目次
第1回 はじめに−地球資源とは
第2回 エネルギー資源(総論)
第3回 化石燃料資源:石油
第4回 化石燃料資源:石炭
第5回 化石燃料資源:天然ガス
第6回 核燃料資源:ウラン
第7回 鉱物資源(総論)
第8回 金属鉱物資源
第9回 非金属鉱物資源
第10回 生物資源
第11回 水資源
第12回 土壌資源
第13回 資源と環境
第14回 将来の資源
付 ピーク資源および再生可能エネルギー
第1回 はじめに−地球資源とは
狭義の資源と言えば、天然資源(Natural Resources)を指します。その大部分は地下資源(Underground Resources)です。生物関連の資源は、近年では人類の関与が大きいので天然資源とは呼び難い状況ですし、もちろん地下資源とは言いません。そのような事情がありますので、様々な種類の資源を総合的に取り扱える便利な言葉として地球資源(Earth Resources)を用いています。地球資源は3つの大きなグループから構成されると考えるのが便利です。エネルギー資源(Energy Resources)と鉱物資源(Mineral
Resources)と生物資源(Biotic Resources)のグループです。これ以外に、水資源(Water Resources)と土壌資源(Soil
Resources)についても説明します。
第2回 エネルギー資源(総論)
日本を中心としたエネルギー資源(Energy Resources)状況は経済産業省〔METI、Ministry of Economy, Trade and Industry:その中の資源エネルギー庁(Agency for Natural Resources and Energy、ANRE)が管轄〕が毎年刊行しているエネルギー白書(Annual
Energy Report)にまとめられています。そこには、世界の状況についても簡単に説明されています。関連の情報は、日本については資源エネルギー庁およびJOGMEC(Japan Oil, Gas and Metals National Corporation、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構)等から、世界についてはIEA(International Energy Agency、国際エネルギー機関)やUSEIA(U. S. Energy Information Administration、米国エネルギー情報局)やBP〔British Petroleumの略称からきているがBP(ビーピー)が正式名:英国の国際的な石油会社〕等から入手できます。
ただし、エネルギー需給(Supply-Demand)に関連する公表されたデータは商業ベースのエネルギー資源についてのものであり、市場に出ない非商業エネルギー〔Non-commercial Energy Resources:薪(Firewood)や糞(Feces)など〕は一般的に含まれていないので注意が必要です。しかし、とくに途上国などにおいては非商業エネルギーの占める割合が高い場合がありますので、国連などによってそれらの量の見積りも近年では行われ始めています。それによれば、世界で非商業エネルギーは全体の2割程度を占めるとも言われています。以下の説明は、統計データを入手できる商業エネルギーに基づいたものですので、実際には世界の場合には0.8倍(商業エネルギー分が8割とした場合)した量が現実に近いと推定されます。日本の場合は、商業エネルギーはほぼ全エネルギーに等しいと考えて良いと思います。
世界のエネルギー資源の消費(Consumption)量の約9割近くが化石燃料(Fossil Fuels)〔石油(Oil、Crude
Oil)+石炭(Coal)+天然ガス(Natural Gas)〕です。日本でも8割以上を占めます。化石燃料は炭化水素(Hydrocarbons)からなりますので、元素(Element)から見れば炭素(Carbon)と水素(Hydrogen)がその大部分を占めますが、これらを消費すると大気中の酸素(Oxygen)との反応によって炭酸ガス(Carbon Dioxide、二酸化炭素、CO2)と水(Water)が発生します。とくにこの炭酸ガスが温室効果(Greenhouse Effect)を増長し温暖化(Global
Warming)を進めるということで、地球環境問題(Global Environmental
Issues)と密接な関連を持つことが知られています。例えば、各国が排出する炭酸ガス量は、消費される化石燃料から主に見積られています。
エネルギーの流れは、入口側の『一次エネルギー総供給(Total Primary
Energy Supply)』と出口側の『最終エネルギー消費(Final
Energy Consumption)』によって示されることが普通であり、エネルギーフロー(Energy Flow)とかエネルギーバランス(Energy
Balance)とか呼ばれます。電気(Electric Power)や石油製品(Petroleum Products:例えばガソリン等)などは二次エネルギー(Secondary Energy)とも呼ばれるもので、一次エネルギーからの転換(Conversion)によって生み出されます。日本では、経済産業省が毎年エネルギーバランスをまとめて表として提供していました〔総合エネルギー統計(Energy Balances
in Japan)〕。この表からフロー図等の作成もできますので便利でしたが、現在は休刊中です注1。それは、炭酸ガス排出量(CO2 Emission)の国際的な基準による推定も行えるような体系への変更作業のためと言われています。
日本の一次エネルギー総供給で最も多いのは石油(Oil)であり4割強です。日本の特徴の一つは原子力(Nuclear)が比較的多いことであり約1割強です。その他(約6%)の大部分は水力(Hydro)です。
日本の最終エネルギー消費は産業(Industry)・民生(Residential & Commercial)・運輸(Transport)の3分野に分類されていますが、産業は4割強、民生は3割強、運輸は2割強です。
日本では一次エネルギー総供給量の2/3程度が最終エネルギー消費量となっています。つまり、1/3近くが排熱(Heat
Loss)となっていますので、この過程での省エネも重要です。さらに、最終エネルギー消費で実質的に利用されているのはその約半分ともされていますので、一次エネルギー総供給量の1/3程度しか有効に利用されていないことになります(⇒Exergy、エクセルギー)。
日本の将来のエネルギー需給の見通し(Long-term Energy Supply
Demand Outlook)は、経済産業省所管の審議会である総合資源エネルギー調査会(Advisory Committee for Natural Resources and Energy、ACNRE)で一次エネルギー総供給と最終エネルギー消費について案が作成され、政府がそれを承認した後に、その方針に沿った諸施策が政府によって実行されています。近年は、気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change、UNFCCC、FCCC)の京都議定書(Kyoto Protocol)に定められた炭酸ガス削減等の数値目標(Treaty
Obligation)を達成するための需給量見通し案も含まれています。
注1 資源エネルギー庁のウェブサイトから一部のデータを入手できます
第3回 化石燃料資源:石油
