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環日本海地域の地下資源分布
−環日本海五ヶ国におけるエネルギー資源と鉱物資源の現況−

福岡 正人(1998年3月)

はじめに
 日本人の生活を支えるために必要な量の地下資源は、現在の日本にはない。したがって、大量の資源をそれぞれの富める国々から輸入しているわけであるが、それらの国々がいつまでも必要な量の資源を提供してくれる保証はない。資源の枯渇による場合ばかりでなく、政治・経済などの理由により資源の輸入が縮小あるいは途絶する可能性は絶えず存在する。日本に限らず、大多数の国々も事情はほぼ同じであり、生活基盤の崩壊に直結しかねない大きな問題のひとつである。
 地下資源にかかわる問題を考える場合、その分布する場所(国)と埋蔵量についての正確な情報が必要であり、さらにそれが商品として生産・消費される過程での流通量とルートに関する情報も把握しておく必要がある。しかし、これらに関するデータは一応各国から公表されてはいるが、その内容は国毎に異なるし、精粗まちまちである。また、国家機密などのため公表されていないデータについては、貿易量や学術雑誌などに漏れた情報から推定しなくてはならないし、数量表示に使われている多種類の単位を統一するためには面倒な換算を要するなど、非常に多くの時間と労力が要求される。したがって多国間の比較のために信頼できる数値を得るためには、現実的には専門の機関がまとめた国別統計データを利用せざるをえない場合が多い。
 本論文は、日本を含む内海地域としての「環日本海」に焦点をあて、日本海をとりまくロシア(ロシア連邦)、中国(中華人民共和国)、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)、韓国(大韓民国)そして日本の5カ国を対象として、各国の現在の地下資源事情をエネルギー資源と鉱物資源とについて比較し、各国が抱える資源問題を検討することにより、不足する資源の平和的かつ効率的な共同利用の可能性を探るための基礎資料を提供することを目的としている。地下資源関連の統計データが印刷物として公表されるまでには2〜3年ほどの時間がかかることが多いが、本論文ではとくにインターネットからのデータ入手を試み、有用な最新のデータが公開されている場合にはそれを多く利用した。

1.エネルギー資源
 自然物から直接取りだせるエネルギーは一次エネルギーと呼ばれ、石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料、原子力、水力、地熱、新エネルギー、バイオマス(薪炭を含む)などから構成される。このうち、石油・石炭・天然ガス、原子力、水力については統計データを入手しやすいが、その他の例えば薪などは国によっては無視できないエネルギー源であることは予想されるが、数値データはほとんど報告されていない。したがって、以下では石油・天然ガス・石炭および原子力・水力とについて述べる。参考にした資料は主に英国BP社のBP統計および米国EIAの統計データである。
(1)一次エネルギー
 表1に示すように、一次エネルギー消費量(1996年)が世界最大の国は米国(25%)であり、中国とロシアがそれに次ぎ、この上位三ヶ国で世界の43%を占める。また、世界におけるその内訳は石油40%、石炭27%、天然ガス24%、原子力7%、水力3%であり、化石燃料である前三者の合計が90%に達している。環日本海五ヶ国についてみると、1996年の一次エネルギー消費量は世界の26%であり、同人口の27%を基準にすれば、一人あたりの消費量は世界のほぼ平均に近い。五ヶ国の消費量内訳は、各国の資源埋蔵量の違いなどに応じて大きく異なり、世界最大の天然ガス埋蔵量および生産量を誇るロシアは、石油21%、天然ガス52%、石炭20%、その他7%であり、天然ガスの利用を優先している。中国は、石炭生産量が世界第1位であり、石油20%、天然ガス2%、石炭76%、その他2%というように石炭に大きく依存している。北朝
