改訂に際して・目次
(173KB)
第1章 SNA推計の体系 (295KB)
第2章 コモディティ・フロー法 (313KB)
第3章 付加価値法 (355KB)
第4章 一般政府および対家計民間非営利団体関連項目の推計 (355KB)
第5章 海外勘定の推計 (179KB)
第6章 国内総生産(支出側)の推計 (281KB)
第7章 デフレーターと実質化 (284KB)
第8章 所得支出勘定の推計 (290KB)
第9章 資本調達勘定の推計 (225KB)
第10章 貸借対照表勘定及び調整勘定の推計 (329KB)
第11章 その他参考資料等の推計方法 (135KB)
<巻末>付表 (384KB)
内閣府経済社会総合研究所は、国際連合によって勧告された『1993 年改訂 国民経済計算の体系(93SNA)』に準拠して、国民経済計算の作成・公表を行っている。そうして作成された情報は、我が国の経済動向分析、政策の検討・立案、各種の調査研究のための基礎資料として幅広くご利用いただいている。
本書の初版は、平成12 年に我が国が93SNA に移行した際に、推計方法及び基礎統計を利用者に紹介する目的から作成したものである。今回の改訂では、その後の推計手法の変更などを反映させるなど、内容の見直しを行ったものである。
なお初版では、年次推計に重点を置きつつ速報推計についても言及してきたが、初版作成後に専ら速報の推計方法を扱った「四半期別GDP速報(QE)の推計方法」も公表し、さらには93SNA
導入に関して詳説した「我が国の93SNAへの移行について(暫定版)」も公表したことも鑑み、今回の改訂では特に年次推計に焦点を当てて推計方法を紹介することとした。
現在『国民経済計算』は53SNA、68SNA、93SNA を経て、SNA.Rev1 への移行が予定されている。このようなSNA
体系の変更に伴い、個別の勘定の表象や記録する概念の変更が予想されており、推計方法もより緻密なものへと進化し続けていくことが見込まれる。また『国民経済計算』は、本年の統計法改正によって基幹統計と位置付けられ、より一層重要な役割が期待されている。
こうした状況を踏まえれば、『国民経済計算』の概念や推計方法について一層周知に努めるとともに、『国民経済計算』を利用される方々との対話の充実が求められていると認識している。本書の内容はもとより、『国民経済計算』の作成全般に関して、利用者の皆様から忌憚のないご意見を頂戴できれば幸いである。
今後も利用者の皆様にお使い頂きやすいように、随時本書を充実させるべく引き続き努力して参りたい。
平成19 年10 月
内閣府経済社会総合研究所国民経済計算部長
大脇 広樹
改訂に際して
第1 章 SNA推計の体系 ....................................
1
1.年次推計の体系 ....................................................
1
2.QE推計の体系 ....................................................
5
3.改定の流れ ........................................................
6
第2 章 コモディティ・フロー法 ..............................
9
1.コモ法の概要 ......................................................
9
2.配分比率、運賃率、マージン率の推計 ................................ 12
3.商品別出荷額の推計 ................................................ 15
4.在庫増加額の推計 ..................................................
20
5.消費税の取扱い ....................................................
23
第3 章 付加価値法 ..........................................
25
1.付加価値法の概要 ..................................................
25
2.V 表の作成と産業別産出額の推計 ..................................... 31
3.U 表の作成と産業別中間投入額の推計 ................................. 32
4.産業別国内総生産及び構成項目の推計 ................................ 43
第4 章 一般政府および対家計民間非営利団体関連項目の推計 ..........
47
1.一般政府および政府サービス生産者関連項目の推計 .................... 47
2.対家計民間非営利団体および対家計民間非営利サービス生産者関連項目の推計 ................ 56
第5 章 海外勘定の推計 ......................................
61
1.基本的な考え方 ....................................................
61
2.推計方法 ...........................................................
61
第6 章 国内総生産(支出側)の推計 ..........................
65
1.民間最終消費支出 ..................................................
65
2.政府最終消費支出 ..................................................
66
3.国内総固定資本形成..................................................
68
4.在庫品増加..........................................................
73
5.財貨・サービスの輸出入.............................................. 75
第7 章 デフレーターと実質化 ................................
