都城・久城(1975)による〔『岩石学U』〕(132-136p)から〕


21.1 変成岩の組織
 19世紀の末ごろ、顕微鏡が使えるようになった岩石学者たちによって世界の火成岩のさまざまな種類が熱情的に記載され、それらに多くの新しい岩型名が与えられたが、変成岩の記載命名のほうは当時はそれほど熱情的には行なわれなかった。おかげで、変成岩に対しては、火成岩に対するほど多くの岩型名がつくられて混乱を起すことはなかった。
 変成岩の多くの岩型は、主として組織だけを表わす比較的少数の岩型名を使って、その前に化学組成あるいは鉱物組成を表わす語をつけることによって表わされる。そこで、本章の分類命名の話は、変成岩の組織の解説から始めよう。
 変成岩のなかには、再結晶作用によって斑状の大きい結晶ができることがある。これを斑状変晶(porphyroblasts)という。それに対して、斑状変晶の間のもっと細粒の部分をマトリックス(matrix)とよんでいる。火成岩の斑晶はマグマのなかで自由に成長するので自形になることが多いが、斑状変晶は固体の岩石のなかで成長するのでそれほど自由ではない。したがって、自形でない場合も多いが、ときには自形のこともある。変成作用によってできる自形結晶を、自形変晶(idioblasts))という。
 一般に、変成岩の組織に関係した英語の単語の語尾に-blasticという接尾語がついている場合には、その性質が再結晶作用によって新しくできたものであることを意味している。たとえば、porphyroblasticとは、再結晶作用によってできた斑状組織を意味する言葉である。
 ところが英語で、blasto-という接頭語が用いられることがある。この場合には、変成作用によっていくらか破壊されかかっているけれど、まだ形跡の残っている原岩の組織をさしている。たとえば、blastoporphyriticとは、原岩が斑状組織をもっていた形跡が、変成後も残っている状態をさす言葉である。Blastopsammiticとは、もとの砂岩の組織がいくらか残っている状態をさす。
 変成岩に、間隔の細かな平行面群にそって裂けやすい性質があるときに、それを劈開(cleavage)という。
 変成岩のなかに多量に含まれている板状、柱状、または針状の鉱物がおたがいに平行に並ぶことを、片理(schistosity)または片状組織(schistose texture)という。片理をもっている岩石は、多くの場合には劈開をもつ。そこで場合によっては、構成鉱物が平行に並んで劈開を生ずることを片理というと定義することもある。広域変成岩の大部分は、多かれ少なかれ片理をもっている。接触変成岩は片理をもたないことが多い。
 変成岩が、鉱物組成または構造のちがう薄層(またはレンズ状体)が重なってできたような平行組織をもっていることがある。これを、縞状組織(banding、laminated texture)という。多くの場合には、縞状組織は片理を伴っている。しかし、縞状組織は顕著であるが片理は弱いか、または欠けている場合も多く、このような組織を片麻状組織(gneissosity、gneissose texture)という。
 葉状組織(foliation)という言葉は、上記の片理の同義語としてきわめて広く用いられている。ことにアメリカにおいてはそうである。しかし場合によっては、この言葉は、片理、劈開、片麻状組織の総称として用いられることもある。また他の場合には、火成岩、堆積岩、変成岩のどれにでもみられる任意の平行板状組織をさすことがある。Harkerはその著書“Metamorphism”(1932)のなかで、この言葉を縞状組織の意味に用いたが、その用法にしたがう人もある。このように、葉状組織という言葉は人によって異なる意味に用いられるので、なるべく使用をさけたがよいであろう。
 変成岩にみられる任意の平行面群のことを、B.SanderはS面(S-surfaces、S-planes)とよんだ。これは、成因と関係のない記載的な言葉である。それは、ある場合には片理面であり、ある場合には縞状構造の面であり、ある場合には変成岩の原岩がもっていた成層面のあとである。一つの変成岩片は、しばしば二つ以上のS面をもっている。
 変成岩の線状構造(lineation)とは、いろいろな種類の線状要素(linear elements)の平行配列のことである。線状要素というのは、たとえばホルンブレンドの柱状結晶とか、石英粒の棒状集合体とか、微褶曲の軸とか、いろいろなS面の交線などのごときものである。
 多くの場合に、片理面は変形運動のときのすべり面の方向であると解釈されている。そして線状構造の方向は、運動の起った方向に垂直であると解釈されている。しかし、それとはちがうような場合もある。
 B.Sanderは、その組織が何かの運動によってできたような岩石をテクトナイト(tectonite)とよんだ。たとえば、流動組織を示す火成岩も一種のテクトナイトであるが、最も典型的なテクトナイトは変形運動をともなう広域変成作用によってできた広域変成岩である。そのような広域変成岩のなかには、ただ一組のS面だけが顕著に発達して片理をつくっているようなものがよくある。これをSanderは、Sテクトナイト(S-tectonite)とよんだ。他方にはまた、線状構造が顕著に発達しているようなテクトナイトもある。これをBテクトナイト(B-tectonite)とよんだ。
 雲母の平らな結晶や角閃石の柱状結晶が平行に並んで片理や縞状構造を生ずるときには、それらの鉱物はその外形にしたがって並んでいるのである。Sanderは、このような外形による規則的配列を、Formregelung(ドイツ語)とよんだ。ところが、変成岩のなかの石英や方解石は、その外形は板状や柱状ではなくても、その結晶学的要素(たとえばc軸)がある定まった方向にむく傾向をもつことがある。Sanderは、このような外形によらない鉱物の規則的配列を、Gitterregelungとよんだ。