鮮も同じように、国内で賄える石炭と水力が主体であり、石油7%、石炭81%、水力11%である。一方、韓国と日本は石油と原子力の割合が大きい共通点をもち、韓国は石油62%、天然ガス7%、石炭19%、原子力12%で、日本は石油54%、天然ガス12%、石炭18%、原子力15%であり、両国ともに化石燃料のほとんどを輸入に依存している。
 つぎに、五ヶ国の最近六年間(1991〜1996年)における一次エネルギー生産と消費の推移を見てみる(表2)。
ロシア  旧ソ連の解体にともない1991年8月24日に独立したロシアは、旧ソ連を基準にすると陸地面積は77%、人口は51%(1996年)、GDP(購買力平価;1995年)は68%に縮小したため(註1)、1991年(旧ソ連)の一次エネルギー生産量および消費量も1992年(ロシア)にはそれぞれ74%および61%に減少している。生産量は1990年(旧ソ連)には世界の20%を占め世界第1位であったが、1991年には第2位(18%)に下がり、1996年(ロシア)では米国(19%)に大きく差をつけられ11%に落ちこんでいる。消費量は1991年の世界第2位(16%)から1996年の第3位(7%)へ減少した。1996年の消費量第1位は米国(25%)、第2位は中国(10%)である。ロシアの1992年から1996年にかけての生産量の増加率(1996年の値/1992年の値;以下ロシアは同じ)は0.85、同期間の消費量の増加率は0.77であり、旧ソ連崩壊の影響から立ち直っていない。人口は1992年の1億4,800万人から現在までほとんど変化していないため、一人あたり消費量の増加率も0.77と減少しており、さらにGDPの増加率が0.70という低い値のため、GDPあたり消費量の増加率1.10が示すように経済活動の効率がさらに悪化している。
 一次エネルギーの海外依存度〔{1−(生産量÷消費量)}×100(%)〕は、1991年の−16%から1992年の−39%をへて1996年には−53%を示しており、生産量の減少よりも消費量の落ち込みの方が大きいために、1996年では生産量の35%が輸出されたことになる。
中国 1996年の中国の一次エネルギー生産量は世界第3位(10%)で、ロシアに急迫しているし、同年の一次エネルギー消費量は世界第2位(10%)である。生産量および消費量の増加率(1996年の値/1991年の値;以下ロシア以外は同じ)は1.26および1.31であり、ともに急増している。人口増加(増加率1.05)以上に消費量の伸びが大きいため、一人あたり消費量も増加しているが(増加率1.25)、1996年時点では五ヶ国のなかで最少であるし、世界平均の半分にも達していない。また、GDPが大幅に増加しているため(増加率1.78)、GDPあたり消費量も大きく減少し(増加率0.74)、ロシアよりも効率的になっている。
 一次エネルギー海外依存度は1991年の−5.0%から1996年には−1.0%へと増加し、国内生産分では不足する状況が迫っている。
北朝鮮 北朝鮮の一次エネルギー生産量と消費量は近年ほとんど変化がない。生産量は世界の0.5%で、その増加率は1.03であり、消費量は同じく0.6%および1.01を示す。人口の増加率は世界平均(1.08)に近い1.09であるため、一人あたり消費量は低下しており(増加率0.93)、1996年には世界平均を越えてはいるが韓国の61%であった。また1995年のGDPあたり消費量はロシアよりわずかに少ない程度である。
 一次エネルギー海外依存度は近年ほぼ10%で変わらない。