化石燃料(Fossil Fuels)のように、一度利用すれば二度とエネルギー資源として利用できないものは枯渇性〔Exhaustible:または、非再生ないし再生不能ないし非更新性(Non-renewable):逆は、非枯渇性または再生可能ないし更新性〕エネルギー資源と呼ばれます。このような枯渇性資源の場合に、残された量を埋蔵量(Reserve)で表わし、残された利用可能な時間を可採年数(R/P
Ratio:または耐用年数またはR/P)で表わすことがよく行われます。
埋蔵量といっても様々な内容のものがありますが、一般に埋蔵量と言えば確認可採埋蔵量を意味します。探査(Exploration)等の調査によって地下の何処にどれ位の量が存在するかが確認されており、現在の採掘(Mining)技術および経済状況の下で採掘可能な埋蔵量です。この埋蔵量をある年の生産量注2で割った量が可採年数です。このある年については、埋蔵量を確認した年と生産の年が同じである必要があります。つまり、これは確認されている埋蔵量を同じ年間生産量で利用し続けた場合に無くなるまでにかかる年数ですので、寿命(Lifetime)に関連する量です。しかし、埋蔵量は探査や生産(Production)によって増減しますし、一方の生産量も増減しますので、可採年数は寿命ではありません。では、もっと寿命に近い年数はどうすれば知ることができるでしょうか。それには、埋蔵量の代わりに究極(Ultimate)埋蔵量と呼ばれる量を用いれば良いのです。究極埋蔵量は、生産量の累計された(Cumulative)量に確認可採埋蔵量および未確認埋蔵量を加えた量です。問題は未確認埋蔵量ですが、これは将来的な探査技術の進歩や経済状況の好転等の様々な条件を考慮した、現時点では未確認であるが将来に発見されることが期待される量の最大値です。石油の場合には、過去の探査活動の大きさとその結果などの実績を将来に外挿する方法や、石油の生成条件等から自然科学的に概算する方法などによって見積られています。
石油は過去の地球に生息していた生物体(Biomass)から変化したものです。石油は1000種類を超える有機化合物(Organic Compounds)の混合物ですが、それらの研究からプランクトン(Plankton)等の動物(Animal)と植物(Plant)が主要な割合を占めていると考えられています。死んだ生物の体は砕屑物(Detritus、Clastics)とともに河川(River)水等によって運搬(Transport)・堆積(Deposit)され、堆積岩(Sedimentary Rock)の構成物の一部となります。その後、地下への埋没(Buried)の過程における地温・地圧の上昇に伴って化学変化とともに移動(Migration)も行って石油(原油、Crude Oil)に変化したと考えられています。もともと、細粒の砕屑物に伴っていましたが、やがて粗粒の砕屑物の孔隙(Pore:間隙)に移動しました。前者は根源岩(Source
Rock)と呼ばれ泥岩(Mudstone)等の堆積岩が主体であり、後者は貯留岩(Reservoirs)と呼ばれ砂岩(Sandstone)や石灰岩(Limestone)等の堆積岩が主体です。地下において、岩石粒子の孔隙に存在する水(地下水、Groundwater)よりも石油の方が軽いために、同時に生成したと考えられる天然ガス(Natural Gas:メタンが主体)も考慮すれば、下部から水−石油−ガスの3層分布が理想的な胚胎順序となります。石油やガスは軽いため、通路があればやがて地表に達して大気中へ散逸してしまいますので、蓋の役割を持つ帽岩(Cap Rock、一般に細粒の堆積岩である泥岩等)の存在も必要です。このように、根源岩と貯留岩と帽岩の3つが揃った場所に石油鉱床(Petroleum Deposit)である油田(Oil Field)が形成されています。このような条件が揃った場所はトラップ(Trap、罠)と呼ばれますが、石油の探査ではこのようなトラップの場所を発見することが大事です。
生物の死んだ体から石油へと変化する有機化学反応を考えると、一般に温度が高いほど、あるいは時間が長いほど、その化学反応は進行します。地下では一般に深い場所ほど温度(圧力も)が上昇しますが、上昇し過ぎると石油を構成する有機化合物のすべてはやがてメタン(Methane、CH4)に変化してしまいます。つまり、ある程度以深ではメタンに変わってしまい、石油は存在しません。メタンは地表条件下では気体ですが、天然ガスと呼ばれるもののほとんどがメタンなのです。また、有機化学反応が進行するのにそれぞれ時間がかかりますので、同じ温度であっても長い時間を経過した場所では石油へ変わる反応が進んでいます。このような訳で、世界的に見ても、石油は生成時代と地下温度条件の限られた場所に胚胎しています。
注2 近年、石油生産量のピークがいつ訪れるかが話題になっています。石油の枯渇ではないのですが、ピークの時点で残されている量は半分となる訳ですから、様々な問題が発生することが危惧されています。これに関連する論争をピーク・オイル(Peak Oil)論争と呼んでいます。その時期については、悲観的な人たち(組織も含めて)は近い将来であると予想し、楽観的な人たちは遠い将来としています。
第4回 化石燃料資源:石炭
化石燃料(Fossil Fuels)の中で石油(Oil)に次いで世界消費量〔火力発電(Thermal Power Generation)での利用が多い〕が多いのは石炭(Coal)です。石炭は固体(Solid)ですので、それが何から形成されたかは詳しく分かっています。世界の主要な石炭は約3.0〜3.5億年前頃の古生代(Paleozoic)の石炭紀(Carboniferous)と呼ばれる時代にシダ植物(Ferns)から形成されました。地球46億年の歴史の中で約40億年前に生命(Life)が誕生し、生物(Organism)は海中で長い時間をかけて進化(Evolution)を遂げ、約4億年前頃に海から陸へ進出しましたが、最初に陸上で繁栄した植物(Plant)がシダ植物です。その後、裸子植物(Gymnosperms)そして被子植物(Flowering Plants、Angiosperms)へと主役の座は移りますが、これらはそれぞれの時代において石炭を生み続けました。森林(Forest)を形成するような樹木(Tree)の幹(Trunk)部分が石炭の主要部分になっていますが、樹木等が砕屑物(Detritus、Clastics)と共に河川(River)等によって運ばれ、湖沼(Lakes)や海洋(Sea、Ocean)の沿岸(Coast)周辺に堆積し、やがて地下へ埋没(Burial)するに従って地温と地圧が上昇し、植物を構成する主にセルロース(Cellulose)やリグニン(Lignin)成分が石炭へと変化したと考えられています。その有機化学反応による石炭への変化の過程は石炭化作用(Coalification)と呼ばれています。主に脱水(Dehydration)と脱炭酸(Decarboxylation)と脱メタン(Demethanization)の反応によって、炭素(Carbon)に富む方向に変化しました。石炭を構成するのは多種類の高分子有機化合物(Macromolecule Organic Compounds)です。
石炭は、堆積作用(Sedimentation)によって形成されたものですから、鉱物(Mineral)質の堆積物(Sediment)を不純物(Impurity)として含むものも多いし、石炭化度の段階も様々ですから、その性質はかなり変動します。最も石炭化度が高いものは、炭素成分が非常に多い無煙炭(Anthracite)と呼ばれるものです。石炭化度がそれよりも低いと、瀝青炭(Bituminous Coal)・亜瀝青炭(Subbituminous
