『22.1 堆積岩の組成、組織および分類
堆積岩は、地球の表面上で、比較的低温低圧のもとで、堆積した物質からできている。体積が大規模に起るのは水中、ことに海底である。水中に堆積した堆積岩を水成岩(aqueous
rocks)というが、このことばは堆積岩全体をさすのに用いられることもある。
堆積岩のもつ最も顕著な構造は層理(bedding、stratification)である。一つづきの、ほぼ一様な岩石でできている、地層構成の最小単位となる層を、単層(bed)という。単層の上下の境界面が層理面(bedding-plane)である。単層は、ほぼ同じような条件のもとで起った一続きの堆積作用を表わしている。しかし単層の内部には、堆積物の性質のわずかな違いによって生じた弱い縞状の構造が見られることがある。これをラミネーション(lamination)という。
堆積作用が続くと、地層がつぎつぎに上に重なってくるので、古い時期に生じた堆積物は地下の深いところにはいることになる。そこで、温度や圧力が、かなり高い値に達することもある。堆積物が、その堆積後に受けるいろいろな変化を総称して、続成作用(diagenesis)という。しかし、変化をうけるときの温度や圧力があまり高いと、一種の変成作用になる。続成作用と変成作用との境界をどこにおくかは、便宜的なものである。
堆積物が堆積した直後には、一般に固体粒子の間にたくさんのすきまがある。水中で生成すると、そのすきまには水がはいっている。上に積み重なってくる堆積物の重みで圧しつけられると、粒子の間隔がつまってきて、水はしぼり出される。これをコンパクション(compaction、圧密)という。続成作用は、コンパクションのほかに、既存の鉱物が水に溶けたり、水のなかから新しく沈殿したり、既存の鉱物を交代して新しい鉱物が沈殿したりするような過程を含んでいる。
既存の粒子の間に新しい鉱物が沈殿することをセメンテーション(cementation)とよび、その沈殿物をセメント(cement)という。セメントをつくる物質は、既存の粒子の一部分が溶けて供給されることもあるが、外部からはいってくることもある。
このような過程、ことにセメンテーションによって、堆積岩はしだいに固結(consolidation)し、硬化(induration)する。固結や硬化を起す作用全体を、石化(lithification)とよぶこともある。
そこで、堆積物を構成している物質を、大きく次のような2種類に分けて考えるのが便利である:
(1) 他生(allogenic)あるいは砕屑性(detrital)の物質。これは他の既存の岩石(火成岩や変成岩や古い堆積岩)に含まれていた鉱物や鉱物集合(すなわち岩片)が、固体の粒子として運ばれてきて、新しい場所に堆積し、堆積岩を構成するようになったもののことである。ただし、既存の岩石の分解によって新しくできた不溶解性の鉱物(たとえば粘土鉱物)が運ばれてきて、新しい堆積岩のなかにはいるような場合をも、これにいれる。これらはいずれも、固体粒子として運ばれてきたという点を共通にしている。(Detritalの意味にepiclasticあるいはclasticという語が用いられることがある。Epiclasticはpyroclasticに対立する語であって、火山噴火でなくて普通の侵食堆積によってできたという意味である。しかし、clasticは本来こわれた(broken)という意味であって、粘土鉱物のようなものはこわれたとはいえないから、clasticの語は不適当であるとのべている人もある。)粒子の運ばれてくるもとになった岩石や地域を、プロヴィナンス(provenance)という。
(2) 自生(authigenic)の物質。これは、その堆積岩が堆積した場所で新しく生じた物質のことである。このなかには、堆積した場所で化学的あるいは生物学的に生じて沈降・堆積したものもあり、堆積後のある時期になって堆積岩のなかに化学的に沈殿したもの、すなわち続成作用によってできたものもある。自生の物質のなかで最も普通に見られるものは、方解石CaCO3、ドロマイトCaMg(CO3)2などの炭酸塩鉱物や、オパール、カルセドニー、石英などのシリカ鉱物である。ただし、自生ということばを、化学的に堆積・沈殿したものに限って用い、生物学的に堆積したものには用いない人も多い。
堆積岩のなかには、主として他生の物質からできているものもあり、主として自生の物質からできているものもある。前者を砕屑性堆積岩とよび、後者を化学的=生物的堆積岩とよぶことがある。
堆積岩のなかの鉱物を、堆積作用の過程における安定性の見地からみて、次のような3種類に分けることができる。
(a) 堆積サイクルのなかのすべての時期、すなわち、風化、分解、運搬、堆積、続成作用などのすべての過程において、いつでも不安定な鉱物。したがって、それらは、いつでも、変質して他の安定な鉱物になろうとする傾向をもっているのであるが、変質の起りやすさは、鉱物によってさまざまに異なっており、またおそらく場合によって異なるであろう。一般に次に列挙する鉱物はこの種類に属していて、たいてい後に書くものほど変質が起りにくい:カンラン石、輝石、Caに富む斜長石、ホルンブレンド、スフェーン、緑簾石、紅柱石、十字石、藍晶石、珪線石、磁鉄鉱、イルメナイト、ザクロ石、スピネル。これらの鉱物は、火成岩や変成岩のなかで生成して、砕屑性の物質として堆積岩にはいってくるのである。