韓国 五ヶ国のなかで韓国の一次エネルギー生産量は最低であり、世界の0.2%ほどである。そして、その少ない生産量は近年ほとんど変わらない(増加率1.02)。一方、一次エネルギー消費量は激増しており(増加率1.71)、1996年の世界に占める割合は1.9%であった。この消費量の増大は人口の伸び(増加率1.05)を大きく上まわっており、一人あたり消費量は五ヶ国のなかでもっとも大きく拡大している(増加率1.62)。経済成長も五ヶ国のうち中国についで著しく、GDPの増加率は1.40であるが、消費量の増加率には及ばず、GDPあたり消費量の増加率1.21は効率の悪化をあらわしている。
 1991年の一次エネルギー海外依存度は80%であったが、年毎に増加しつづけ、1996年には88%近くに達している。
日本 日本の1996年の一次エネルギー生産量と消費量は、それぞれ世界の1.1%と5.7%を占め、増加率は1.18と1.14である。人口の伸びは小さいため(増加率1.01)、一人あたり消費量の増加率も1.12程度である。GDPの伸びも大きくはないため(増加率1.07)、GDPあたり消費量は増加している(増加率1.06)。
 近年の一次エネルギー海外依存度は81%前後に落ちついているが、五ヶ国のなかでも韓国とともに非常に大きな値である。
(2)石油・天然ガス・石炭
 1996年の世界の石油生産量および消費量は33.6億トンおよび33.1億トンであり、原油埋蔵量〔確認可採埋蔵量〕は1,409億トン(1兆369億バーレル)である(表1)。したがって、可採年数(R/P)は42.2年となる。原油埋蔵量が最大の国はサウジアラジアであり、以下イラク、UAE、クウェート、イランとつづき、中東の上位五ヶ国で64%近くを占める。生産量はサウジアラビア、米国、ロシアの三ヶ国で世界の33%であるが、消費量は米国、日本、中国で39%近くになる。
 同年の天然ガス生産量、消費量、および埋蔵量はそれぞれ20.1億石油換算トン(2.23兆立方メートル)、19.7億石油換算トン、および1,270億石油換算トン(141.3兆立方メートル)である。また、R/Pは62.2年となる。世界の上位三ヶ国とその占める割合は次のようになる。生産量はロシア、米国、カナダで57%弱、消費量は米国、ロシア、英国で49%、埋蔵量はロシア、イラン、カタールで54%強であり、量的には石油よりも一部の国に偏っている。
 同年の石炭生産量、消費量、および埋蔵量(無煙炭、れき青炭、褐炭の合計)はそれぞれ22.6億石油換算トン(46.1億トン)、22.6億石油換算トン、および1兆316億トンであり、R/Pは224年に達する。生産量は中国、米国、インドで61%強、消費量も中国、米国、インドで59%弱、埋蔵量は旧ソ連(CIS)、米国、中国で58%近くを占め、天然ガスよりもさらに
量的に偏っている。
 つぎに最近六年間(1991〜1996年)の石油、天然ガス、石炭の生産と消費の推移を見てみる(表3)。
ロシア 1996年のロシアの原油埋蔵量は世界の4.7%で第8位である(R/Pは22.1年)。1991年(旧ソ連)の石油生産量は世界第1位(15%)であったが、1992年以降(ロシア)は第3位に下がり、1996年にはシェア9%に落ち込んでいる。生産量の増加率は0.75である。消費量のほうも1991年の8%(第3位)から1996年には4%にまで下がり、1995年以降には第3位の座を中国にゆずった。消費量の増加率は半減に近い0.57である。生産量よりも消費量の落ち込みが大きいため、石油の海外依存度は1991年の−90%から1992年には−78%と増えたものの、それ以降は減りつづけ1996年には−135%に及んでいる。
 ロシアの天然ガス埋蔵量は世界の34%強(第1位)で圧倒的に多く、生産量も第1位を維持している(R/Pは82.1年)。しかし、1991年には30%を占めていたが、1996年には25%まで下がり第2位の米国との差は小さい。生産量の増加率は0.94である。消費量の方は世界第2位で、1991年の22%から1996年の16%へと同じく減りつづけており、増加率は0.84である。天然ガスの海外依存度は1991年の−39%から1996年の−59%へと減りつづけている。
