周藤・牛来(1997)による〔『地殻・マントル構成物質』(190-196p)から〕
『4.2 変成岩の種類
変成岩の原岩は堆積岩や火成岩、あるいは既に形成されていた変成岩など多様であるが、変成岩の多くは、全岩化学組成から、原岩が泥質岩であったか、マフィックな火成岩であったか、などを区別することができる。しかし原岩は同一でも、変成時の温度・圧力・構造条件のちがいによって、鉱物組成や組織のちがう変成岩が形成されるので、これらの事柄を考慮して、おもな変成岩について、原岩別に説明する。変成岩の分類を表4.1に、おもな変成岩の化学組成を表4.2にしめした。
表4.1 変成岩分類表(宮城、1983に加筆) |
岩石名 |
細分岩石名 |
原岩 |
組織 |
変成相 |
接触変成岩 |
点紋粘板岩 |
− |
泥質岩・粘板岩・マフィックな凝灰岩 |
マキュローズ構造 |
|
ホルンフェルス(hf) |
紅柱石・コーディエライトhf |
泥質岩 |
グラノブラスティック組織 |
角閃岩相 |
角閃石hf・輝石hf |
マフィックな火成岩・火砕岩 |
輝石ホルンフェルス相 |
珪岩 |
砂質岩・チャート |
|
結晶質石灰岩 |
|
石灰岩 |
|
|
パイロ変成岩 |
ブッカイト |
火山岩の捕獲岩(砂質岩・泥質岩) |
|
サニディナイト相 |
広域変成岩 |
千枚岩 |
− |
泥質岩・頁岩・粘板岩・マフィックな凝灰岩 |
剥離・片理 |
|
結晶片岩 |
黒色片岩・黒雲母片岩 |
泥質岩・粘板岩 |
片理・剥離・縞状構造
|
緑色片岩相 |
緑色片岩 |
マフィックな火成岩・凝灰岩 |
リョクレン石角閃岩・角閃岩 |
マフィックな火成岩・凝灰岩 |
リョクレン石角閃岩相・角閃岩相 |
ランセン石片岩(青色片岩) |
泥岩・砂岩・チャート・マフィックな火成岩・凝灰岩 |
ランセン石片岩相 |
石英長石質片岩 |
砂岩・チャート |
|
石灰質片岩 |
石灰岩 |
|
片麻岩 |
雲母片麻岩 |
泥質岩 |
片麻状組織 |
角閃岩相 |
角閃石片麻岩 |
マフィックな火成岩・凝灰岩 |
グラニュライト |
− |
マフィックな火成岩・泥質岩・砂質岩 |
グラニュリティック組織・微縞状組織 |
グラニュライト相 |
エクロジャイト |
− |
マフィックな火成岩 |
粗粒・完晶質 |
エクロジャイト相・グラニュライト相・ランセン石片岩相 |
埋没変成岩 |
− |
− |
|
フッ石相・プレーナイト-パンペリー石相 |
動力変成岩 |
マイロナイト |
− |
− |
ブラストポーフィリティック組織
カタクラスティック組織 |
|
表4.2 種々の変成岩の平均主化学組成(H2Oをのぞく;単位:重量%;都城、1965) |
|
(1) |
(2) |
(3) |
(4) |
(5) |
SiO2 |
60.0 |
64.3 |
67.7 |
70.7 |
50.3 |
TiO2 |
1.1 |
1.0 |
- |
0.5 |
1.6 |
Al2O3 |
20.7 |
17.5 |
16.6 |
14.5 |
15.7 |
Fe2O3 |
3.0 |
2.1 |
1.9 |
1.6 |
3.6 |
FeO |
4.8 |
4.6 |
3.4 |
2.0 |
7.8 |
MnO |
0.1 |
0.1 |
- |
0.1 |
0.2 |
MgO |
2.9 |
2.7 |
1.8 |
1.2 |
7.0 |
CaO |
1.2 |
1.9 |
2.0 |
2.2 |
9.5 |
Na2O |
2.0 |
1.9 |
3.1 |
3.2 |
2.9 |
K2O |
4.0 |
3.7 |
3.5 |
3.8 |
1.1 |
P2O5 |
0.2 |
0.2 |
- |
0.2 |
0.3 |
(1):千枚岩 50個の平均;(2):雲母片岩 103個の平均;(3):複雲母片岩 51個の平均;(4):石英長石質片麻岩 250個の平均;(5):角閃岩 200個の平均 |
4.2.A 広域変成岩
4.2.A-a 泥質岩起源の変成岩
泥質岩はAl2O3やK2Oに富んでいるので、泥質岩起源の変成岩もこれらの酸化物に富むことで特徴づけられる。このため特徴的な変成鉱物は雲母である。このほかにAl2O3に富む紅柱石・珪線石・ランショウ石なども形成する。
低温下で形成された変成岩としては、おもに緑泥石・白雲母(あるいは絹雲母)・アルバイト・石英などからなる千枚岩(phyllite)・結晶片岩(crystalline