77
1.実質化の意味とデフレーター作成の基本的考え方 ...................... 77
2.実質化のための基本的価格指数の作成 ................................ 79
3.国内総生産(支出側)デフレーターと実質値 .......................... 83
4.国内総生産(生産側)デフレーターと実質値 .......................... 88
第8 章 所得支出勘定の推計 ....................................93
1.所得支出勘定の流れ ..................................................
93
2.所得の発生勘定/第1 次所得の配分勘定の推計 .......................... 95
3.所得の第2 次分配勘定の推計 ........................................ 105
4.現物所得の再分配勘定の推計 ........................................ 109
5.所得の使用勘定 ....................................................
109
第9 章 資本調達勘定の推計 .................................
111
1.実物取引 ..........................................................
111
2.金融取引 ..........................................................
116
3.純借入/純貸出と純借入/純貸出(資金過不足) ...................... 126
第10 章 貸借対照表勘定及び調整勘定の推計 ..................
127
1.評価の原則 ........................................................
127
2.各項目の推計方法 ..................................................
127
3.調整勘定 ..........................................................
141
4.参考 ..............................................................
144
第11 章 その他参考表等の推計方法 ..........................
147
1.経済活動別就業者数・雇用者数・労働時間 ............................ 147
2.実質所得 ..........................................................
147
<巻末>付 表 ...................................................
149
1.年次推計の体系
(1)推計の流れ
わが国における『国民経済計算(System of National Accounts, 以下SNA)』は、『国民経済計算年報』に整理されて広く利用されている。その基本的な流れは図1-1に示すとおりであり、以下の説明は同図に基づいている。
a.財貨・サービスのフロー
(a)財貨・サービスの供給及び需要
コモディティ・フロー法(以下コモ法と略称)を利用して推計する項目は、コモ8桁品目毎に求められる産出額、輸入、運輸・商業マージンであり、その合計として総供給額1が導かれる。次に同額を『産業連関表』を基に求めた配分比率により経済活動別分類2の産業の中間消費、家計最終消費支出、総固定資本形成、在庫品増加、輸出を需要項目に配分する。
このコモ8 桁ベースの品目は産業によって生産される商品に限られており、政府サービス生産者によるサービスの産出と需要先別配分(中間消費、家計最終消費支出、政府最終消費支出)、および対家計民間非営利サービス生産者によるサービスの産出と需要先別配分(中間消費、家計最終消費支出、対家計民間非営利団体最終消費支出)については各々財政推計、対家計民間非営利推計によって推計する。財貨・サービスの供給及び需要は『国民経済計算年報』において付表1として表章されている。コモ法は、第2章で説明する。
図1−1 SNA推計のフロー図 内閣府経済社会総合研究所によるSNA推計手法解説書(平成19年改訂版)から |
(b)国内総生産(支出側)3
以上の推計によって得られた家計最終消費支出4、対家計民間非営利団体最終消費支出、政府最終消費支出、総固定資本形成、在庫品増加、輸出−輸入の合計が国内総生産(支出側)になるが、輸出・輸入に関しては『国際収支統計』(財務省・日本銀行)を組替える海外推計により別途推計する。