 旧ソ連(CIS)の石炭埋蔵量は世界の23.4%(第1位)を占めるが、ロシアは旧ソ連の83%程度と推定されるので(後述)、ロシアとしては世界の19%程度となり米国(23%)につぐ第2位である(R/PはCISでは500年以上、ロシアでは780年)。生産量は1991年(14%)から1995年(6%)まで減少しつつも世界第3位を維持していたが、1996年(6%)にはインドに抜かれ第4位へ下がった。生産量の増加率は0.74である。1996年における無煙炭:れき青炭:褐炭の生産量比は7:58:35であった。消費量も生産量と同じ推移を示し、1991年(13%)から1994年(6%)までは第3位で、1995年(6%)は第4位となり、増加率は0.72である。石炭の海外依存度は近年0%付近を上下しており、ほとんどが国内で消費されている。
中国 1996年の中国の原油埋蔵量は世界の2.3%(第11位)で、R/Pは20.7年である。石油生産量は1991年の4%から1996年には5%にわずかに上昇し、増加率は1.12を示す。消費量も同じく1991年の世界の4%から1996年には5%に増え、1995年以降は第3位となった。その増加率1.46が示すように、消費のペースが生産を上回ってきたため、1994年以降は石油不足に至っている。石油海外依存度は1991年の−20%から1996年には8%に達し、さらに増加する勢いである。
 天然ガス埋蔵量は世界の0.8%で、R/Pは58.8年である。生産量も同程度の規模であるが、世界の0.7%(1991年)から0.9%(1996年)へ増加率1.34で増大している。同じく消費量も1991年の0.7%から1996年の0.8%へ増加率1.19で増えている。天然ガス海外依存度は0%という状況を継続してきたが、1996年には−12%となり、生産拡大の兆しがみられる。
 石炭埋蔵量は世界第3位で11.1%を占め、R/Pは85年である。生産量は世界第1位を堅持しつづけ、1991年の24%から1996年の30%へ増加率1.29で増加している。1996年の無煙炭:れき青炭:褐炭の生産量比は19:76:5である。同じく消費量も世界第1位であり、1991年の23%から1996年の29%へ増大しており(増加率1.29)、石炭海外依存度は近年−3%程度である。
北朝鮮 北朝鮮の原油埋蔵量および石油生産量は報告されていない。消費量も多くなく、1991年には380万トン、1996年には300万トン程度と推定され、減少しつつある。石油海外依存度は100%と推定される。
 天然ガス埋蔵量および消費量の報告もなく、生産量は0と推定される。
 石炭埋蔵量は6億トン(世界の0.06%)で、R/Pは18年である。1991年の生産量は世界の1.4%、1996年は1.6%であり、微増している(増加率1.11)。生産量の無煙炭:褐炭比は62:38で、無煙炭の比重が大きく、無煙炭に限れば中国につぐ世界第2位(12%)の生産国である(第3位はロシア)。消費量も1.5%(1991年)から1.6%(1996年)へと増加しており(増加率1.11)、国内消費を賄いきれていない。石炭海外依存度は3.4%(1991年)から2.9%(1996年)へとわずかに減少している。
韓国 韓国の原油埋蔵量および生産量は現在0である。消費量は世界の1.9%(1991年)から3.1%(1996年)へと急激に増加している(増加率1.69)。石油海外依存度は100%である。
 天然ガス埋蔵量および生産量も0であるが、消費量は近年急速に伸びつつある。絶対量はまだ少ないが、1991年の世界の0.2%から1996年には0.6%へと増加率3.5の急激な増加を示す。
 石炭埋蔵量は1.8億トン程度で多くはない(R/Pは36年)。生産量(すべて無煙炭)も世界の0.33%(1991年)から0.11%(1996年)へ大幅に減少している(増加率0.33)。
