周藤・牛来(1997)による〔『地殻・マントル構成物質』(175-184p)から〕


3.2 堆積岩の種類
 火成岩には組成上で多くの種類があるが、堆積岩の組成はそれ以上に多様である。たとえば火成岩ではSiO2含有量は40〜75%くらいであるが、堆積岩ではそれが100%に近いもの(チャートなど)から、ほとんどふくまれないもの(石灰岩など)まである。Al2O3については、火成岩では20%以上のものはすくないが、堆積岩では70%くらいのもの(ラテライト)まである。またCaOについては、火成岩では15%をこすものはまれであるが、堆積岩では50%くらいのもの(石灰岩など)まである。
 表3.1におもな堆積岩の化学組成をしめした。
表3.1 種々の堆積岩の主化学組成(単位:重量%)
  (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7)
SiO2 66.0 62.11 66.1 77.60 95.4 99.30 5.19
TiO2 0.6 0.66 0.3 0.28 0.2 0.13 0.06
Al2O3 15.3 17.16 8.1 11.97 1.1 2.53 0.81
Fe2O3   1.60 3.8 0.49 0.4 1.26* 0.54*
FeO 4.8* 3.58 1.4 1.10 0.2      
MnO 0.1 0.07 0.1 0.02    0.05 0.05
MgO 2.4 2.37 2.4 0.41 0.1 0.59 7.90
CaO 3.7 1.29 6.2 0.70 1.6 0.13 42.61
Na2O 3.2 2.30 0.9 2.94 0.1 0.27 0.05
K2O 3.5 3.28 1.3 2.99 0.2 0.66 0.33
P2O5 0.2 0.14 0.1 0.07    0.05 0.04
I.L.    5.29 9.3 1.80 1.4    42.35
合計 99.8 99.86 100.0 100.37 100.7 98.98 99.93
 *:全Fe含有量; I.L.:Ignition loss(H2O、CO2など)
(1):大陸地殻の上部(Taylor and McLennan、1985)
(2):西南日本の頁岩302個の平均値(稲積ほか、1980)
(3):石質アレナイト20個の平均値(Pettijhon、1975)
(4):石質ワッケ(和泉砂岩)10個の平均値(西村、1992)
(5):オーソクォーツァイト26個の平均値(Pettijhon、1975)
(6):ペルム〜ジュラ紀の縞状チャート31個の平均値(Matsumoto and Iijima、1983)
(7):石灰岩345個の平均値(Clarke、1924)
 堆積岩の化学組成が多様なのは、それらの主成分鉱物が地球の表層部の既存の岩石の1回あるいは何回かの化学変化で形成されたものであるということ、しかも砕屑性のものだけでなく、海水や陸水からの化学的沈殿によるものや、生物起源のものまでふくまれていることなどに起因している。

 3.2.A 砕屑岩
 既存の岩石(火成岩・変成岩・堆積岩のすべてをふくむ)の風化作用によって形成された粘土・砂(鉱物粒やこまかい岩片)・大小の岩片・岩塊などが、水・氷・風などによって水底または陸上に堆積して形成されたもので、堆積岩のおもな部分をしめている。砕屑岩の構成粒子の化学組成や色は、おもに砕屑物を供給したもとの岩石(原岩)の種類によってきまるものである。
 砕屑岩は構成粒子の粒径をもとに分類される。砕屑岩の構成粒子の大きさは、堆積作用の過程や環境を反映しているので、砕屑岩の特徴をしめす重要な分類基準となっている。表3.2(略)にしめすように砕屑物は粒径によって、礫・砂・泥に区分される。粒子の直径が2mm以上のものが礫、1/16mm〜2mmの粒子が砂、1/16mm以下の粒子が泥である。粒径によって、それぞれはさらにいくつかに細分される(表3.2)。おもにこれらの礫・砂・泥からなる岩石は、それぞれ礫岩(conglomerate)・砂岩(sandstone)・泥岩(mudstone)とよばれる。
 粒径の表現方法としては、mmによる表記のかわりに、数値を2を底とする対数にした、φ=−log2d(d:粒径;mm)で表現されることも多い。