schist)がある。やや高温下で形成された変成岩では緑泥石や白雲母がすくないかほとんどなく、その代わりに黒雲母をふくむ雲母片岩(mica
schist)がある。
より高温下では黒雲母のほかに紅柱石やコーディエライト(低圧下)、またはランショウ石や十字石(中圧下)で特徴づけられる結晶片岩〜片麻岩(gneiss)が形成され、さらに高温下で変成したものは、ランショウ石の代わりに珪線石をふくむ片麻岩となる。
また、とくに高温−高圧下で変成したものは、黒雲母のかわりにMgに富むザクロ石や斜方輝石をふくむようになり、グラニュライト(granulite)とよばれている。これらの高温下で形成された片麻岩やグラニュライトは、石英や斜長石のほかに種々の量のカリ長石をふくんでいる。
これまでのべた変成岩にみられる、特有の組織についてふれておく。
千枚岩 細粒で片状の変成岩をさし、再結晶作用の程度は粘板岩よりは進行しているが、片岩ほどではない。片理面にそって緑泥石や絹雲母が配列して、光沢がめだつのが特徴である。
片岩 細粒または粗粒で、片理(schistosity)または片状組織(schistose
texture)がみられるのが特徴である(図4.1参照 略)。
片麻岩 中粒または粗粒で、片麻状組織(gneissosity・gneissose texture)をもつ岩石で、石英と長石に富む淡色の部分と黒雲母やほかのマフィック鉱物に富む暗色部分が、こまかい縞状構造(banding・laminated
structure)をしていることがよくあり、このようなものを縞状片麻岩(banded gneiss)という(図4.3 略)。
縞状片麻岩:泥質岩以外の種々の堆積岩や、火成岩から変成した片麻岩にもよくみられるもので、その成因については、大別してつぎの2つがある。
@比較的均質な原岩が変成作用をうけるときに、ある個所にはおもにマフィック鉱物が、またほかの個所にはおもにフェルシック鉱物が濃集して縞状構造が形成されるもので、これを一般に変成分化作用(metamorphic
differentiation)とよんでいる。
A片麻岩形成時により深所からカコウ岩質マグマがしみこんできて淡色部を形成するもので、このようにして形成されたものを注入片麻岩(injection
gneiss)という。このときしみこんできたものは、カコウ岩質マグマそのものではなく、SiO2やアルカリ成分をふくむ高温気体〜熱水で、それと原岩とのあいだの交代作用によって、淡色部が形成されたという解釈もある。斜長石双晶法による研究では、この両方のものがあるようである。
再結晶作用の過程で、成長速度の大きな鉱物があると、その鉱物だけが大きく成長して斑状結晶が形成される。これを斑状変晶(porphyroblast)といい、そのあいだの細粒鉱物からなる部分をマトリックス(matrix)という(図4.1参照 略)。眼球片麻岩はカリ長石の斑状変晶が、とくに粗粒になったものである。
また一般にポーフィロブラスティック(porphyroblastic)という用語は、再結晶作用によって形成された変成岩の斑状組織に使用し、ブラストポーフィリティック(blastoporphyritic)という用語は、変成作用によって粗粒な原岩の組織は破壊されかかっているが、まだ、その構造やある種の鉱物が斑状に残っているときに使用する。
4.2.A-b 石英長石質岩起源の変成岩
砂質岩・チャート・フェルシックな火成岩などの、石英や長石に富む岩石(石英長石質岩;quartzo-feldspathic
rock)が変成作用をうけると、石英や長石を主とする変成岩(たとえば石英長石質片岩や片麻岩など)になる。ほとんど石英からなるものはオーソクォーツァイトとよばれるが、この本ではこれらを堆積岩の一種として扱った。
4.2.A-c 石灰質堆積岩起源の変成岩
石灰質岩石(calcareous rock)を代表する石灰岩の主成分鉱物である方解石は、広い温度・圧力条件下で安定な鉱物であるから、CaCO3以外のほかの成分をあまりふくまない純粋な石灰岩が変成作用をうけると、おもに粗粒の方解石からなる変成岩になる。これを結晶質石灰岩(crystalline
limestone)あるいは大理石(marble)という。