 消費量は世界の1.0%あたりで変動は少ないがやや増加している(増加率1.27)。生産量の縮小に伴い、石炭海外依存度も63%(1991年)から91%(1996年)へと拡大をつづけている。
日本 日本の原油埋蔵量は690万トン程度(世界の0.005%)と見積もられており、R/Pは9年である。石油生産量もわずかであり(0.02%)、それも減少しつつある(増加率0.95)。一方、消費量は米国(25%)についで第2位(8%)を維持し、増加傾向にある(増加率1.07)。石油海外依存度は99.7%に達する。
 天然ガス埋蔵量は271億立方メートル(世界の0.02%)で、R/Pは12年位である。生産量は世界の0.11%(1991年)から0.10%(1996年)とわずかに減少しているが、増加率1.04は量的な増加を示す。消費量は2.7%(1991年)から3.0%(1996年)へと伸びており(増加率1.21)、天然ガス海外依存度は1991年の96.1%から1996年には96.6%へと少しずつ増えつづける傾向にある。
 石炭埋蔵量は8.21億トン(世界の0.08%)で、R/Pは126年である。生産量は世界の0.19%(1991年)から0.14%(1996年)へと大幅に減少しつつある(減少率0.77)。1996年の無煙炭:れき青炭:褐炭の生産量比は3:97:0であった。消費量は世界の2.6%(1991年)から2.8%(1996年)に増加しつつあり(増加率1.12)、石炭海外依存度も93%(1991年)から95%(1996年)へと膨らみつつある。
(3)原子力・水力
 1996年に原子力エネルギーをもっとも多く消費した国は米国(世界の30%)であり(表1)、次いでフランス(17%)、そして日本(12%)とつづき、これら三ヶ国で58%強を占めるが、これは石炭消費量の同様の数値と同じ偏りを示す。一方、水力エネルギー消費量の多い上位三ヶ国は、カナダ(14%)、米国(13%)、ブラジル(10%)で、合計は37%強であり、石油消費量の偏りに近い。
 表4に五ヶ国の最近六年間(1991〜1996年)における、原子力と水力エネルギー消費の推移を示した。
ロシア 原子力エネルギー消費量は、1991年の世界の5.7%から1996年の4.5%へと減少しているが、絶対量は1994年に最低値を記録したのち復活の兆しを示している。増加率は0.91である。水力エネルギー消費量は世界の7.5%(1991年)から6.1%(1996年)へ縮小しているが、これは1996年の落ち込みのせいである(増加率0.89)。
中国 中国における原子力エネルギーの利用は1991年末から始まり、1992年から消費量が報告されているが、1996年には世界の0.6%に達している。水力エネルギーの消費も伸びており、世界の5.5%(1991年)から7.3%(1996年)へと増加率1.47を示す。
北朝鮮 原子力エネルギー消費量は不明である。1996年の水力エネルギー消費量は190万石油換算トン(世界の0.9%に相当)と推定されている。
韓国 原子力エネルギー消費量は世界の2.7%(1991年)から3.1%(1996年)へと増えつづけている(増加率1.32)。水力エネルギーの消費量は世界の0.2%、また増加率1.0で変わらない。
日本 日本は世界第3位の原子力エネルギー消費国であるが10.0%(1991年)から12.4%(1996年)へと増加しつづけ、増加率も韓国より高い1.42である。水力エネルギー消費量は4.6%(1991年)から3.4%(1996年)へとやや減少する傾向があり、増加率も0.83を示す。

2.鉱物資源
 鉱物資源は、単一の元素からなるメタルの状態にまで分離して利用する金属資源(あるいは金属鉱物資源)と、メタルにまで分離しない状態ないし鉱物あるいは岩石の状態で利用する工業鉱物資源(あるいは非金属鉱物資源)に分けることが多く、ここでもそれに倣うが、慣行的な商品の取扱いの面などから国により異なる場合があり、各鉱種の区別は必ずしも厳密なものではない。
