然界にはなかなかそのような都合のよい指標物は存在しない。
 異方性をもつ地層の場合には、層理面が断層変位のよい指標となる。断層によって層理面が変位されていたとして、それが観察される面(たとえば露頭面)が実移動と平行な方向にある場合には、実移動の量はその面上にあらわれる。しかし、このような都合のよい状態が生じるのはまれで、通常はその面上での見かけの変位として観察することになる。
 この、断層に沿って観察される見かけの変位が隔離(separation)である。図U.1-2および1.3(略)に示すように、1つの隔離に対して様々な実移動の可能性がある。隔離も水平成分と傾斜成分とに分けられる(図U.1-4:略)。
 この隔離に基づいて断層を分類するときには、左隔離断層とか逆隔離断層というような呼び方をする。地質図や断面図に表現された断層に沿う岩体の変位は、すべて隔離を表現したものである。
 これに対して、花崗岩のような均質な岩石中に入る断層の場合には、有効な変位基準をみつけるのは困難となる。そこで断層の実移動の量や移動センスを知るためには、隔離量のほかに断層の運動方向を示す指標が必要である。
 移動センスの指標として、スリッケンラインやスリッケンステップ(後述)、断層周辺において断層運動に引きずられて岩石組織が湾曲していく引きずり(drag)などが用いられる。断層に沿って引きずりが認められた場合には、引きずりも含めた断層の変位量をシフト(shift)と呼んでいる。

断層の分類
 断層の運動学的分類

 断層は水平面を基準として、その主な変位成分によって、図U.1-5(略)のように記載・分類することができる。断層の上盤側が下盤側に対して相対的にずり落ちるような運動をした断層を、正断層(normal fault)と呼ぶ。したがって、正断層では、断層面を境して上盤側には下盤側よりも若い地層・岩石が分布する(図U.1-6:略)。そして、正断層は水平方向に対して伸張成分をもつことになる。正断層の中で、傾斜角度が45゚以下のものを低角正断層(low-angle normal failt)またはラグ(lag)と呼ぶ。
 正断層とは逆に、断層に沿って上盤側が下盤側に対して乗りあがるような運動をした傾斜が45゚以上の断層を、逆断層(reverse fault)と呼ぶ。また、傾斜が45゚以下のものを衝上断層またはスラスト(thrust)と呼ぶ。したがって、逆断層や衝上断層では断層面を境として、上盤側には下盤側よりも古い地層・岩石が分布する(T章の口絵写真:略)。
 傾斜方向の変位成分が少なく、水平成分が大きい断層を横ずれ断層または走向移動断層(strike-slip fault)と呼ぶ。横ずれ断層は、レンチ断層(wrench fault)と呼ばれることもある。横ずれ断層の場合は、断層の走向と直交する水平面内では、短縮もしくは伸張成分はほとんどない。横ずれ断層のうち、断層は境として向かい側のブロックが右側に移動するような運動をしたものが右横ずれ断層(right-lateral strike-slip faultまたはdextral strike-slip fault)、反対に左側に移動するような運動をしたものが左横ずれ断層(left-lateral strike-slip faultまたはsinistral strike-slip fault)である。
 実際の断層の変位では、水平成分と傾斜成分の両方が存在し、水平面に対して斜めにずれるため、斜めずれ(oblique-slip)成分をもつことが多い。この斜めずれ成分の大小に応じて、たとえば右横ずれ逆断層や逆断層成分をもつ右横ずれ断層というような表現が使われる。
 もし、断層のどの部分でも実移動量が同じならば、断層はいつまでも消滅せずに存在することになる。しかし実際にはそのような断層は存在しない。断層は場所によって実移動の量と移動センスが異なったり、回転成分をもっており、断層の長さには限りがある。回転成分が存在する場合には、断層は回転軸を境として、その両側で反対方向の変位成分をもつ。このような断層を蝶番(ちょうつがい)断層(hinge faultまたはrotational fault)と呼ぶ。
 あるスケールでみると平面状の断層も、より大スケールでみると曲面を描いていることがある。正断層や逆断層・衝上断層では、地表近くでは高角であるが、地下に向かうにつれて徐々に中〜低角になるようなものが多い。このような断層をリストリック*断層(listric fault)と呼ぶ。
*リストリックとはギリシャ語でシャベルを意味する。
 断層群の配列様式に基づく分類
 複数の断層が帯状に密に分布している場合には、しばしば断層帯(fault zone)という用語が使われる。これに対して断層系(fault ystem)とは、全体として形成時期がほぼ同じで、同様な性質をもつ断層線や断層帯の集合体のことである。一連の断層系の中で、地質図スケールで不連続な構成要素をセグメント(segment)と呼ぶ。
 断層帯や断層系の中では、複数の断層(断層群)がある規則性をもって配列していることが多い。そこで、断層群の配列の様式に基づいて、断層を分類することがある。このうち最も単純な分類は、断層群の配列の平行性、直交性などに注目して、それぞれ平行断層群、直交断層群などと呼ぶことである。
 図U.1-7(略)のように、断層群が断層帯全体の発達方向と、個々の断層面の方向が系統的に斜交するような階段状の配列をするときがある。このような配列をとる断層群が雁行断層(en echelon faults)である。このうち、右手のてのひらを開いてみて、中指から小指までのように並ぶ配列を右雁行(right-stepping)、反対に左手の中指から小指までのように並ぶ配列を左雁行(left-stepping)と呼ぶ*。
*雁行配列は断層ばかりでなく、様々な地質構造にみられる配列関係である。日本人どうしでは、右雁行をカタカナのミ型、左雁行を杉の字のつくりの部分の配列にちなんで杉型と呼ぶとわかりやすいので、よく使われている。
 2方向の断層系が存在し、それらの間に互いに切った切られたの関係が認められたとする。このとき、交差する鋭角を挟む方向に短縮する変位成分、鈍角方向に伸張成分をもち、かつ破砕帯(p.20)の性質が同様なものを共役断層(conjugate faults)と呼ぶ(図U.1-8:略)。共役断層は、断層を力学的に取り扱う際に重要であり、その詳細はZ.2節で解説する。
 他の構造との関係に基づく分類
 断層は他の地質構造との関係に基づいても分類することができる。たとえば、層理面と断層面とが平行な場合には、その断層を層面断層(bedding fault)と呼ぶ。層面断層は隔離成分の指標を切断しないので、破砕帯をもつ滑り面が明瞭でない限りは、断層として認識することさえ難しい。実際に層面断層であることが認識できたとしても、実移動量を求めることは難しい。
 大規模な断層は造山帯の内部に発達することが多い。これらのうち、造山帯の方向と平行なものを縦走断層(longitudinal fault)、直交あるいは斜交する横ずれ断層を横断断層(transverse fault)と呼ぶことがある。日本では、大規模な構造単元の境界となる変位量の大きな断層を構造線(tectonic line)と呼ぶことがある。大規模な横ずれ断層で、プレート境界をなす場合はトランスフォーム断層(transform fault)と呼ばれる。』