 3.2.A-a 礫岩
分類
 礫岩は礫の粒径(礫径)によって、巨礫岩・大礫岩・中礫岩・細礫岩に細分される。礫は運搬の過程を反映して、礫径や円磨度がいろいろに変化する。角ばっている礫は角礫(rubble)とよばれ、おもに角礫からなる礫岩が角礫岩(breccia)である。
充填物 礫岩では礫のあいだを砂や泥が充填していることが多い。この充填物をマトリックス(matrix;基質)という。礫のあいだを充填するのは、マトリックスのほかに炭酸塩鉱物やシリカ鉱物などのセメントのこともある。一般にマトリックスは砂であることが多いが、泥質のマトリックスが礫を包有しているものを礫質泥岩ということがある。
礫種 礫岩を構成する岩石(礫種)を調べることによって、礫岩をもたらした後背地を特定できることがあるので、礫種をあきらかにすることは重要である。ほぼ1種の礫からなる礫岩は単源礫岩(monogenetic conglomerate)、複数の礫種からなるものは多源礫岩(polygenetic conglomerate)とよばれる。
 3.2.A-b 砂岩
 砂岩は砂粒とその周囲を充填しているマトリックスおよびセメントから構成されるが、砂岩の分類は、砂粒の鉱物組成・砂粒とマトリックスの比・セメントの化学組成などにもとづいてなされる。砂岩構成物の石英・長石、そのほかの鉱物・岩片の3種の粒子とマトリックスの量比にもとづいている。粒径が0.03mm以下の粒子をマトリックスとみなす。これらをもとに砂岩はアレナイト(arenite)・ワッケ(wacke)に大別される。
アレナイト・ワッケ アレナイトはマトリックス含有量が15%以下の砂岩、ワッケは15%以上の砂岩である。アレナイトとワッケの顕微鏡写真を図3.3(略)にしめす。マトリックスが多くなって、その含有量が75%以上のものが泥岩である。
(中略)
 3.2.A-c 泥岩
 泥が固化したものが泥岩であるが、これは粒径によって、粗粒のシルト岩(siltstone)と細粒の粘土岩(claystone)にわけられる。これらの泥岩は、比較的新しい地質時代の圧密が不充分な地層のものでは、塊状で剥離性(堆積面にそって剥げやすい性質)にとぼしいが、より古いもので続成作用が進行した泥岩では剥離性に富むようになる。このような岩石は頁岩(shale)とよばれる。また泥岩が構造運動や弱い変成作用をうけて、剥離性が顕著になったものは粘板岩(slate)とよばれる。これらの泥質の岩石を総称して、泥質岩(pelitic rock・argillaceous rock)という。
 泥質岩は砂質岩のような分類の基準が確立していないので、野外で泥質岩を区別するときには、色・組織・成分などの特徴にもとづいておこなわれることが多い。たとえばSiO2に富むものは珪質泥岩(珪質頁岩・珪質粘板岩)、Fe2O3に富み赤色のものは赤色泥岩(赤色頁岩)、炭素鉱物や黄鉄鉱に富むものは黒色泥岩(黒色頁岩)、CaCO3に富むものは石灰質泥岩(石灰質頁岩)、砂粒をやや多くふくむものは砂質泥岩(砂質頁岩)などととばれている。

 3.2.B 化学的沈殿岩と生物岩
 化学的沈殿岩や生物岩に属する岩石のうちで、最も多量に存在し、しかも地質学的に重要なものは、チャート(chert)などの珪質岩と石灰岩(limestone)である。日本にみられる中・古生代のチャートは、かつては化学的沈殿岩と考えられていたが、最近では、その多くは生物岩とされている。このように化学的沈殿岩と生物岩は、形成過程がはっきりしているもの以外は、区別できないことが多い。
 3.2.B-a チャート
 おもに微細な石英粒からなる緻密な硬い岩石で、SiO2含有量が90%以上である(表3.1参照)。なかには99%以上のこともある。このようなチャートは灰白色をしめすが、イライト・緑泥石・ヘマタイト・二酸化マンガンなどが少量ふくまれているので、灰色・緑色・赤褐色・黒色など種々の色をしているのが一般的である。チャートは産状から、縞状チャート(bedded chert;層状チャート)・塊状チャート(massive chert)・団塊状チャート(nodular chert・chert nodule)にわけられる。
