『1.LCAって、一体、何でしょう?
製品*1の持つ環境負荷あるいは環境への影響度を評価する手法として、ライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment:以下、LCAと表記)が国際的に注目を浴びています。
*1 LCAにおける「製品」の意味は特に重要で、その内容にはハード的な「製品」自体と同時に「サービス」も含めて考えます。また、具体的な「もの」としてよりも、ある機能を実現する「システム」としてとらえられています。
製品の環境対応を分かりやすくする評価手法としては、日本では既に家電や事務機器に対する「製品アセスメント*2」があり、業界が自主的にこれを採用し、多くのメーカーが新製品の社内の環境性評価ツールとして導入しています。包装材料のリサイクルしやすさ、廃棄処理時分別・分解しやすさなど、製品の環境対応を評価する様々な手法が試みられています。
*2 LCAに先んじて、電機電子業界や事務機器業界では「製品アセスメント」を製品の環境負荷を評価し改善する手法として導入・運用しています。「製品アセスメント」では、製品ごとに設定された評価対象項目(例:消費電力量、製品重量、容積、解体性など)を、設定された基準値、あるいは基準製品に対して対照比較して評価します。この場合、評価が容易であり、設計者に対して明確な改善指標として示すことができます。しかし、一方では環境負荷との直接的な関連が見えにくい点があります。これに対して、LCAでは製品の環境負荷や影響が直接的に定量評価することができます。しかし、現状ではLCA実施には、多くの労力を要します。
製品アセスメントとLCAは一長一短で、当面、製品あるいは製品の評価対照によって、これらをうまく使い分けて実効的な環境影響評価をするのが賢明のように思えます。
このように、手法がいろいろ工夫されていますが、近年ではLCAが製品の環境負荷を評価する国際的に共通な手法として、確固たる地位を築きつつあります。なぜ、いま、LCAが話題になっているのか、ここではLCAの紹介とその実施内容の概要を説明しながら、その原因を少し探ってみます。このことが、本書の読者に「LCAとは何か」をできるだけ正確に理解していただく助けになればと考えます。
さて、これまでの国際的な合意の中でつくられてきた概念として、ちょっと小難しい表現ですが、まずは「LCAとは何か」の定義を示しておきます。
LCAとは:原材料調達から設計・製造、使用、リサイクル、そして最終的な廃棄処分(製品のライフサイクル)にわたって、製品の使用する資源やエネルギーと、製品が排出する環境負荷を定量的に推定・評価し、さらに製品の潜在的な*3環境影響を評価する手法である。
*3 LCAでは、実際に発生している環境影響だけではなく、起こり得る環境影響も含めて評価することを意図しています。ここでは、「環境影響の起こり得る可能性」お意味を含めて「潜在的な」という表現を用いています。
このLCAの定義は、LCAの概念を単純かつ明快に示しており、多くの人には「LCAとは何か」がスーっと頭に入った気になるかもしれません。しかし、LCAの理解に関して、様々な誤解、曲解、偏見がなされている(これらの印象はあくまでも著者の個人的な印象かもしれませんが…)としたら、おそらく、その多くは、このLCAの定義あるいは概念そのものの「単純・明快さ」に帰因するところが大きいのではないでしょうか?
ある人は、初めて、このLCAの定義に触れて、「製品のゆりかごから墓場までが全部分かるなんて、なんて素晴らしい手法なんだろう!」と思うかもしれません。
その結果、LCAを環境性評価のための「万能の手法」として、LCAに過度の期待をしてしまう方がいます(LCAが日本に普及し始めた初期には、そのような場合が多数ありました)。
他方、別のある人は、LCAを実際にやろうとすると、具体的にどうやってデータを取ればいいんだろう、データがないものはどうするんだろうと、途端に、途方に暮れることになりかねません。さらに、環境影響評価に至っては、現状ではその手法さえ確立されていません。そんな状況に直面し続けると、初めの大きな期待に反して、逆に「LCAなんかは、手法も確立されていないし、分からないところも多くて、製品の環境影響評価にはとても使えない」という反感に転化する人も出てきます(恋い焦がれて、プロポーズしたい相手なのに、なかなか近づけず、また気づいてももらえず、逆に憎しみがわいてくる感情に似ているかもしれません!)。どちらの印象も、極端に言えばLCAを正しく理解していないことからくる思い込みのように思えます。
LCAとは、従来から言われ続けているように、「単なる手法」であって、それ自体に無から有を生み出すような能力を持ったものではありません。「単なる手法」ですから、要は「使い方」の問題で、高い価値ある情報を得ることもあれば、全く無意味なデータしか得られない場合も出てきます。LCAは単なる手法にすぎず、使い方によってどのような結果でも引き出せるという当たり前の理解、これが実際にはなかなか難しいことだと思います。
さて、実際に、LCA調査を実施する場合には、一般的に図1.1に示すような流れで作業が進められます。図1.1に沿って、各項目を簡単に説明します。
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結 果 の 解 釈 |
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