なお、国内総生産(支出側)は『国民経済計算年報』の統合勘定1 や主要系列表1として公表される。国内総生産(支出側)の推計の流れは主として第4章、第5章、第6章などで取り上げる。
(c)国内総生産(生産側)・国内総生産(分配側)
産出額は、付加価値法に基づく推計により、コモ8 桁ベースの品目の産出額をコントロール・トータルとする経済活動別財貨・サービス産出表(V
表)において83経済活動分類毎に推計される。この経済活動別財貨・サービス産出表(V 表)は、産出された財・サービスは、企業・政府などの中間投入部分を除いて市場に供給されることを示している。また、中間投入額は経済活動別財貨・サービス投入表(U
表)から推計される。このようにして、産出額から中間投入額を差引くことにより経済活動別の付加価値を推計し、その合計額として国内総生産(生産側)を求める推計方法は付加価値法と呼ばれている。
付加価値の構成項目(雇用者報酬、固定資本減耗、生産・輸入品に課される税、補助金、営業余剰・混合所得)は経済活動別に推計される。付加価値法推計の対象とする範囲はコモ法同様、産業に限られており、政府サービス生産者および対家計民間非営利サービス生産者の産出額、中間投入額、付加価値額およびその構成項目は各々財政推計、対家計民間非営利推計によって推計される。
産業、政府サービス生産者、対家計民間非営利サービス生産者の付加価値を合計すると国内総生産(生産側)5になる。
『国民経済計算年報』ではV 表は付表4、U 表は付表5、付加価値法で積み上げた構成額は統合勘定1、国内総生産(生産側)は主要系列表3及び付表2として表章されている。この一連の推計の流れは、第3章で取り上げる。
b.所得のフロー
制度部門別所得支出勘定により、発生した所得の分配から使用までを5つの制度部門別(非金融法人、金融機関、一般政府、家計、対家計民間非営利団体)に記録している。経済活動別に推計された雇用者報酬、営業余剰、生産・輸入品に課される税、補助金を5つの制度部門に対応させるとともに、財産所得、経常移転の受払および海外推計により推計される海外との雇用者報酬、財産所得、経常移転の受払を加えて所得支出勘定を以下のとおりに分割して作成する。
「第1次所得の配分勘定」では、各制度部門に該当する雇用者報酬、営業余剰、生産・輸入品に課される税、(控除)補助金に財産所得の受払を加えることにより制度部門別の第1次所得バランスを推計する。
「所得の第2次分配勘定」では、第1次所得バランスに税、社会負担・社会給付、その他の経常移転の受払を加えて可処分所得を推計する。
「現物所得の再分配勘定」6では、可処分所得に現物社会移転の受払を加えて調整可処分所得を推計する。
「所得の使用勘定」7は更に「可処分所得の使用勘定」と「調整可処分所得の使用勘定」に分割される。前者では、可処分所得から最終消費支出を差引くことにより制度部門別の貯蓄が推計される。一方、後者では、調整可処分所得から現実最終消費を差引くことにより貯蓄を推計する。両者の使用勘定から導出される貯蓄は同額である。 これら所得支出勘定の推計方法は、『国民経済計算年報』において制度部門別所得支出勘定に記録されており、その推計方法は第8
章で取り上げる。
c.蓄積と資本調達のフロー
総固定資本形成はコモ法によって推計される。一方、在庫品増加は人的推計法によって制度部門別の推計が行われる。経済活動別の付加価値構成項目の推計時に推計された制度部門別の固定資本減耗を総固定資本形成から控除し、在庫品増加、別途推計される土地の購入(純)から成る「資産の変動」から資本移転の受払、所得支出勘定の貯蓄を差し引いてバランス項目である純貸出(+)/純借入(−)を推計し、制度部門別資本調達勘定の「実物取引」を作成する。
「金融取引」は、各制度部門の資産・負債種類別金融ストックの推計から導き出される制度部門別の資産・負債種類別金融フローから作成。バランス項目は純貸出(+)/純借入(−)(資金過不足)である。『国民経済計算年報』では、統合勘定3.資本調達勘定及び制度部門別資本調達勘定で表章されている。資本調達勘定の推計方法は第9章で取り上げる。
d.ストック
ストックの推計は期末貸借対照表勘定及び調整勘定から構成されている。資産側には非金融資産と金融資産が記録され、負債側には金融活動に伴う負債が記録される。
各制度部門別に各種資産・負債を示す前年の期末貸借対照表勘定に期中の資本取引および価格評価等の調整を加え最終的に期末貸借対照表を作成する。期末資産と期末負債の差額である正味資産がバランス項目である。
調整勘定は「その他の資産量変動勘定」、「再評価勘定」、「その他」に分割され「再評価勘定」はさらに「中立保有利得、損失勘定」および「実質保有利得、損失勘定」に分割して推計される。ストックの内容は、『国民経済計算年報』において第2部ストック編で幅広く扱われており、こうした一連の推計方法は第10
