はじめに
1.SNAの見方
(1)SNAとは
(2)SNA体系の概要
2.93SNA移行による主な変更内容
(1)所得支出勘定の詳細化
(2)資産(ストック)の調整勘定の詳細化
(3)消費の2元化
(4)コンピューター・ソフトウェアの計上
(5)社会資本に係る固定資本減耗の計上
(6)GNPからGNIへ
3.93SNA移行による影響
(1)名目国内総生産(GDP)の水準と成長率への影響
(2)実質国内総生産(GDP)の成長率への影響
(3)調整勘定の細分化による分析結果
(4)諸外国における93SNA導入によるGDPへの影響
おわりに
平成12年10月27日に、日本の国民経済計算の体系が22年ぶりに改定されることとなりました。
ご承知のとおり、この国民経済計算、いわゆるSNA(System of National Accounts)とは、一国の経済を構成する諸側面を系統的・組織的に把え、それを記録するマクロ経済統計です。しかし、そのマクロ経済統計の仕組みが各国で差異があった場合、国際比較可能性は失われてしまいます。
そのため、国際連合は、この国民経済計算(SNA)のフレームワークについて、共通の基準(モノサシ)を提示し、加盟国にその採用を促してきました。
これまで日本は、1968年第15回国際連合統計委員会において採択された「国民経済計算の体系(68SNA)」を採用し、1978年8月以降、22年余りにわたって同体系に基づいた国民経済計算を推計してきました。しかしながら、1980年代に入り、経済社会のグローバリゼーションや情報化の進展、さらには金融機関や金融市場の多様化・複雑化など、国連が1968年に採択した68SNAの勧告当時は想定していなかった環境の変化の進展等がみられるようになりました。こうした中、68SNAの見直しの気運が世界中で高まってきました。
これを受けて、1983年3月に国連統計部をはじめとする各国際機関の統計部局からなるワーキンググループが設置され、本格的な改定作業が進められた結果、1993年の第27回国連統計委員会において、新たな国民経済計算の基準として、「1993年国民経済計算体系(System
of National Accounts 1993:(以下93SNA)」が採択され、同年7月開催の国連経済社会理事会において、この93SNAを採用するよう勧告が出されました。
日本では、国連の93SNA勧告を受け、1994年以降、「国民経済計算調査会議」(学識経験者により構成)を中心に、日本が導入するに相応しい93SNAの内容の検討が進められましたが、そうした検討の結果を踏まえ、経済企画庁は、2000年10月に、従来5年毎に行われている国民経済計算の基準改定と併せて、93SNAへと移行しました。
この冊子では、今回の93SNAへの移行に関し、特に話題となっている論点を中心に変更点を説明し、そうした変更を経た国民経済計算の姿を紹介します。
本冊子が、日本の経済の循環と構造を明らかにする新しい93SNAの理解の一助となれば幸いです。
(1)SNAとは
SNAとは、System of National Accountsの略称であり、「国民経済計算」または、「国民経済計算体系」と訳されています。そして、93SNAとは、1993年に国連が加盟各国にその導入を勧告した国民経済計算の体系の名称です。
この国民経済計算、すなわちSNAは、一国の経済の状況について、生産、消費・投資といったフロー面や、資産、負債といったストック面を体系的に記録することをねらいとする国際的な基準、モノサシです。言い換えるならば、企業の財務諸表作成における企業会計原則に相当する一国経済の会計原則が、国民経済計算、すなわちSNAであるわけです。
これまで、日本をはじめ世界の多くの国がSNAという基準に従って、所得水準や経済成長率などの国際的な比較を行い、各国の経済の実態を明らかにしてきました。このため、SNAは、世界各国が共通の基準に基づいて作成することが必要です。
(2)SNA体系の概要
では、SNAが一国全体における経済活動をどのように描いているかについて概観しましょう。
1)生産と所得の分配(図1)
私たち国民一人一人がより快適な日常生活を送るためには、様々なもの−財貨・サービス−が必要です。最低でも自己の生命を維持するための衣食住という基本的なものの消費が欠かせません。
これに応えるために企業や政府は、一定の技術の下で各種の生産要素(労働、資本ストック、土地)を組合せて使用し、原材料(中間財)を投入して財貨・サービスを産出しています。
産出された財貨・サービスは、企業が原材料として用いる時の消費である中間消費、各種の国内最終需要(家計最終消費支出、民間企業設備等)および輸出向けに販売されます。
他方、生産活動の過程で生み出された付加価値(産出額−中間投入額(企業の原材料に相当))は固定資本減耗と純間接税(93SNA上の正式な用語は、「生産・輸入品に課される税(控除)補助金」。以下同じ。)を除いたあと、各生産要素の間で報酬として配分されます。
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これまで紹介してきましたように、日本のSNAは、1968年に国連が定めた基準に沿った体系から、経済の制度の複雑化・成熟化、分析対象の変化・広範化などに対応するため1993年に同じく国連によって定められた93SNAへと、その姿を一層現代的な内容のものに変えることとなりました。
新しい93SNAは、一国全体の経済の動向やその構造分析を行うに当たって、統計ユーザーの多面的なニーズに一層応えられることとなったわけですが、この指標には、社会資本の減耗分など国民の厚生の大きさを測る要素も含まれており、必ずしも市場における金銭取引によって実感されるイメージとは異なる動きを示すこともあります。したがって、好況か不況か等、実際の景気動向の判断を行うに当たっては、SNAにおける国内総生産(GDP)の動きを見るだけでなく、失業率や物価動向、金融市場に関する他の経済指標を活用して、総合的に行われる必要があります。
93SNAのご利用にあっては、こうした93SNAの性質を十分に理解し、分析の目的に応じて、適切に活用していただきたいと思います。