Coal)・褐炭(Brown Coal−Lignite)のように名づけられています。さらに石炭化度が低い泥炭(Peat)は、普通は石炭に含められていません。
石炭は上記のように成分の変動が大きいために、成分毎に埋蔵量(Reserve)と生産量(Production)の統計をとる必要があるのですが、一般的には高品位の無煙炭と瀝青炭のグループと褐炭を中心としたグループとの2つに分けられている場合が多いようです。石炭は化石燃料の中で最も埋蔵量が多いのですが、不純物も多いため、利用に伴って灰(Ash:燃焼によって気体に変わらなかった部分で、鉱物分が主体)や硫黄酸化物(Sulfur Oxide、SOx)・窒素酸化物(Nitrogen
Oxide、NOx)などの負荷(Load)気体などが排出されます。埋蔵量が多いために価格も安いのですが、このように環境に対する負荷が大きいので、環境問題(Environmental Issue)に対する対策上は消費を抑える取り組みが行われています。同時に、量が多く安いという魅力がありますので、クリーンな利用方法〔クリーン・コール・テクノロジー(Clean Coal
Technology)や炭素固定(Carbon
Fixation)技術の開発など〕も研究されています。
第5回 化石燃料資源:天然ガス
3大化石燃料(Fossil Fuels)の1つである天然ガス(Natural Gas)は、メタン(Methane、CH4)が主要な成分です〔他にエタン(Ethane、C2H6なども含まれる)〕。従って、水素/炭素比(Hydrogen-Carbon Ratio)が最も大きいため〔水素/炭素比を原子比(Atomic Ratio:H/C)で比較すると、石油(Oil)は2弱、石炭(Coal)はほぼ1、そして天然ガスはほぼ4です。従って二酸化炭素発生量(CO2 Emission)の比は、石油を1とすると、石炭は1.4位、天然ガスは0.7位です。なお、重量当りの発熱量(Heat of Combustion)比は、石油:石炭:天然ガス=1.73:1.00:1.83です〕、二酸化炭素の排出量が相対的に少ないために近年は消費量が増加しています。
天然ガスは、1)石油に随伴するもの、2)単独で存在するもの、3)地下水に溶け込んでいるもの、4)石炭に随伴するものなどがありますが、1)と2)が多くなっています。これらは、生物(Organism)を起源とするものであり、比較的に高い温度での有機化学反応(Organic
Chemical Reaction)においてはメタンが生成され易くなるために、石油や石炭に伴うばかりでなく、さらにメタンのみで存在する可能性が高くなる訳です。無機起源(Inorganic Origin)のメタンも存在する可能性はありますが、その量は限られていると推定されます。
天然ガスは気体であるため、その運搬(Transportation)はパイプライン(Pipeline)による場合が多くなっています。パイプラインが利用できない場合には冷却して(−162℃)液体の状態でタンカー(Tank Ship、Tanker)運送され、これは液化天然ガス(Liquefied Natural Gas、LNG)と呼ばれます。日本の場合は輸入(Import)の全量がLNGとしてです。
日本において、ガスと言えばもう1つあります。それはLPG(Liquefied Petroleum
Gas、液化石油ガス)です。主にプロパン(Propane、C3H8)またはブタン(Butane、C4H10)の場合が普通です。民生用に使われる都市ガスは主に天然ガス(メタン)から製造されますが、プロパンガス(Propangas)と呼ばれるものが主にLPG(プロパン)から製造されます〔これらを大気(窒素ガス78%+酸素ガス21%などからなる)と比較すれば、都市ガスは軽く、プロパンガスは重いので、ガス漏れに対する対応が変わります〕。LPGは化石燃料(特に石油)の製造過程で生産されるものが大部分です。つまり、LPGは通常は一次エネルギーではありません。複雑なのは、一次エネルギー的に生産されるLPGもあり、必ずしも統計上で区別が明確でない場合がありますので注意が必要です(ただし、LNGとLPGを全量で比較すれば圧倒的にLNGが多い)。
3大化石燃料は、いわゆる在来(Conventional)型です。現在はほとんどまたはまったく利用されていない非在来(Non-conventional)型注3と呼ばれる化石燃料も存在します。その代表的なものがオイルシェール(Oil Shale)とオイルサンド(Oil Sand)とメタンハイドレート(Methane Hydrate)です。オイルシェールは石油になりそこなったもの、オイルサンドは軽質成分が抜けた石油をイメージしてください。いずれも、石炭の開発方法と同様の方法による必要があります。埋蔵量は膨大であることが推定されていますが、問題がいろいろあります。ただし、一部の国では開発(Exploitation)が始まっています。メタンハイドレートは、メタン分子を複数の水分子が囲むような構造を持つ氷のような固体状のものです。ある程度の低温と高圧条件で生成しますが、世界中の海底および凍土(Permafrost)地域などで発見されています。日本周辺の海底からも発見されており、日本では特に将来の天然ガス資源として注目されており、その開発方法等が研究されています。
注3 近年は、とくに米国において、天然ガスの非在来型としてシェールガスが注目されています。これは、シェール(shale、頁岩:泥岩に近い)中に含まれるガスであり、水平坑井掘削技術および水圧破砕技術により、在来型と競争できるようになったものです。
第6回 核燃料資源:ウラン
原子(Atom)の主要な構成粒子として、1897年に電子(Electron)が、1911年に原子核(Atomic
Nucleus)の陽子(Proton)が、1932年に中性子(Neutron)がそれぞれ発見されました。そして、1938年には、ある原子に中性子を照射(Bombard)することによって、新しい放射性(Radioactive)物質が誕生することが発見されました。
1938〜1939年に、ドイツで、質量数(Mass Number)235のウラニウム(Uranium、ウラン)〔原子番号(Atomic
Number)92のウラニウムを構成する同位体(Isotope)は、約99.3%が質量数238で、残りの僅か約0.7%が質量数235です。質量数235が核分裂(Nuclear Fission)を起こす性質を持ちます〕に中性子を照射することによって、その原子核がほぼ2つに分裂することが発見されました。原子核分裂の発見です。その後、その核分裂を制御するための研究が進められたのですが、時は第二次世界大戦(World War II:1939〜1945年)の開戦前、ドイツでの核兵器(Nuclear Weapon)開発に対抗して、米国はマンハッタン計画(Manhattan Project)により核分裂の軍事利用である原子爆弾(Atom Bomb)の開発を促進させます。それは、1945年に広島(ウラニウム原爆)と長崎(プルトニウム原爆)への原爆投下と核爆発という結果を生みました。
原子核分裂は微妙な条件を揃えないと起こり得ないと考えられていましたが、天然にも起こり得ることを予想した研究者がいました。それは日本人(黒田和夫)で1954年のことです。天然原子炉(Natural
