内閣府経済社会総合研究所による解説パンフレット(平成13年1月)新しい国民経済計算(93SNA)から

SNA(国民経済計算)


目次

はじめに

1.SNAの見方
(1)SNAとは
(2)SNA体系の概要

2.93SNA移行による主な変更内容
(1)所得支出勘定の詳細化
(2)資産(ストック)の調整勘定の詳細化
(3)消費の2元化
(4)コンピューター・ソフトウェアの計上
(5)社会資本に係る固定資本減耗の計上
(6)GNPからGNIへ

3.93SNA移行による影響
(1)名目国内総生産(GDP)の水準と成長率への影響
(2)実質国内総生産(GDP)の成長率への影響
(3)調整勘定の細分化による分析結果
(4)諸外国における93SNA導入によるGDPへの影響

おわりに


はじめに


 平成12年10月27日に、日本の国民経済計算の体系が22年ぶりに改定されることとなりました。
 ご承知のとおり、この国民経済計算、いわゆるSNA(System of National Accounts)とは、一国の経済を構成する諸側面を系統的・組織的に把え、それを記録するマクロ経済統計です。しかし、そのマクロ経済統計の仕組みが各国で差異があった場合、国際比較可能性は失われてしまいます。
 そのため、国際連合は、この国民経済計算(SNA)のフレームワークについて、共通の基準(モノサシ)を提示し、加盟国にその採用を促してきました。
 これまで日本は、1968年第15回国際連合統計委員会において採択された「国民経済計算の体系(68SNA)」を採用し、1978年8月以降、22年余りにわたって同体系に基づいた国民経済計算を推計してきました。しかしながら、1980年代に入り、経済社会のグローバリゼーションや情報化の進展、さらには金融機関や金融市場の多様化・複雑化など、国連が1968年に採択した68SNAの勧告当時は想定していなかった環境の変化の進展等がみられるようになりました。こうした中、68SNAの見直しの気運が世界中で高まってきました。
 これを受けて、1983年3月に国連統計部をはじめとする各国際機関の統計部局からなるワーキンググループが設置され、本格的な改定作業が進められた結果、1993年の第27回国連統計委員会において、新たな国民経済計算の基準として、「1993年国民経済計算体系(System of National Accounts 1993:(以下93SNA)」が採択され、同年7月開催の国連経済社会理事会において、この93SNAを採用するよう勧告が出されました。
 日本では、国連の93SNA勧告を受け、1994年以降、「国民経済計算調査会議」(学識経験者により構成)を中心に、日本が導入するに相応しい93SNAの内容の検討が進められましたが、そうした検討の結果を踏まえ、経済企画庁は、2000年10月に、従来5年毎に行われている国民経済計算の基準改定と併せて、93SNAへと移行しました。
 この冊子では、今回の93SNAへの移行に関し、特に話題となっている論点を中心に変更点を説明し、そうした変更を経た国民経済計算の姿を紹介します。
 本冊子が、日本の経済の循環と構造を明らかにする新しい93SNAの理解の一助となれば幸いです。



1.SNAの見方

(1)SNAとは
 SNAとは、System of National Accountsの略称であり、「国民経済計算」または、「国民経済計算体系」と訳されています。そして、93SNAとは、1993年に国連が加盟各国にその導入を勧告した国民経済計算の体系の名称です。
 この国民経済計算、すなわちSNAは、一国の経済の状況について、生産、消費・投資といったフロー面や、資産、負債といったストック面を体系的に記録することをねらいとする国際的な基準、モノサシです。言い換えるならば、企業の財務諸表作成における企業会計原則に相当する一国経済の会計原則が、国民経済計算、すなわちSNAであるわけです。
 これまで、日本をはじめ世界の多くの国がSNAという基準に従って、所得水準や経済成長率などの国際的な比較を行い、各国の経済の実態を明らかにしてきました。このため、SNAは、世界各国が共通の基準に基づいて作成することが必要です。

(2)SNA体系の概要
 では、SNAが一国全体における経済活動をどのように描いているかについて概観しましょう。

1)生産と所得の分配(図1)
 私たち国民一人一人がより快適な日常生活を送るためには、様々なもの−財貨・サービス−が必要です。最低でも自己の生命を維持するための衣食住という基本的なものの消費が欠かせません。
 これに応えるために企業や政府は、一定の技術の下で各種の生産要素(労働、資本ストック、土地)を組合せて使用し、原材料(中間財)を投入して財貨・サービスを産出しています。
 産出された財貨・サービスは、企業が原材料として用いる時の消費である中間消費、各種の国内最終需要(家計最終消費支出、民間企業設備等)および輸出向けに販売されます。
 他方、生産活動の過程で生み出された付加価値(産出額−中間投入額(企業の原材料に相当))は固定資本減耗と純間接税(93SNA上の正式な用語は、「生産・輸入品に課される税(控除)補助金」。以下同じ。)を除いたあと、各生産要素の間で報酬として配分されます。



2)所得の受取・処分と資本の蓄積・調達(図2)
 生産要素を提供した各主体は、配分された報酬から所得税等の直接税(93SNA上の正式な用語は、「所得・富等に課される経常税」。以下同じ。)や社会保険料等を一般政府に納めるとともに、一般政府から年金等の給付を受けます。また、各主体間で配当や利子等の受払いが行われます。このようにして再配分が行われたあとの所得(可処分所得)をもとにして、各主体は消費するために財貨・サービスを購入し、また、住宅、企業設備、土地等の実物資産を購入します。
 このような支出の結果、資金に余剰が生じた主体は、預貯金、公社債、株式等の金融資産に資金を運用します。逆に、資金が不足した主体は、金融機関からの借入や公社債・株式の発行等により資金を調達します。
 SNAでは、各経済主体が行う様々な取引を経常取引と資本取引に大別し、前者の経常取引は以下で説明します所得支出勘定に、後者の資本取引は資本調達勘定に記録します。