 21.2 変成岩の岩型名の種類、ことに主として組織を表わす岩型名
 変成岩の岩型名のなかには、火成岩の岩型名の大部分と同様に鉱物組成と組織との両方にもとづいて定義されているものもある。たとえば、角閃岩や珪岩や大理石などはそうである。しかし、このような岩型名は比較的まれであって、変成岩の岩型名の大部分は主として組織だけにもとづいて定義されている。一般的にいって、組織は鉱物組成と無関係ではないので、組織だけによる定義も、多かれ少なかれ鉱物組成上の制限を含むことにはなる。しかし、主として組織の方に注意が向けられているというのである。
 近年の一つの新しい傾向として、変成相の観念を岩型名の定義に含ませようとする動きがある。たとえば角閃岩やグラニュライトという名前を、角閃岩相やグラニュライト相の岩石に限って使おうとするのである。これは将来、変成岩の分類命名の体系を簡単にするのに役立つかもしれない。
 この節では、以下に、主として組織を表わす岩型名だけを解説する。他の種類の名前は、後に特定の化学組成あるいは鉱物組成の変成岩を取扱うところで解説する。
 ホルンフェルス(hornfels)とは、片状組織や縞状組織をもたない、無方向性の変成岩である。斑状変晶をもつことも多い。接触変成作用でできるのが普通である。最も典型的なホルンフェルスは、泥質堆積岩が接触変成作用をうけてできたものであるが、それ以外の変成岩で上記のような組織上の性質をもつものにも拡張して広く使用されている。
 スレート(slate)とは、肉眼では識別できない程度の微粒の鉱物からできていて、よく発達した劈開をもっている変成岩のことである。典型的なスレートは、泥質堆積岩起源の粘板岩(clay slate)であるが、スレートという言葉はもっとシリカの多い岩石に使ってもよい。スレートは一種の変成岩にちがいないが、再結晶作用の程度が少ない場合には、堆積岩のなかにいれてもよいであろう。しかしよく再結晶しているスレートも多い。
 千枚岩(phyllite)とは、細粒で片状の変成岩であって、再結晶作用の程度はスレートよりは進んでいるが、片岩には及ばない。典型的な千枚岩は泥質堆積岩起源の広域変成岩であって、片理面には緑泥石や白雲母が並んで光沢を呈している。
 片岩(schist)とは、細粒または粗粒で片理のよく発達した変成岩を意味する。片岩はしばしば縞状組織をも伴っている。片岩には、泥質岩起源の雲母-片岩、塩基性火成岩起源の緑色片岩、そのほか、いろいろなものがある。片岩の大部分は広域変成岩であるが、場合によっては接触変成作用でできることもありうる。
 片麻岩(gneiss)とは、元来は中粒または粗粒で、カコウ岩と同じような鉱物組成をもち、片麻状組織を呈する岩石(火成岩および変成岩)の全体をさす名前であった。したがって、平行組織を呈するカコウ岩は、むかしは広く片麻岩とよばれた。しかし今日の一般的傾向としては、片麻岩を比較的高温でできた変成岩にだけ使うようになっている。片麻岩という名前は、泥質または石英長石質の広域変成岩に多く用いるが、上記の条件を満たせば、それよりほかの変成岩に用いてもよい。
 大きな断層の形成のときなどに、そのまわりの岩石がはげしい変形や破砕をうけることがある。それにともなって再結晶作用があまり起らない場合に、その過程をカタクラスティックな変成作用(cataclastic metamorphism)とよぶ。(この過程を動力変成作用とよぶ人も多いが、この語は広域変成作用の意味にも用いられることがあって、あいまいである。)次に、この種の作用でできた岩石の名前を二つだけあげる。
 カタクラサイト(cataclasite)とは、そのような変成作用でできた無方向性の変成岩をさすのが普通である。ただしこれを、そのような変成作用でできた変成岩全体に対して使う人もある。
 マイロナイト(ミロナイト、展砕岩、mylonite)とは、変形運動がはげしくて、構成鉱物が極度に微粒に破砕され、それが運動方向にそって長くちらばって、縞状あるいは条線状の模様を生じている岩石である。この破砕は高い封圧のもとでおこるので、岩石は凝集性を失わない。

 ここに付記すれば、ある原岩から生成した変成岩群をさすのに、その原岩の名前の前に“メタ”あるいは“変成”(meta-)という接頭語をつけて表わすことがある。たとえば、変成堆積岩類(metasediments)や変成火山岩類(metavolcanics)は、それぞれ堆積岩起源および火山噴出物起源の変成岩という意味である。メタ・ドレライト(metadolerite)とかメタ・ガブロ(metagabbro)とかは、それぞれドレライトおよびガブロ起源の変成岩である。こういうことばは、原岩の組織がまだ一部分残っているのが認められるような場合にだけ用いようとする人もあるが、もっと広い意味に使われることも多い。』