Nuclear Fission Reactor)説と呼ばれています。その後1972年に、フランスの植民地であったガボン共和国(Gabon)オクロ(Oklo)地区において天然における核分裂反応の痕跡が確認されます。これは約20億年前のウラン鉱床(Uranium Deposit)であり、その半減期(Half-life、約7億年)から推定すれば当時はウラニウム235の同位体比は約4%に近かったとされており、これは現在の濃縮ウラン(Enriched Uranium)と同程度の濃縮度です。
ウラニウム235に速度の遅い中性子〔熱中性子(Thermal Neutron)と呼ばれる〕を衝突させることで、核分裂反応を起こすことができます。その過程で、中性子も発生しますが、それは高エネルギーを持ったもの(Fast Neutron)です。その中性子を低エネルギーに変えて熱中性子にすれば、それは新たな核分裂を発生させます。それを継続させれば連鎖反応(Nuclear Chain Reaction)となります。そのような目的のものを減速材(Moderator)と呼び、冷却の目的で使われるものを冷却材(Coolant)と呼びますが、これらを使って核分裂反応をゆっくりと起こして平和利用しようとするものが原子力発電(Nuclear Power Generation)です〔原子核(分裂)エネルギー(Nuclear
Energy)⇒熱エネルギー(Thermal
Energy)⇒力学的エネルギー(Kinetic
Energy)⇒電気エネルギー(Electric
Energy):原子炉としては、沸騰水型軽水炉(BWR、Boiling
Water Reactor)と加圧水型軽水炉(PWR、Pressurized
Water Reactor)が主流〕。一般に、減速材と冷却材には通常の水〔同位体から見ると軽い水素から構成されるため、軽水(Light
Water)と呼ばれます〕が用いられています〔この場合には、ウラニウム235の同位体比はもっと大きい必要があり、約4%程度のものが使われていますが、これは濃縮ウランと呼ばれています(ただし、原爆用にはもっと高濃度である必要があります)〕。熱中性子ではなく、高エネルギー中性子を用いるとプルトニウム(Plutonium、原子番号94)が生成する確率が増えますが、これも核分裂の能力を持ちます(プルトニウム239)。従って、プルトニウムを増やしながら発電も続けられれば、長期的に利用できることになりますので、そのような目的の研究が進められています〔高速増殖炉(Fast Breeder Reactor、FBR)と呼ばれる原子炉を用いますが、技術的に制御が難しいため(冷却材に熔融金属ナトリウム(融点98℃)を使用するなど)、実用炉は完成していません。商用を目指しているのは、日本とフランス以外に、ロシア・中国・インドなどの国があります〕注4。また、プルトニウムは核兵器(Nuclear Weapon)に使われやすいため(元素の種類が異なるので、他の元素から比較的分離し易いため)、ウラニウムと一緒にプルトニウムを原子炉で利用することも行われています〔MOX燃料(Mixed Oxide fuel)によるプルサーマル(Plutonium Thermal
Use−和製英語)と日本では呼ばれています〕。
核分裂の過程では、様々な放射性物質(フィッション・チェーンによる核分裂生成物⇒使用済核燃料放射能)が生成されます。これらが放射能(Radioactivity)を持ちますので、その始末に困っている訳です。放射性物質は、隔離して、半減期の経過によって放射能が低下するのを待つしかありません。世界では、地下深所に埋設する方法を選んでおり、日本も同様の方法を取ろうとしていますが、日本の場合は、地震(Earthquake)などの自然環境条件が厳しいことと、無人の地域は非常に限られることなどから、懸念されていますが、技術の研究は進行中です。
注4 高速増殖炉が完成して、ウラニウム238から核分裂を起こすプルトニウムをうまく生産できても、そのエネルギー資源としての量は石炭程度であるという見積りもあります。石炭(Coal)についての近年のピーク・オイル(Peak Oil)に倣ったピーク・コール(Peak Coal)の予測では、世界では2025年頃という見積りもあり、従来考えられていた程に長期的に利用できるものではないと言われています。従って、プルトニウムを生み出す原発も、永久に利用できる夢の発電とは言えなくなっています。また、現時点でのピーク・ウランは21世紀半ば頃と予想されています。
第7回 鉱物資源(総論)
鉱物資源(Mineral Resources)は地下資源でもあります。有用な資源となる元素(Element)を多く含む鉱物(Mineral)からなり、資源として利用できる岩石(Rock)を鉱石(Ore)と呼びます。その鉱石を構成する有用な鉱物は鉱石鉱物(Ore Mineral)です。鉱石は異常な岩石とも言えます。ある程度の鉱石が濃集(Concentrate)している場所は鉱床(Ore
Deposit、Mineral Deposit)と呼ばれ、そこを企業等が開発すれば鉱山(Mine)と呼ばれます。
鉱物資源は2つに分けることができます。1つは、目的の単一の元素からなる物質〔多くの場合は金属(Metal)〕にまで分離して利用する金属鉱物資源(Metallic Mineral Resources)です。もう1つは、そこまで分離せずに利用する非金属鉱物資源(Non-metallic Mineral Resources)です。これは工業用原料等に用いられることが多いために工業鉱物資源(Industrial Mineral Resources)と呼ばれることもあります。ここには、土石資源(Stone Resources)も含めます。従って、鉱床(Ore
Deposit、Mineral Deposit)や鉱山についても、金属鉱床(鉱山)とか非金属鉱床(鉱床)と呼ぶこともよくあります。
鉱床となるためには、ある特定の元素が濃集する必要がありますが、それぞれの鉱床はそれらの濃集のための条件が異なることが多く、地球史の中で、地球環境条件の変動に応じて一般的に特定の濃集時期というものを示します。つまり、鉱床の生成は地球史(Earth History)における地質(Geology)の発達と変遷に大きく関連しています。
特に金属鉱物資源では、特定の元素の濃集のしかたがその埋蔵量(Reserve)と関連しています。一般的に、ある元素は地殻(Crust)中にある濃度で存在します。それは元素の地殻存在度(Crustal
Abundance)と呼ばれます。対象とする地殻の量が判れば、そこに含まれるある元素の全量を推定できます。これは分散している量ですので、埋蔵量ではありません。従って、分散せずに濃集している量を何らかの方法で仮定できれば、埋蔵量に匹敵する量を推定できることになります。この場合、資源量(Resource)と呼ぶこともあるのですが、ここでは究極埋蔵量(Ultimate
Reserve)に近似できる量としておきます。エネルギー資源と違って、金属鉱物資源の場合には、このような方法で究極埋蔵量を予想することも可能です。
日本は、現在では国内の鉱物資源に不足しています。金属鉱山では商業的なものは1つだけです〔菱刈(ひしかり)鉱山:金〕。非金属鉱山はかなりあります〔大きなものは石灰石(鉱石名:岩石名は石灰岩(Limestone))の場合が多い〕。従って、多くの鉱物資源を輸入しています。国内の鉱床だけでなく外国の鉱床の開発のための様々な施策を行っています。