章において取り上げる。
e.デフレーターと実質値
デフレーター推計の作業は下位デフレーターの推計とインプリシット・デフレーターの導出の二つの段階に分けて考えることができる。最初にコモ法におけるコモ8桁ベースの商品額を統合したコモ6桁品目レベルに対応する「基本単位デフレーター」と呼ばれる価格指数を作成する。各需要項目をコモ6桁品目レベルに分解して基本単位デフレーターにより名目値を除し、第二段階としてそれらを需要項目毎に積み上げて実質国内総生産(支出側)を作成する。GDP
デフレーターは名目GDP を実質GDPで除することによってインプリシットに求められる。
実質国内総生産(生産側)は経済活動別に産出額と中間投入額をそれぞれ別々にデフレートして、最終的に付加価値の実質額を求めるダブルデフレーション方式によって求められる。『国民経済計算年報』では実質値の表章項目に合わせてデフレーターも表章されている。デフレーターの推計は第7章で取り上げる。
2.QE推計の体系
国民経済の活動状況を多面的・総合的に表わす指標として作成されている『国民経済計算』は、その作成にあたって経済実体を正確に反映するという「正確性」を要請されるとともに、景気判断の基礎として「速報性」も要請されている。
このような観点から、『国民経済計算』、とりわけ国内における経済活動の結果生み出される付加価値の総計であるGDP(国内総生産(支出側))や民間最終消費支出などの支出系列においては、公表時期を出来るだけ早めるために、早期に利用できる基礎統計を用いて推計するとともに、より精度の高い基礎統計の入手に応じて段階的に推計値を改定し、統計の「正確性」を一層高めていくこととしている。これらは、公表時期の早いものから順に、「速報」、「確報」、「基準改定」と呼ばれている。(本章「3.改定の流れ」を参照)このうち、「速報」(「四半期別GDP
速報」)はQE(Quarterly Estimate)と呼ばれている。
QE においては、国内総生産(支出側)(GDP)と民間最終消費支出などの支出系列、及び雇用者報酬について四半期毎に作成する。(表1−1参照)。
これらをまず「1次QE」として当該四半期終了後約1カ月と2週間程度で公表している。さらに、当該四半期終了後約2カ月と10
日程度で、新たに利用可能となった基礎資料による改定を行い、「2次QE」として公表している。
速報推計では、確報推計などの年次推計と比べ、推計に利用できる基礎資料に制約があるため、経済主体別に把握された需要側統計も用いて推計を行っている。一方、確報推計との親和性を高め、速報から確報への改定幅を小さくする等の観点から、確報推計の基本的な考え方を活かしながら供給側統計を用いた推計も行っており、需要側推計と供給側推計を総合して最終的な推計値を求めている。具体的には、確報推計時に行われ
るコモ法などにより求めた前年の実績値をベンチマークとして、『家計調査』、『四半期別法人企業統計調査』等の需要側統計や『生産動態統計』、『特定サービス産業動態統計』等の供給側統計の前期比伸び率をもとに延長推計を行い、需要側推計値と供給側推計値を統合した上で、実質化、季節調整を行う手法を採用している。
3.改定の流れ
SNA によるGDP 統計は、速報性と正確性とのトレード・オフの関係を考慮してQE推計・年次推計において定期的な改定を行っている。すでにQE
は、前節で取り上げたとおりである。
年次推計は毎年12 月以降に前年度、前暦年及び四半期の数値を「確報」として公表している。この際、前々年の確報値も改定し「確々報」としている。
結果として、四半期値は「1次速報」→「2次速報」→「確報」→「確々報」と改定され、年次値は四半期速報の合計である「速報」→「確報」→「確々報」と改定される。
「基準(年)改定」は、平成14 年11 月に連鎖方式の導入に伴い、3 つの概念に分類された。これまで基準年という概念には、@『国勢調査』、『産業連関表』等重要な基礎統計の入手や新たな推計概念の導入を踏まえた名目値のベンチマークとなる年、A実質値・デフレーターにおける指数算式のウェイト統合の基準となる年、Bデフレーター=100
となる実質値の基準となる年、という3 つの意味があった。
現在、@はその年の名目推計値が国民経済計算体系の基準値となるという意味で「体系基準年(benchmark year)」、Aは「基準年(base
year)」、Bは「参照年(reference year)」と整理される。
体系基準年の改定は、SNA 推計の基礎となっている『産業連関表』が5年ごとに公表されるのに合わせて行われる。産業連関表以外でも『国勢調査』や『住宅・土地統計調査』等の確報、確々報時では入手できない統計も利用される。また、同時に固定基準年方式に伴う参照年の改定も、実質値の推計基礎となる価格の基準年次の切り替えも合わせて行う。
図1−2 平成t 年度国民経済計算公表時の改定状況 内閣府経済社会総合研究所によるSNA推計手法解説書(平成19年改訂版)から |