縞状チャート 厚さ数cm〜10数cmのチャートとこれより薄い泥質岩が、交互にくり返し縞状をなすものが一般的である。このようなチャートは日本の中・古生代の堆積岩に典型的にみられ、互層全体の厚さは、数10mのものから、数100mをこえるものまである。新生代の地層からは縞状チャートはみいだされていない。日本の縞状チャートは、おもに海綿骨針からなるもの、おもに放散虫殻からなるもの(図3.7 略)、石英の微粒子からなるものに大別されるようである。微小な石英については、放散虫殻が分解した生物起源のものか、それとも化学的沈殿物なのかあきらかになっていない。
 チャートと互層を構成する泥質岩は、おもに細粒で、粗粒堆積物はほとんどふくまれない。また縞状チャートには炭酸塩鉱物はほとんどふくまれない。このような組成上の特徴から、縞状チャートの多くは炭酸塩補償深度(calcium-carbonate compensation depth;CCD)よりも深い大洋底に堆積したものと考えられている。海洋ではCaCO3の溶解度は水深の増大に比例し、深海に到達した浅海での生物起源の石灰質の物質は溶解してしまい、堆積物として残らなくなる。このような水深はCCDとよばれている。一般にCCDは大洋底では約4,000mであると考えられている。
 縞状チャートは中・古生代の地層によくみられるが、これと同様な縞状をなす未固結な堆積物は、大洋底のどこからもみいだされていないので、縞状チャートには大量のSiO2の起源や堆積物としての形成過程など、わかっていない事柄が多く残されている。
縞状チャートの成因 @海綿骨針や放散虫の遺骸が砕屑粒子として移動し、タービダイトと似た過程によって形成された。A気候変動の周期的変化によって、放散虫が大繁殖し、大量の遺骸が供給された。B放散虫をふくむ泥が続成作用をうける過程で、シリカと泥が分離して堆積したなどの考えがある。
塊状チャート 中・古生代の緑色岩やマンガン鉱床にともなわれるもので、赤色・白色・多色のものなどがあり、これらは海底火山活動がもたらす熱水が起源となっていると考えられている。
団塊状チャート 石灰岩やチョーク(chalk;白〜灰白色の石灰質泥岩で白亜ともいう。ドーバー海峡両岸の白亜の崖は有名である)に、団塊状あるいはレンズ状の岩体としてみられる。
 3.2.B-b 石灰岩
 石灰岩は炭酸塩岩を代表する堆積岩で、おもに方解石(calcite;Cal)やアラゴナイト(aragonite;Arg)などCaCO3(通常50%以上)からなる。古生代以降に形成された石灰岩は、主に貝類・サンゴ・ウミユリ・腕足貝・有孔虫などの無脊椎動物の遺物(外殻や骨格などの硬組織として)や、石灰藻が堆積して形成されたものもある。一方、始生代や原生代の石灰岩の多くは、ストロマトライト構造*(stromatolite structure)をもっていることから、ラン藻類などによって形成されたものと考えられている。
* ラン藻類などの分泌物が形成した縞状構造や同心円構造のこと。
 続成作用の過程で、方解石が種々の程度に石英に交代されていることがあり、そのようなものを珪質石灰岩という。おなじ過程で方解石がドロマイト(Ca(Mg,Fe)(CO3)2)によって交代されることもあり、それが多いものを白雲岩という。石灰岩と白雲岩とは、肉眼ではほとんど区別できない。
 これまでのべてきたチャートや石灰岩のほかの化学的沈殿岩や生物岩としてよく知られているものに、つぎのようなものがある。
 化学的沈殿岩には、砂漠地域の塩湖(salt lake)の蒸発によって形成されたものがある。これは岩塩・カリ岩塩・石コウなどが、溶解度のちがいに応じてつぎつぎに沈殿して層状をなしている。始生代や原生代の地層によくふくまれる鉄質堆積岩も、一種の化学的沈殿岩と考えられる。この種の岩石にはFeに富む含水珪酸塩鉱物(一種の粘土鉱物)やシデライトなどがふくまれているが、続成作用の進行したものや変成作用をうけたものは、石英・ヘマタイトやマグネタイトに富み、鉄鉱石として重要である。
 生物起源のものとしては石炭がある。これは種々の植物体が堆積して形成されたもので、石炭化の程度によって、泥炭(peat)・褐炭(brown coal)・レキ青炭(bituminous coal)・無煙炭(anthracite)などの種類がある。始生代や原生代の変成岩によきに挟まれている石墨岩にも、生物起源と考えられるものがある。