また、陸上だけでなく、海底の将来の鉱物資源についても研究が行われています。特に、海底3大鉱物資源とみなされているのは、マンガン団塊〔Manganese Nodule:深海底(Seabed、Seafloor、Ocean
Floor)に存在:マンガンと鉄の水酸化鉱物に微量の重金属類が伴います〕とコバルト・リッチ・クラスト〔Cobalt rich Crust:海山(Seamount)斜面などに存在:マンガン団塊に似るが、少しだけコバルトに富み、皮殻状の形態であるため、このように命名されています〕と海底熱水鉱床〔Sea Floor Hydrothermal Ore Deposit:海嶺(Ridge)周辺などに存在:銅(Copper)・亜鉛(Zinc)・鉛(Lead)の硫化鉱物(Sulfide Mineral)に微量の重金属類を含む鉱物が伴います〕です。日本付近には、コバルト・リッチ・クラストと海底熱水鉱床が分布しますので、その調査研究が行われています。
第8回 金属鉱物資源
金属鉱物資源(Metallic Mineral Resources)とは、目的の単一の元素(Element)からなる物質〔多くは金属(Metal)〕にまで分離して利用する鉱物資源のことです。鉄(Iron)・アルミニウム(Aluminium)・銅(Copper)・亜鉛(Zinc)・鉛(Lead)のように比較的消費量の多いベースメタル(Base
Metal)、およびその他の比較的消費量の少ないレアメタル(Rare
Metal)に分けることができます。また、金(Gold)・銀(Silver)などは貴金属(Precious Metal、Noble
Metal)として別に分けられることが普通です。これらの定義は固定されたものではないので注意が必要です。
枯渇性資源(Exhaustible Resource、Non-renewable
Resource)については可採年数(R/P Ratio、耐用年数)によって利用できる年数の予想がされていますが、(確認可採)埋蔵量(Reserve)/(年間)生産量(Product)のような定義は静態的可採年数と呼ぶことがあります。他に、ある仮定の下で埋蔵量や生産量を変数とする方法もあります。よく使われるのは生産量を変数とするやり方です。例えば、生産量が年々増加している場合に、その増加率を加味した生産量を用いる方法です。その場合に、増加率を指数関数(Exponential Function)とすれば、指数関数的可採年数と呼べる訳です。
また、世界の埋蔵量(Reserve)を推定する方法も研究されてきました。1960年頃に米国のマッケルヴィ(MacKelvey)は米国における様々な金属鉱床の埋蔵量と、それらの金属元素の地殻存在度(Crustal Abundances)との関係を調べ、世界の埋蔵量を推定する方法を示唆しました。
さらに、1980年頃に立見(たつみ)は、元素の地殻存在度から計算できる存在量に対して濃集率を考慮することで、埋蔵量を推定する方法を示しました。濃集率は鉱化度(Mineralization Factor)と名付けられています。つまり、世界各地の金属鉱床の埋蔵量などのデータを、地殻存在度から計算できる量と比較することで、一般的な濃集率を求める方法です。彼は、地質(Geology)別(非常に古い時代と新しい時代など)および鉱種(Ore)別〔元素(Element)別〕に鉱化度を求め、最終的には全体を1つの近似式で表現できることを示しました。これを用いれば、究極埋蔵量(Ultimate Reserve)に匹敵する量も推定できます。また、鉱化度の値を求める研究過程で、地質別に埋蔵量の差はあるものの、ある範囲内にそれは収まることも明らかにしています。
第9回 非金属鉱物資源
ここでは、鉱物資源のうちで金属鉱物資源以外を非金属鉱物資源(Non-metallic
Mineral Resources)と呼びます。工業原料資源とも呼ばれますが、ここでは、その他の石材や骨材などの土石資源も含めます。金属鉱物資源に比べると、重量が相対的に大きくて価格も安いものが多いことが特徴です。従って、輸送費などを考慮すると、国産のものに競争力があります。幸いに、非金属鉱物資源に属する鉱物は、一般的に成因(Genesis)は普通のものが多く〔つまり、普通の岩石(Rock)として産出する場合が多い〕、国内の需要を賄える程度に存在するものが多いのです。
非金属鉱物資源を比較する場合は、価格の違いが非常に大きいものがありますので、重量ではなくて生産金額〔鉱物資源は一般に、品位(Ore Grade)によって価格が大きく変わるため、生産時の価格で比較することが多い〕に拠るのが便利です。日本の場合、圧倒的に多いのは石灰石〔鉱石名:岩石名は石灰岩(Limestone)であり、鉱物としては方解石(Calcite、CaCO3)がほとんどです〕です。主にセメント〔Cement:石灰石に粘土(Clay)などを加え、粉砕して焼成したもの:水と骨材(こつざい、Aggregate:砂利や砂など)を加えて硬化させ、コンクリート(Concrete)として利用されます〕の原料(Raw Material)として使われています。この他では、ガラス(Glass)用の珪石(Silica Stone)・珪砂〔Silica Sand:主に石英(Quartz、SiO2)からなる〕や、陶磁器(Porcelain)用の粘土(Clay)などが代表的です。
第10回 生物資源
生物資源(Biotic Resources)は、食料としての食糧資源(Food Resources)と原材料(Raw Material)としての森林資源(Wood Resources)との2つに分けることができます。現在は、天然からのものだけでは需要を満たすことができないため、養殖(Aquaculture:水産物、Seafood:漁業、Fishery)や栽培(Cultivation:農産物、Crop:農業、Agriculture)や飼育(Breeding:畜産物:畜産業、Animal Husbandry、Livestock Industry、Stockbreeding)や植林(Afforestation:林産物:林業、Forestry)などを行って、人工的に管理する場合が多くなっています。
現在の地球上に生息する生物種(Species)の数は200万種程度です。ただし、研究が十分にされていないけれども(特に熱帯林地域などに)この数10倍の種が存在するとも言われています。動物(Animal)の中の昆虫類(Insect)が圧倒的に多いのですが、次に植物(Plant)類にも多くの種が含まれます。
天然における生物の量(生体量、バイオマス量、Biomas)を考える場合に、主に太陽光(Sunlight)からのエネルギーといくつかの無機物質を利用する生物の量は一次生産量(Gross Primary Production、GPP)と呼ばれ、もっとも重要な量です。具体的には光合成〔Photosynthesis:太陽エネルギーを利用して、二酸化炭素と水から生物体に必要な炭水化物(Carbohydrate)等を合成し、酸素ガスを排出する:単純化して示せば、CO2+H2O→CH2O+O2〕を行う植物が代表です。この他にも、無機的に生物体を合成できる生物が存在しますが、量的には植物だけで近似できます。植物の場合、呼吸(Respiration)によって光合成と逆の反応も行っていますので、光合成量から呼吸量を除いた量は純一次生産量(Net Primary Production、NPP)と呼ばれます。森林(Forest)を形成するような樹木(Tree)に属する植物によるものが最も多く、特に熱帯林(Tropical