(1)所得支出勘定(制度部門別)
 各制度部門(SNA上は、非金融法人企業、金融機関、一般政府、家計、対家計民間非営利団体より構成)ごとに、経常取引すなわち第一次所得の受取、再分配所得の受取と支払および消費支出が複式簿記の形式に従って記録されます。
 まず、第一次所得の受取とは、国内の生産活動によって生み出された雇用者所得(93SNA上の正式な用語は、「雇用者報酬」。以下同じ。)と営業余剰(93SNA上の正式な用語は、「営業余剰・混合所得」。以下同じ。)および財産所得に加え、一般政府にとっての受取となる純間接税から構成されます。受取側には、更に、海外から受取った要素所得の純計額(受取−支払)が計上されます。
 一方再分配所得(受取と支払)とは、次の3つのカテゴリーに分類することができます。第一は直接税、社会負担(社会保険料等)で、これは家計や企業から一般政府に再配分される所得です。第二は、社会保障給付と社会扶助給付(生活保護費等)で、これは一般政府から家計等へ再分配される所得です。第三は、その他の再分配ですが、具体的には損害保険の保険金や、保険料(93SNA上の正式な用語は、それぞれ、非生命保険金、非生命純保険料)、国際協力、無基金雇用者福祉給付(一部の公務災害補償等)等があげられます。上記3つのカテゴリーに分類されるいずれの再分配所得についても、ある経済主体(例えば家計)の支払は、他の経済主体(例えば一般政府)の受取に計上されます。

(2)資本調達勘定(制度部門別)
 各制度部門は、様々な形態で資金を調達して実物資産(住宅、企業設備、土地等)と金融資産(預貯金、公社債、株式等)に投資・運用しますが、その調達と投資・運用の間には次の恒等式が成立します。
(自己資金の純増額)+(金融市場から調達した資金の純増額)=(実物投資)+(金融資産の純増額)
 また、SNAでは、制度部門別毎に、実物投資と自己資金の純増額(貯蓄+固定資本減耗+他部門からの資本純移転)との間のバランス関係を計数的に把握するとともに、不足あるいは過剰となった資金がどのようにして金融市場で調達あるいは運用されたかを実証的に明らかにするために、資本取引を実物取引と金融取引に区分して記録しています。
 前者の実物取引の勘定は貯蓄・投資バランス等の分析に、後者の金融取引の勘定は資金循環や資産選択等の分析に必要なデータを提供するよう設計されています。

(1)実物取引
 蓄積(93SNA上の正式な用語は、「資産の変動」)側に総固定資本形成(企業設備投資、住宅投資等)、在庫品増加および土地の購入(純計)が計上されます。自己資金の純増額を示す調達(93SNA上の正式な用語は、「貯蓄・資本移転による正味資産の変動」)側には、その制度部門が自前で確保した財源である貯蓄(所得支出勘定で把握)と固定資本減耗および他の制度部門から再分配された財源である資本移転が計上され、バランス項目(蓄積側と調達側の差)として貯蓄投資差額が蓄積側に計上されます。

(2)金融取引
 金融取引については、まず運用(93SNA上の正式な用語は、「資産の変動」)側に金融資産の純増額が資産の形態別(現金通貨・預金、債券、売上債権等)に計上されます。他方、調達(93SNA上の正式な用語は、「資金過不足および負債の変動」)側には資金調達(負債の純増額)が調達の形態別(債券、株式、借入金、買入債務等)に計上されます。



3)制度部門別貸借対照表(図3) (図4)
 各経済主体は様々な資産と負債からなるストックを保有しています。これを制度部門別に見たものが制度部門別期末貸借対照表です。
 この勘定では、資産側に非金融資産(在庫、固定資産からなる生産資産、土地、地下資源、漁場からなる非生産資産)および金融資産(現金・貯金、株式等)を計上しており、総負債・正味資産側には金融の負債およびバランス項目となる正味資産を計上しています。
 なお、各制度部門の正味資産は(非金融資産)+(金融資産)−(負債)として定義され、一国全体の正味資産は国富とも呼ばれています。
 下図のとおり、資本調達勘定、調整勘定を明示的に取り込むことによって、フローの勘定とストックの勘定が整合的に連結しています。



おわりに

 これまで紹介してきましたように、日本のSNAは、1968年に国連が定めた基準に沿った体系から、経済の制度の複雑化・成熟化、分析対象の変化・広範化などに対応するため1993年に同じく国連によって定められた93SNAへと、その姿を一層現代的な内容のものに変えることとなりました。
 新しい93SNAは、一国全体の経済の動向やその構造分析を行うに当たって、統計ユーザーの多面的なニーズに一層応えられることとなったわけですが、この指標には、社会資本の減耗分など国民の厚生の大きさを測る要素も含まれており、必ずしも市場における金銭取引によって実感されるイメージとは異なる動きを示すこともあります。したがって、好況か不況か等、実際の景気動向の判断を行うに当たっては、SNAにおける国内総生産(GDP)の動きを見るだけでなく、失業率や物価動向、金融市場に関する他の経済指標を活用して、総合的に行われる必要があります。
 93SNAのご利用にあっては、こうした93SNAの性質を十分に理解し、分析の目的に応じて、適切に活用していただきたいと思います。


戻る