環境庁企画調整局企画調整課(編著)(1994)による〔『環境基本法の解説』(188-190p)から〕


『環境基本法』第15条の解説
  第二節 環境基本計画
第十五条
 政府は、環境の保全に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、環境の保全に関する基本的な計画(以下「環境基本計画」という。)を定めなければならない。
 環境基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
  環境の保全に関する総合的かつ長期的な施策の大綱
  前号に掲げるもののほか、環境の保全に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項
 内閣総理大臣は、中央環境審議会の意見を聴いて、環境基本計画の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。
 内閣総理大臣は、前項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、環境基本計画を公表しなければならない。
 前二項の規定は、環境基本計画の変更について準用する。

1 「政府」
 本条は、プログラム規定がその大勢を占める本法の中で、環境基準や公害防止計画と並ぶ実体規定として直接の法律的効果を有するものの一つである。本法については、このような実体規定については、その実施の主体を明らかにするために、「国」ではなく、「政府」として規定している。
2 「環境の保全に関する総合的かつ長期的な施策の大綱」
 本条では、環境基本計画に定める事項として、「環境の保全に関する総合的かつ長期的な施策の大綱」及び「環境の保全に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項」を挙げている。同様の規定としては、交通安全対策基本法第22条がある。
 「環境の保全に関する総合的かつ長期的な施策の大綱」としては、望ましい環境のあり方及び環境保全施策の基本的な方向を定めるものである。
 「総合的」とは、第1条及び第14条における意味と同様、政府としての環境保全施策を全体として、有機的連携を図りながら推進していくとともに、国以外の各主体の取組も含め、全体として促していくことを指している。
 「長期的」とは、今日の環境問題が中長期的観点から取り組むべき問題であることを踏まえ、長期的観点に立って施策の方向性を示すべきことを定めたものである。環境基本計画の計画期間については、計画そのものにおいて示されるものであるが、長期経済計画(計画期間は5年)や国土利用計画の全国計画(計画期間は10年)、全国総合開発計画(第4次計画は昭和62年策定、目標年次はおおむね平成12年)などを参考にしながら設定されることとなろう。ただし、環境問題には世代を越えた影響という要素もあることから、環境基本計画においては、計画自体の対象とする期間を越えて、より長期的な展望に立った検討が必要である。
 なお、先に述べたとおり、政府の計画たる環境基本計画は、政府自らが行う施策を定めるものであり、ここにおける「施策」とは、国の施策を指す。しかしながら、政府以外の主体の取組については、政府としてどのような取組を期待するか、こうした取組を促進するために政府がどのような施策を講ずるかといった視点で計画に盛り込まれることとなろう。
3 「必要な事項」
 環境基本計画の円滑な実施の推進を図るため、地方公共団体、事業者及び国民への期待を総論的に記述したり、計画進行管理や一定期間後の見直しなどのフォローアップに関する事項等を定めるもので、いわば留意事項的な内容を位置づけることとなる。
4 「内閣総理大臣」
 総理府の長としての内閣総理大臣である。なお、この内閣総理大臣の事務は、「環境基本法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」第23条の規定により改正された環境庁設置法第4条第5号の規定により、環境庁長官が補佐することとなっている。
5 「中央環境審議会」
 環境基本計画は、環境基本法に規定された基本政策ぞあり方を定めるものであり、環境保全に関する基本的な事項として、広く学識経験者の意見を求め、広い視野に立った多角的な面からの検討が必要である。こうしたことから、環境基本計画の案の作成に当たっては、内閣総理大臣の諮問により、中央環境審議会の意見を聴くこととしたものである。
6 「閣議の決定」
 環境基本計画は、政府各省庁における環境の保全に関する施策の基本的な方向を示すものとして策定されるものであり、その策定手続きとしては、内閣としての統一の意思決定を経ることが適当であること、及び政府における重要な施策の一分野について施策の基本を定めるものであるというその重要性にかんがみ、閣議の決定を経ることとしたものである。
7 「公表」
 基本計画の円滑な実施の推進を図るとともに、環境の保全に関する行動がすべての者の公平な役割分担の下に自主的かつ積極的に行われるようにする上で、これを公表し、地方公共団体、事業者及び国民の理解と協力を得ることが重要である。このため、環境基本計画については、閣議の決定があったときは、遅滞なく、これを公表することとしたものである。』