Forest)と北方林(Boreal Forest)として存在するものが代表です。一方、この一次生産物を利用して生物体を合成するものの代表が動物ですが、このように生物によって合成された有機化合物を利用する生物による生産量は二次生産量(Secondary Production)と呼ばれます。こちらも動物以外の生物は存在しますが、量的には動物だけで近似できます。バイオマス量としては、現在では人が飼育している動物量〔主に家畜(Livestock):その中で牛(Cattle)が最大:なお、動物で次に多いのは人(Human)です〕が最も多くなっています。
天然の生物は、5界説(Five-Kingdom System Theory)による動物(Animal)・植物(Plant)・菌類(Fungus)・原生生物(Protist)・モネラ(Monera)の5つに分けるのが便利です。地表では上記のように植物のバイオマス量が圧倒的に多く、次は動物です。人は、これらの生物を資源として利用しているのですが、森林資源としては植物が、食糧資源としては植物と動物が利用されています。これらは、地下資源のような枯渇性資源ではなく、非枯渇性(Non-exhaustible)資源です。しかし、近年は再生可能な(Renewable)速さを超えて消費されるようになってきたため、需要(Demand)を満たせない場合も生じてきています。人にとって必須なのは食糧資源の方であり、人に必要な最低限以上の栄養(Nutrition)を賄える量を供給できれば良い訳ですので、食糧資源が絶対的に枯渇する段階には達していません。しかし、配分の問題(大部分は市場を経由して分配されるため経済力の差が問題を生じます)や高栄養食への偏り(例えば、肉食の場合、家畜用穀物量は穀物食の場合の穀物量と比べて数倍も必要となります)などで、世界的には不足が生じている国が多くあります。
人にとって不可欠の食糧資源(主食)は植物の穀物(Cereal)類です。現在の地球上での土地利用は、森林が約3分の1、草地(農地も含む)が約3分の1、不毛地(砂漠など)が残りの3分の1です。今後も不毛地の有効利用は困難ですので、穀物等のための農地を増やすには森林を減らすしかありません。かって緑の革命(Green Revolution)によって、農地を増やさずにその生産量を増やせた〔肥料(Fertilizer)と農薬(Pesticide)によって〕時代がありましたが、今後はそれもあまり期待できません〔遺伝子組換え(Genetic Modification/Manipulation)技術などの利用も行われていますが〕。
食糧資源の場合に特に問題にされるのは自給率(Rate of Self-Sufficiency)です。エネルギー資源などの他の資源でも同様の問題はあるのですが、食糧資源ほどではありません。恐らく、短時間に人が生み出せるのは生物に限られるため、逆に言えば、自給の可能性が残されているからでしょう。エネルギー資源の場合、化石燃料(Fossil Fuels)を最も多く利用していますが、日本でこれらを作ることはできません。やれることは、代替エネルギー(Alternative Energy)の比率を増やすことでしょう。食糧資源の場合、その主体となる穀物の自給率は、近年は4割程度です。こちらの場合は、必ずしも代替ではない方法もとれる可能性が多いでしょう。ただし、現代の世界的な経済システムの上で、自給率にこだわる必要はないという考え方もあります。
食糧資源の中の主食の位置を占める穀物に注目すると、世界的には3大穀物(Cereal)が重要です。小麦(Wheat)・米(Oryza Sativa、Rice)・トウモロコシ(Maize)ですが、生産量はほぼ同じであり、これ以外の穀物は少量です。
食の3大栄養素(Macronutrients)である炭水化物(Carbohydrate)・タンパク質(Protein)・脂肪(Fat)に対して、主食(Staple Food)の穀物は炭水化物を提供しますが、残りは動物源の食糧資源に多くを頼ることになります。世界的には、水産物が主流です。水産物の場合(特に海洋)は天然産の比重が大きくなります(漁業総生産量の約3分の1が養殖)。天然産食糧資源の世界的な管理は難しく(政治的に)、枯渇が心配されています。
生物資源の場合は、人による管理であっても、自然環境条件により強い影響を受けます。近年に激化してきている地球環境問題(Global Environmental Issues)の様々な影響によって、生物資源量の低減化が進みつつあり、世界的に懸念されています。
第11回 水資源
地表に存在する水(Water)は、大部分(約97%)が海水(Seawater、Saltwater)であり、残りのわずか3%弱が陸水(Inland Waters)で、その大部分は淡水(Freshwater)です。しかもその3分の2が氷として極地域(Polar Region)に氷河(Glacier:氷床、Ice
Sheet)として分布しています。残りの3分の1の多くは地下水(Groundwater:全体の約0.7%)であり、湖沼水(Lakes Water)や河川水(River Water)は僅かです(これらの合計は全体の約0.01%以下)。一方、これらの水が循環(Cycle)する速さは、平均滞留時間(Average Residence Time)で示すと、海水は3000年以上、氷河は9000年以上、地下水は平均600年程度、湖沼水は数年〜10数年、河川水は1月程度となります。日本では、水資源(Water Resource)として氷河を用いることはできませんので、主に地下水と湖沼水〔人工的なダム(Dam)水などを含む〕と河川水を利用しています。平均滞留時間から判るように、地下水は枯渇性(Exhaustible)の資源です。河川水の水量は非常に少ないのですが、1月程度で更新されますので、非枯渇性(Non-exhaustible)資源とみなせます。
基本的には、大気中水蒸気(Atmospheric Moisture、Atmospheric Vapors)→降水(Precipitation)→地表水(または表層水、Surface
Water)→地下へ浸透すれば地下水(Groundwater)→地表を流れれば河川水(River Water)→地表の凹地に溜まれば湖沼水(Lakes
Water)→海洋水(Seawater:最終的に)→蒸発(Evaporation)によって大気中水蒸気、のような水循環(Water
Cycle)が成立していますので、陸上では河川を中心とした河川系(River
System)における河川水・湖沼水・地下水を水資源として利用しています。
河川水の量は、降水量(Precipitation)と蒸発量〔Evaporation:植物を通じた蒸散(Transpiration)も含めて蒸発散(Evapotranspiration)と言うことがあります〕の差によって決まります。降水量は世界平均で1メートル/年以下であり、日本では1.5メートル/年を超えていますが、人口(Population)が多いために、一人当りの利用可能な量としては多い訳ではありません。日本では、農業用水(Agriculture Use)としての利用が圧倒的に多く、次いで工業用水そして生活用水の順です。日本は膨大な生物資源を輸入していますが、それらの生物は生産国で水を必要としているはずですので、そのような隠れた水の量をバーチャル・ウォーター(Virtual water、仮想水)注5として計算すると、日本国内で利用している水の量に匹敵すると言われています。つまり、もし輸入に頼らずに、日本国内で生産できたとしても、そのために膨大な水が必要となり、おそらく日本は水資源が大きく不足することになると推定されています。