 米国地質調査所(USGS)から報告されている約90鉱種のうち、主要な金属資源を元素別に41種と工業鉱物資源32種とについて、世界における現況を表5表6表7にまとめた(註2)。エネルギー資源に比べて、鉱物資源データは必ずしもすべての鉱種について報告されておらず、またデータの質もよくないものが多い。さらに、完全な再生不能(枯渇性)の資源である化石燃料とは異なり、基本的には枯渇性ではあってもリサイクルや代替が可能な場合が多く、可採年数などの比較を行う場合には注意が必要である。
(1)金属資源
 表5にしめすように、金属資源のなかでは鉄がもっとも多く生産されるが、鉱石(鉄を約54%含む酸化物)量で10億トン(1996年)程度であり、エネルギー資源の石炭46.1億トンや石油33.6億トンなどと比較すると決して多くはない。金属資源の生産量第2位のアルミニウムは、鉱石(ボーキサイト:アルミニウムを25%程度含む酸化物)量で1.1億トンと鉄の10分の1ほどの量であり、第3位以下の銅、マンガン、亜鉛、クロムなどはさらに一桁少なくなる。
 五ヶ国について、表5に示した鉱種の生産量と埋蔵量におけるシェアの概略と、さらに主要な鉱種についての最近6年間における生産量の推移(表8)を以下に示す。
ロシア 表5に示した鉱種について、1995年の産出量においてロシアが世界の第3位までを占めるものを挙げると次のようになる(表6)。世界第1位:ニッケル(24%);第2位:チタン(40%)〔ただし、原料鉱石のイルメナイトなどは多くない〕、バナジウム(30%)、白金族(26%)、タングステン(17%)、アルミニウム(14%)〔ただし、原料鉱石のボーキサイトはわずか〕、アンチモン(7%);第3位:コバルト(16%)、希土類(8%)〔ただし、旧ソ連として〕。また、同じく埋蔵量は、第1位:バナジウム(50%)、鉄(鉱石)(23%);第2位:希土類(19%)〔ただし、旧ソ連として〕、ニッケル(14%)、白金族(11%);第3位:タングステン(12%)、レニウム(12%)、銅(6%)である。
 主な鉱種の生産量の推移をみると(表8)、1991年(旧ソ連)には世界第1位(21%)の生産量であった鉄(鉱石)は、1992年にはその41%に減産したため中国に座を譲り第4位となった。増加率も悪化している(0.85)。アルミニウム(ボーキサイト鉱石)には恵まれておらず、そのうえ生産も減退し(増加率0.72)、1996年にはシェア3%(第9位)ほどを占めるに過ぎない。1996年第1位(21%)のニッケルにしても、生産量は減少しており(増加率0.82)、第2位の白金族(シェア25%、増加率0.67〔以下同じ〕)、タングステン(9%、0.3)、第3位のコバルト(12%、0.83)、希土類(7%、0.75:ただし、旧ソ連として)、アンチモン(5%、0.6)も同様に落ち込んでいて、これは貴金属の金や銀も含めた金属資源全体に共通する傾向である。
中国 産出量(1995年)において中国が世界の第3位までを占めるものを挙げると次のようになる(表6)。世界第1位:アンチモン(73%)、タングステン(68%)、希土類(60%)、ヒ素(32%)、スズ(28%)、鉄(鉱石)(25%)、シリコン(23%);第2位:ストロンチウム(21%)、水銀(20%)、ベリリウム(17%)、インジウム(17%)、鉛(16%)、亜鉛(13%);第3位:ビスマス(23%)、バナジウム(15%)、モリブデン(14%)、マグネシウム(12%)。また、同じく埋蔵量は、第1位:タングステン(45%)、希土類(43%)、スズ(23%)、ビスマス(18%);第2位:インジウム(15%);第3位:バナジウム(20%)、鉛(10%)、モリブデン(9%)である。
