周藤・牛来(1997)による〔『地殻・マントル構成物質』(81-87p)から〕


2.3 火成岩の種類
 2.3.A モードとノルム

 火成岩の分類は、実際にふくまれる造岩鉱物の種類とその量比、および組織にもとづいておこなわれる。岩石を構成する実際の鉱物組成をモード(mode)といい、実際にふくまれる造岩鉱物をモード鉱物(modal mineral)とよぶ。一方、ノルム鉱物(normative mineral)あるいは標準鉱物(standard mineral)という1群の仮想的鉱物をきめておいて、岩石の化学分析値から、一定の規則にしたがってノルム鉱物の種類と量比を産出する方法がある。このような計算によって求められた鉱物組成をノルム(norm)という。
 ノルム鉱物としては、火成岩によくみられる鉱物がふくまれているが、その化学組成は実際の鉱物の化学組成よりも単純化してある。たとえばノルムカンラン石ではMg2SiO4(フォルステライト)とFe2SiO4(ファヤライト)の単純化した2つの組成のものを使用する。ノルムによる火成岩の分類法は、この方法の考案者(Cross・Iddings・Pirsson・Washingtonの4人が1902年に発表した)の名前にちなみ、C.I.P.W.分類法(C.I.P.W.classification)ともよばれている。
(略)
 天然の火成岩のうちで、石英またはほかのシリカ鉱物をふくむものを、シリカに過飽和(oversaturated)な岩石、カンラン石や準長石をふくむものをシリカに不飽和(undersaturated)な岩石とよび、これらの鉱物を欠き長石や輝石からなるものをシリカに飽和(saturated)な岩石とよぶ。シリカ鉱物を基準とした火成岩のこのような分類の尺度を、シリカ飽和度(degree of silica-saturation)という。

 2.3.B 火成岩の分類と岩系
 火成岩の分類の基準になるものは、組成と組織の2つである。そのうちでも組成が最も重要であり、それには鉱物組成・化学組成が区別される。また組織を規定する要素のうちでは鉱物粒の大きさ、いいかえれば岩石の粗さの程度が重要視されている。
 火成岩は組成上の特徴にもとづいて、超マフィック岩・マフィック岩・中性岩・フェルシック岩の4群に分類されるので、それと岩石の粗さの程度を基準にして、火成岩を表2.3のように分類・命名する。それぞれの群において、比較的アルカリ(Na2O・K2O)にとぼしいもの、比較的富むもの、非常に富むものとがあるので、3者を区別して表示してある。

表2.3 火成岩の分類

群(色指数)

       粒度

超マフィック岩
(70以上)
マフィック岩
(40〜70)
中性岩
(20〜40)
フェルシック岩
(20以下)
(A)アルカリにとぼしい岩類




コマチアイト

玄武岩

安山岩

流紋岩

ドレライト ヒン岩 カコウ斑岩
カンラン岩・輝岩 ハンレイ岩 閃緑岩 カコウ岩
(B)アルカリに比較的富む岩類




キンバーライト アルカリ玄武岩 粗面安山岩、ミュージアライト 粗面岩
アルカリドレライト モンゾニ斑岩 閃長斑岩
雲母カンラン岩 アルカリハンレイ岩 モンゾナイト 閃長岩
(C)アルカリに非常に富む岩類




  ベイサナイト、カンラン石ネフェリナイト テフライト フォノライト
テッシェナイト ネフェリンモンゾニ斑岩 チングアアイト
エセックサイト、アイジョライト ネフェリンモンゾナイト ネフェリン閃長岩