世界的には、降水量よりも蒸発量が多い国もありますので、それらの国では水資源の確保は非常に大きな問題となっています。また、大陸において複数の国を跨いで流れる河川の場合には、その水の分配方法が問題になります。例えば、上流側にある国が過剰に水を利用すれば、下流側の国では不足します。その際に、国間の調整が失敗すれば水紛争(Water Conflict:水戦争、Water Wars)が起こる可能性が大です。このような河川水の利用が制限されれば、地下水の利用が促進されます。上記のように、大部分の地下水は枯渇性ですので、利用できる量は限られていますし、地盤沈下(Subsidence)や水質汚濁(Water Pollution)などの環境問題(Environmental Issues)も発生する頻度が高くなります。
注5 鉱物資源などを利用する場合に、目的の物質以外の物質も同時に採掘や選鉱などの処理を行わなければなりませんが、そのような目的外の物質による負荷を『エコロジカル・リュックサック(Ecological Rucksack:略してエコリュックサック)』と呼ぶことがあります。例えば、金は、10ppm(=0.001%)も含まれていれば、経済的に開発できますが、その場合には残りの不用な99.999%の物質(石英などの他の鉱物)も処理しなければならず、それらによる負荷の方が大きくなります。つまり、隠れた物質による影響も考える必要がある訳ですが、水資源におけるバーチャル・ウォーターも、一種のエコロジカル・リュックサックとして捉えることができます。
第12回 土壌資源
土壌(Soil)は植物(Plant)の生育(Growth)にとって不可欠です。土壌資源(Soil
Resource)と言っても、農業(Agriculture)と林業(Forestry)以外ではあまり重要視されていないようです。しかし、地下水(Groundwater)や河川水(River Water)の汚染(Pollution)問題とは密接に関連しており、環境問題(Environmental Issues)においては全般的に重要視されています。
土壌は、地表付近の岩石(Rock)が風化作用(Weathering)と土壌生成(Pedogenic、Soil-forming)作用(土壌化作用)を受けて形成されます。具体的には、岩石を構成する鉱物(Mineral)が、大気中の酸素ガス(O2)や二酸化炭素(CO2)を溶解した水(H2O)によって溶解されたり分解されたりして、2次的に粘土鉱物(Clay Mineral)や水酸化鉱物(Hydroxide Mineral)を生成し、さらに、特に植物から有機物(Organic Matter)の供給を受けて形成されます。植物などの生物(Organism)の関与は必須であり、逆に言えば、生物が存在しないと形成されませんので、土壌は地球(Earth)にしか存在しません。
土壌は、固体(Solid)・液体(Liquid:土壌溶液、Soil
Solution)・気体(Gas:土壌空気、Soil Atmosphere)から構成されますが、固体部分が特徴的です。原料である岩石を構成した鉱物の1部は残りますが、それは一次鉱物(Primary Mineral)と呼ばれ、石英および長石の1部が主なものです。2次的に生成した粘土鉱物(Clay Mineral)および鉄の水酸化鉱物(Iron
Hydroxide)は2次鉱物(Secondary Mineral)と呼ばれるのですが、これらが土壌を代表する鉱物です。特に粘土鉱物が最も重要です。これ以外では主に植物源の腐植(Humus)も主要な構成物質です。
土壌の特徴は、粘土(Clay)のように粘性(粘度、Viscosity)や可塑性(塑性、Plasticity)の性質が強いことと、構成粒子の大きさが非常に小さいことです。
粘土鉱物は、いわゆる粘土を構成するような鉱物であり、具体的にはケイ酸塩鉱物(Silicate
Mineral)の中の層状(フィロ)ケイ酸塩鉱物〔Sheets
(Phyllo-) Silicates〕グループのものが圧倒的に多くなっています。これらは、地表の低温と低圧条件下で形成されますので、非常に細粒(Fine)です(一般に粒径が0.002ミリメートル以下を粘土と呼ぶことが多い)。粘土鉱物には様々な性質を持つものが含まれますが、これは土壌の生成条件によって変化します。
世界には、非常に多種類の土壌が分布しています。平均的には厚さは1メートル以下程度(狭義の土壌)と推定されます。一般に、土壌を分類(Classification)する場合には深さ方向の変化を土壌断面(Soil Profile)として表現します。最表層に(生物由来の)腐植などの層があればO(Organicから)層(O-horizon)と呼び、元々岩石のあった部分は、上からA層(A-horizon)・B層(B-horizon)・C層(C-horizon)と呼び、新鮮な岩石層はR(Rockから)層(R-horizon)と呼びます。A層は、岩石由来の無機物質(Inorganic
Material)と生物由来の有機物質(Organic Material)とが混在する部分であり、B層はA層から移動した物質も含めて有機物質も混在する部分です。これらのO層・A層・B層の部分を狭義の土壌と呼びます。C層は、主に風化作用(Weathering)を受けていますが、生物由来の物質は存在しない層です。広義の土壌にはC層を含めますが、B層とC層、C層とD層の境界は不明瞭な場合も多いため、現実的には広義と狭義の土壌の定義は明確には区別できない場合も多いようです。
このような土壌の分類では、米国が最も早く自国の土壌分類を総合的に行いましたが(Soil Taxonomy)、国連では世界的な分類を行っています(FAO/UNESCO分類)。日本でも日本土壌の分類を行っているのですが、農地(Arable
Land)と林地(Forest)では異なっています。現在は、これらを統一する試みが行われています。
土壌の機能(Functions)として代表的なものは、上記したような植物生産機能の他、水質浄化機能および貯水・透水機能などがあります。
第13回 資源と環境
現在、地球温暖化(Global Warming)を典型例とする地球環境問題(Global Environmental Issues)が世界的にも悪化しています。このような環境問題は、資源(Resource)の消費(Consumption)と連動しています。人間社会(Human Society)に必要な資源の消費(生産等のすべての過程を含む)に伴って排出される廃棄物(Waste)が自然界へ放出され、自然界(Nature)の浄化能力を超えると、ブーメラン(Boomerang)のように人間社会へ悪影響を及ぼす訳ですが、それが環境問題です。地球規模であれば地球環境問題と呼ばれます。つまり、自然界に対して、人間社会の入口側(Input)に資源があり、出口側(Output)に廃棄物があり、それぞれの問題を抱えていますが、資源と廃棄物は裏表の関係なのです。従って、資源側の問題〔主に枯渇(Depletion)や不足(Lack、Shortage、Scarcity)の問題〕と廃棄物側の問題(主に環境問題)を同時に考える必要があります。