しかし石灰岩が石英やドロマイト(苦灰石)をふくんでいると、変成度に応じて、方解石以外にCaやMgで特徴づけられる種々の珪酸塩鉱物が形成される。それらはタルク・トレモライト・ディオプサイド・カンラン石・ウォラストナイトなどである(この順序で温度上昇をしめす)。このようなCaやMgに富む珪酸塩鉱物を多くふくむと、石灰−珪酸塩岩(calc-silicate
rock)とよばれる。
また泥質の堆積物や火山灰をふくむ石灰岩では、Caに富む輝石(ディオプサイド〜ヘデン輝石系の輝石)やCaに富むザクロ石(ウグランダイト系のザクロ石)などが形成される。この種の鉱物からおもに構成されているものがスカルンである。すでにのべたように、スカルンは不純物のすくない石灰岩がMg・Fe・Alなどをふくむ過熱水蒸気のしみこみのもとに、交代作用をうけたときにも形成される。
4.2.A-d マフィックな火成岩起源の変成岩
玄武岩質の溶岩・火砕岩・ハイアロクラスタイト・岩脈などが原岩である。これらは多量のMgO・FeO・CaO・Al2O3をふくんでいる。そのため低度変成岩としては、アルバイトのほかに緑泥石・リョクレン石・アクチノライトなどの緑色鉱物を主成分鉱物とする緑色片岩(greenschist)がある。緑色片岩にはアクチノライトをふくまないものや、かなりの量の石英や方解石をふくむものもある。低温−高圧下ではパンペリー石・ローソン石・ランセン石をふくむランセン石片岩(glaucophane
schist)が形成される。この岩石は青色であることから青色片岩(blueschist)とよばれることがある。
やや高温下ではリョクレン石・オリゴクレイス〜アルバイト・ホルンブレンド(薄片で青緑色)を主成分鉱物とするリョクレン石角閃岩(epidote
amphibolite)が形成される。
さらに高温下では斜長石(種々の程度にCaをふくむ)とホルンブレンド(薄片で緑〜褐色)からなる角閃岩(amphibolite)が形成される。さらに高温−高圧下で形成された変成岩には、斜長石・斜方輝石・単斜輝石(オージャイト)、それにザクロ石(パイロープやアルマンディン)が加わった複輝石グラニュライト(two-pyroxene
granulite)やエクロジャイトがある。
板状や針状の鉱物をあまりふくまないで、そのかわりに粒状(granular)鉱物を主とする変成岩の組織を、グラニュリティック組織(granulitic
texture)という(粒状の鉱物からなる火成岩の組織は粒状組織とよばれる;glanular texture)。これは、おもに輝石やザクロ石のような粒状鉱物からなる、グラニュライトやエクロジャイトにみられる。
4.2.B 接触変成岩
接触変成帯に分布する変成岩のうち、火成岩体の近くの変成温度が高く、再結晶作用が進行した変成岩の多くは、ホルンフェルス(hornfels)とよばれる。これは塊状・緻密な岩石で、原岩の組成のちがいによって、泥質ホルンフェルス・石英長石質ホルンフェルス・石灰−珪酸塩ホルンフェルス・マフィックホルンフェルスなどに分類される。
火成岩体からはなれた変成温度が低い場所には、粘板岩や片岩が形成される。大理石は純粋な石灰岩が、接触変成作用をうけたときにも形成される。
ホルンフェルスは個々の結晶が特定ののびをしめさない、等粒状の変成組織をもっているこちが多く、このような組織をグラノブラスティック組織(granoblastic
texture)とよんでいる。
紅柱石・コーディエライトなどの斑状変晶や、雲母・緑泥石などの点紋状の集合体が形成されている泥質の接触変成岩を点紋粘板岩(spotted
slate)といい、そのような点紋状の集合体がみられる構造をマキュローズ構造(maculose structure)という。接触変成帯の低温部に形成される結晶片岩で、斜長石などの斑状変晶がみられるものは点紋片岩(spotted
schist)とよばれる。この種の岩石は広域変成帯(三波川変成帯・三郡変成帯など)にもみられる。
接触変成岩の特殊なものにパイロ変成岩(pyrometamorphic rock)がある。これは火山岩や小規模な貫入岩体に砂質〜泥質岩が取りこまれたり、あるいは前者が後者に接したりしたときに、高温下で形成された変成岩で、その多くはサニディナイト相に属する。ほとんど溶けてガラス質になったものはブッカイト(buchite)とよばれる。淡〜褐色ガラスにコーディエライト・珪線石・トリディマイト・輝石などをふくむことがある。』