(b) 風化や運搬の時期には不安定で変質の傾向が強いが、堆積して後には、すなわち続成作用の時期になるとあまり変質しない鉱物。一般に次に列挙する鉱物はこの種類に属していて、大てい後に書くものほど変質が起りにくい:石膏、炭酸塩鉱物、リン灰石、グローコナイト、黄鉄鉱、沸石、緑泥石、アルバイト、正長石、微斜カリ長石。
(c) 堆積サイクルのなかのすべての時期に安定またはそれに近い鉱物。したがって、それらは、砕屑性の物質としても、自生の物質としても出現しうる。それは、粘土鉱物、石英、白雲母、電気石、ジルコン、ルチル、ブルカイト、アナテースなどである。
ことに化学的に沈殿するような物質は、水に溶解し再沈殿することも容易なので、続成作用をうけるとすきまのほとんどない結晶質の岩石になりやすい。このようにしてできた結晶性の組織を、変成岩の組織と同じように、クリスタロブラスティックな組織(crystalloblastic
texture)とよぶことができる。
砕屑性の堆積物の分類には、しばしば、その構成粒子の大きさが用いられる。粒子(particle)の大きさと、それからできている非固結および固結した堆積物の名称の間の関係を、表22.1にしめしてある。
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粒子の直径 (mm) |
非固結堆積物 | 固結した堆積岩 | |||||||||||
Wentworth (1922)の提案 |
HatchとRastall (1923)の提案 |
日本語 | 英語 | 日本語 | 普通の英語 | ラテン語系の英語 | ギリシア語系の英語 | ||||||
名詞 | 名詞 | 名詞 | 名詞 | 名詞 | 形容詞 | 名詞 | 形容詞 | ||||||
2より大 | 2.5より大 | 礫(1) | Gravel(1) | 礫岩(1) | Conglomerate(1) | Rudite | Rudaceous | Psephite | Psephitic | ||||
2〜1/16 | 2.5〜0.05 | 砂 | Sand | 砂岩 | Sandstone | Arenite | Arenaceous | Psammite(2) | Psammitic | ||||
1/16〜1/256 | 0.05〜0.005 | シルト | 泥 | Silt | Mud | シルト岩 | 泥岩(3) | Siltstone | Mudstone(3) |
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1/256より小 | 0.005より小 | 粘土 | Clay | 粘土岩 | Claystone | ||||||||
注意: (1) 礫(gravel)と礫岩(conglomerate)は、粒子の角や稜が丸められているときにだけ用いる。粒子が強く角ばっているときには、それぞれ、角礫(rubble)と角礫岩(breccia)を用いる。 (2) Psammiteはサマイトとよむ。 (3) 泥岩(mudstone)という名前は、顕著な層状組織をもたないときにだけ用いることが多い。顕著な層状組織をもつときは、頁岩(shale)という。 |
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(A) | 砕屑性堆積岩(detrital sedimentary rocks) | |
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粗粒のもの | 例は礫岩、角礫岩。 |
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中粒のもの | 例は砂岩。 |
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細粒のもの | 例は頁岩、泥岩。 |
(B) | 化学的=生物的堆積岩(chemical-organic sedimentary rocks) | |
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炭酸塩を主とするもの | 例は石灰岩、ドロマイト。 |
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シリカ質(siliceous) | 例はチャート、ダイアトマイト。 |
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鉄質(ferruginous) | 例は鉄鉱層。 |
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アルミナ質(aluminous) | 例はボーキサイト。 |
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燐酸塩質(phosphatic) | 例はフォスフォライト。 |
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水溶性塩類 | 例は岩塩、石膏などの蒸発岩(evaporite) |
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炭素質(cabonaceous) | 例は石炭。 |