これらは、根本的な原因は共通しています。それは人口増大(Overpopulation)と経済成長(Economic Growth)です。2011年の世界人口は約70億人ですが、1950年頃は25億人程度でした。2050年頃には100億人程度に増えることが予想されています。このような人口増加とともに1人当りの資源消費量(Resource Consumption Per Capita)も激増しています。例えば、化石燃料(Fossil Fuel)の石油(Oil)は、21世紀中には不足すると予想されており、資源問題としても重要なのですが、その消費に伴う温室効果ガスの排出(Greenhouse Gas Emission)による地球環境問題の悪化も懸念されていますので、環境問題としても重要です。これらに共通する対策はあります。1つは、環境問題を起こし難い代替燃料(Alternative Fuel)の開発というような技術的なものであり、もう1つは、消費自体を減らすようなライフスタイルの改革を伴う社会的なものです(リサイクルなどのように、これらの中間に位置付けられるものもあるので、あくまでも簡略化すればの話です)。
おそらく、資源問題(Resource Depletion)も環境問題(Environmental Threats、Environmental Issues、Environmental
Problems)も、どのような対策を実行できるかどうかの真価が問われる時期は、21世紀中であると予想されます。
【エネルギー消費と地球温暖化問題】
気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention
on Climate Change、UNFCCC)の京都議定書(Kyoto
Protocol)の約束に従い、日本は温室効果ガス排出量を条約事務局に報告していますが〔NIR(National
Inventory Report、国別温室効果ガスインベントリ報告書)とCRF(Common Reporting
Format、共通報告様式)の提出〕、その主要な温室効果ガスの二酸化炭素排出量は主に化石燃料の消費によるものですので、日本におけるエネルギー消費の動態の結果をエネルギーバランス表の形で集約した『総合エネルギー統計』を利用して算定されています。その他の温室効果ガスおよび排出源も含めて、これらの算定は環境省に関連する独立行政法人国立環境研究所で行なわれ、その結果はウェブ(温室効果ガスインベントリオフィス:世界はGreenhouse Gas Inventory Data)で公開されています。
日本では別途に、地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)に基づき、相当程度多く排出する者(特定排出者)に対しては、温室効果ガス排出量の報告が義務づけられています(温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度について)。消費は産業・民生・運輸の3大部門に分けられ、そのうちの産業からの排出量の大部分はこの制度で把握されるようですが、全体としては半分程度です。つまり、民生や運輸の消費者の主要部分は個人が占めており、個人に対する法規制はなされていないために、現在の法規制では実態を把握できません。
また、温室効果ガスの排出量を取引することで、経済的な側面から全体としての排出量を抑制する制度が設けられてきています(国内排出量取引制度)。
第14回 将来の資源
世界的に将来の資源(Future Resources:少なくとも21世紀の間程度)として期待されているものについて、簡単に説明します。
エネルギー資源(Energy Resource)では、まず、非在来型(Non-conventional)の化石燃料(Fossil
Fuels)です。例えば、オイルシェール(Oil Shale)やオイルサンド(Oil Sand)については一部の生産が既に行われていますが、大部分の開発は今後に残されています。その量は在来型のものに匹敵するかそれ以上とされています。ただし、石炭(Coal)と同じような採掘方法が必要であるし、品質も在来型に比べて低下しますので、経済性が問題です。メタンハイドレート(Methane Hydrate)は、期待する人もいますが、私は環境問題(Environmental
Issue)がネックとなり、大規模な開発には至らないと思っています。
次は新エネルギー(New Energy Resources)等です。その多くは現在も既に利用されていますが、その中で将来に利用量が劇的に増加する可能性があるのは、太陽光発電〔Photovoltaics:と風力発電(Wind Power)〕でしょう〔宇宙太陽光発電(Space-based Solar Power)については私は否定的です〕。利用形態の新エネルギーとしては燃料電池(Fuel Cell)が期待できます。
また、高速増殖炉(Breeder Reactor)によるプルトニウム(Plutonium)の核分裂(Nuclear Fission)を用いた原子力発電(Nuclear Power)は、技術的問題と安全性の問題が何らかの形でクリアされれば、利用される可能性はあります。一方、核融合(Nuclear Fusion)を用いた原子力発電を、遠い将来のエネルギーとして期待する人はいますが、私は少なくとも21世紀中では可能性は無いと思っています。
鉱物資源(Mineral Resource)では、おそらく陸上の資源の利用が続き、海洋底(Seabed)の3大鉱物資源を利用する可能性は少ないと思っています。廃棄物(Waste)の再利用〔Reduce+Reuse+Recycling(3R)→Waste hierarchy〕がどこまで進むかは予測できません。もし、上手くいけば、『都市鉱山(Urban Mine)』の開発が進む可能性は残されています。
生物資源(Biotic Resource)・水資源(Water Resource)・土壌資源(Soil
Resource)については、新しい将来の資源の候補は思い当たりません。SF(Science
Fiction)的には、遺伝子操作(Genetic Modification/Manipulation)で必要な条件を備えた生物を新造することも考えられますが、現状からは現実的に予想できません。また、水資源は石油のようにパイプライン等によって売買するとか、運河によって不足地へ運ぶとか、極地の氷を利用するとかは実際に計画されたことがあります(一部の計画は今も存在する)。土壌の場合も部分的には売買されています。しかし、このような利用の仕方は将来の資源とは言えないでしょう。
付 ピーク資源および再生可能エネルギー
『ピーク・オイル(Peak Oil)』とは、米国の石油地質学者のHubbert(ハバート)が1950〜1970年代に米国の石油生産のピーク年を推定した方法を用いて、世界の石油生産のピーク年を求めるとそれが近い将来に訪れる可能性が高いことを示したモデルですが、重要なのは、それに伴うことが予想される甚大な社会・経済的な被害を生むであろう影響を軽減するための準備を早急に行うように訴えていることです。枯渇ではなく生産のピークと言っていることに注意する必要があります。両者は異なります。同様な手法で、枯渇性資源の年間生産量のピークが推定されていますが、ここでは『ピーク資源』と呼んでおきます。石油以外の化石燃料である石炭および天然ガス、ならびにウラン、および金属鉱物資源のいくつかについて詳しく検討されています。
地球環境問題ならびに在来型資源の枯渇問題に対応して、環境に対してクリーンであり持続可能でもあるエネルギー資源が求められており、そのような再生可能エネルギー資源の例として、太陽光発電・風力発電・バイオマスエネルギーが注目されています。