組成変化と岩系 これらの火成岩の組成は連続的に変異しているものであり、表2.3にしめした各々の岩石とその隣の岩石とのあいだには、組成上で中間的な岩石がある。たとえば玄武岩と安山岩の中間型は玄武岩質安山岩である。
 このように連続的に変異している、ある1群の火成岩の化学分析値を、化学組成上のある指標(たとえばSiO2含有量やFeO*/MgOなど)を横軸にとって、グラフ(変化図;variation diagram)に記入したときに、各成分がそれぞれ1つの帯上またはその近くにおちることがよくある。このようなときには、それらの岩石は1つの岩系(rock series;岩石系列)に属しているとよばれ、岩系を構成する岩石相互は、何らかの成因的関係をもっているものとみられる。
玄武岩の分類 玄武岩はノルムによって区分される。図2.31(ノルムによる玄武岩の分類;略)にしめすように玄武岩のノルムは、単斜輝石(Cpx)・斜方輝石(Opx)・カンラン石(Ol)・斜長石(Pl)・ネフェリン(Ne)・石英(Qz)の組合せで表現できる。図2.31の4面体は3つの部分にわけられる。すなわち玄武岩はノルム鉱物としてNeをふくむアルカリ玄武岩(alkali basalt)・Qzをふくむ石英ソレアイト(quartz tholeiite)、これらの2つの鉱物をふくまないカンラン石ソレアイト(olivine tholeiite)に分類される。
 玄武岩質マグマが地表や地下の浅所で結晶作用するときには、Ol・Cpx・Plなどが晶出するので、カンラン石ソレアイト質マグマの結晶分化作用によって、これら3鉱物が取りのぞかれると、マグマの組成は図2.31のOl−Cpx−Pl面から離れる方向、すなわち石英ソレアイトの領域の組成に変化しうる。カンラン石ソレアイトと石英ソレアイトの2つの領域の境界にあたるOpx−Cpx−Pl面(図2.31)はシリカ飽和面(plane of silica saturation)とよばれる。
 しかしアルカリ玄武岩質マグマあるいはカンラン石ソレアイト質マグマの地表近くでの結晶分化作用によって、マグマの組成は図2.31のOl−Cpx−Pl面をこえて、一方の領域から他方の領域の組成へ変化することはできない。したがってこの面はアルカリ岩系の玄武岩(アルカリ玄武岩)と非アルカリ岩系の玄武岩(カンラン石ソレアイトと石英ソレアイト)を区分するうえで重要な境界となっており、臨界面(critical plane of silica undersaturation)とよばれている。
 この本ではカンラン石ソレアイトと石英ソレアイトを区別しないときはソレアイト質玄武岩(tholeiitic basalt)とよび、カンラン石ソレアイト質マグマと石英ソレアイト質マグマを区別しないときはソレアイト質マグマ(tholeiitic magma)とよぶ。
岩系の種類 この本ではアルカリ玄武岩の組成をもったマフィック岩と、これと成因的に関連のある(アルカリに富む)中性岩〜フェルシック岩のグループをアルカリ岩系(alkali rock series)とよび、ソレアイト質玄武岩の組成をもったマフィック岩と、これと成因的に関連のある(アルカリにとぼしい)中性岩〜フェルシック岩のグループを非アルカリ岩系(sub-alkali rock series)とよぶ。またこの区分を超マフィック岩にも適用して、アルカリに富む1群の超マフィック岩はアルカリ岩系に、アルカリにとぼしいそれは非アルカリ岩系にふくめる(表2.3)
 非アルカリ岩系はさらにカルクアルカリ岩系(calc-alkali rock series)とソレアイト岩系(tholeiitic rock series)に区分される。
 アルカリ岩と非アルカリ岩の区分は、SiO2−(Na2O+K2O)図(図2.32;略)やSiO2−K2O図(図2.33;略)などの変化図によってもおこなわれる。
 図2.32で(Na2O+K2O)に富む領域にある岩石がアルカリ岩で、それらのグループはアルカリ岩系にはいり、また(Na2O+K2O)にとぼしい領域にある岩石が非アルカリ岩で、それらのグループは非アルカリ岩系にはいる。
 図2.33は島弧地帯に出現する火山岩の岩系を識別するのに使用されることが多く、この図のショショナイト岩系と高カリウム岩系の上半分はほぼアルカリ岩系に対応し、高カリウム岩系の下半分と、中間カリウム岩系・低カリウム岩系が、ほぼ非アルカリ岩系に対応する。
 非アルカリ岩系の岩石には、SiO2があまり増加しないで、FeO*/MgOが増加するグループと、SiO2が急速に増加し、FeO*/MgOはあまり増加しないグループとがあり、前者がソレアイト岩系に、後者がカルクアルカリ岩系にはいる。ある地域のカルクアルカリ岩系の1群の火山岩にふくまれる玄武岩を、カルクアルカリ玄武岩とよぶこともあるが、化学組成上、ソレアイト質玄武岩とのちがいがほとんどみられないので、この本ではカルクアルカリ玄武岩という用語は使用しない。
 鉱物組成の面から両岩系を識別する方法もある。すなわち非アルカリ岩系の火山岩のうち、石基鉱物の輝石が単斜輝石(オージャイト・ピジョン輝石)だけからなるものはピジョン輝石質岩系(pigeonitic rock series)、単斜輝石(オージャイト)と斜方輝石(ハイパーシン)の両方あるいは斜方輝石だけからなるものはハイパーシン質岩系(hypersthenic rock series)とよばれている(Kuno、1950)。ただしマグマの結晶作用が進行すると、石基にハイパーシン・ピジョン輝石・オージャイトの3者が共存することがあるので、この分類を天然の火山岩に適用するときには、このことを考慮する必要がある。
 また安山岩〜デイサイトの斑晶鉱物の組合せや、斑晶鉱物の累帯構造の特徴などから、これらをNタイプRタイプに分類することもある(Sakuyama、1979,1981)。おおまかには、ピジョン輝石質岩系とNタイプがソレアイト岩系に、ハイパーシン質岩系とRタイプがカルクアルカリ岩系に対応するが、対応関係が不明瞭な例もしばしばみられる。
SiO2含有量と色指数 一般にSiO2含有量を基準にして分類した超塩基性岩のほとんどは、色指数を基準にして分類した超マフィック岩に相当する。同様に塩基性岩はほぼすべてマフィック岩に、酸性岩はフェルシック岩に相当する。しかしSiO2含有量を基準にして分類した中性岩は色指数を基準にして分類した中性岩だけでなく、フェルシック岩に相当するものもある。たとえばSiO2含有量での中性岩にあたる閃緑岩は、どちらの分類でも中性岩であるが、粗面岩・閃長岩は色指数による分類ではフェルシック岩にはいる(表2.8参照;略)。
 このようにSiO2含有量を基準にした火成岩の分類と色指数を基準にした分類は、完全に対応しているわけではないが、この本では色指数を基準にした分類にもとづいて記述することにする。なお日本には非アルカリ岩系の岩石が非常に多いので、アルカリ岩系・非アルカリ岩系に区分して記述するときは非アルカリ岩系からとする。』