 主な鉱種の生産量の推移を見ても(表8)、タングステン以外はいずれも増加しており、活発な経済成長の勢いが感じられる。鉄(鉱石)は1996年第1位(24%)で、増加率は1.42を示し、アルミニウム(ボーキサイト鉱石)は第5位(5%)、増加率2.38である。その他の鉱種(1996年)では、アンチモン(シェア78%、増加率1.68)、タングステン(75%、0.75)、希土類(65%、3.41)、スズ(31%、1.43)は第1位、モリブデン(20%、1.74)、鉛(17%、1.42)、マンガン(16%、1.17)は第2位、亜鉛(14%、1.35)は第3位であり、米国と並ぶ資源大国の地位を確保した感がある。
北朝鮮 表6にはタングステンの生産量の世界第3位として顔をだすが、そのシェアは小さい(3%)。
 主要な鉱種で1996年に世界シェアの1%以上を生産しているものは(表8)、亜鉛(3%)、鉛(3%)、タングステン(3%)、鉄(鉱石)(1%)であり、最近6年間の生産量はほとんど変動していない。
韓国 主要な鉱種のうち、銀(2%)と金(1%)が世界シェア1%以上である(1996年)。
 その他の鉱種も含めて、全体的に生産量は低下している。
日本 表6の生産量第1位としてチタン(42%)、インジウム(26%)、カドミウム(14%)、テルルに、そして第2位としてセレン(27%)に日本が位置しているが、このような大量の金属資源が日本から産出するわけではなく、輸入鉱石の精錬あるいは副産物として得られるものが大部分を占めている(註3)。
 主な鉱種のうち世界シェアの1%以上の生産量(1996年)があるのは、亜鉛(1%)、銀(1%)、白金族(1%)であるが、しかし白金族はすべて輸入鉱石からであり国内産ではない。
 他の鉱種も含めて、金(0.4%)以外の国内生産量は減退している。
(2)工業鉱物資源
 工業鉱物資源の産出量は金属資源に比較して大きいものが多いが、需要の大部分は国内生産で賄えることもまた多い。鉄(鉱石)の生産量10億トン(1996年)に匹敵するものは、表5に示した鉱種ではセメント(原料は石灰石)だけであるが、その他に砕石が米国だけで13億トン、建設用の砂・砂利が米国だけで10億トン近い。また1億トン台は、金属資源ではアルミニウム(ボーキサイト鉱石)のみであるが、工業鉱物資源では食塩、リン鉱石、ピート、石灰、砂・砂利(産業用)、石こうの6鉱種に達し、その他の鉱種も平均して生産量は高い。
ロシア 1995年の産出量においてロシアが世界の第3位までを占めるものは次のとおりである(表6)。世界第1位:ピート(49%)、アスベスト(33%);第2位:雲母(シート状)(39%)、けいそう土(8%)とヘリウム(4%)〔ただし、いずれも旧ソ連として〕;第3位:ダイアモンド(産業用)(16%)、リチウム(13%)、カリ塩(12%)、雲母(破片状)(10%)、バーミキュライト(8%)。また、同じく埋蔵量は、第2位:マグネサイト(26%)、カリ塩(21%)である。
 とくにダイアモンドは産業用および宝石用ともに1996年の生産量は世界第3位であり(表8)、全般的な地下資源生産量の落ち込みの中で、生産量が増加している数少ない鉱種の一つである。産業用は1996年にシェア15%(増加率1.03)で、宝石用は同じく17%(増加率1.03)である。
中国 産出量(1995年)において中国が世界の第3位までを占めるものを挙げると次のようになる(表6)。世界第1位:黒鉛(49%)、蛍石(48%)、重晶石(34%)、滑石・ろう石(34%)、セメント(31%)、溶融アルミナ(31%)、炭化けい素(27%)、窒素(アンモニア)(21%)、石灰(17%);第2位:リン鉱石(16%)、食塩(岩塩など)(13%)、石こう(11%);第3位:マグネサイト(13%)、硫黄(12%)、ざくろ石(産業用)(12%)、ホウ素(鉱石)(6%)。また、同じく埋蔵量は、第1位:マグネサイト(30%)、黒鉛(26%)、重晶石(21%);第2位:蛍石(13%);第3位:ホウ素(鉱石)(16%)である。
北朝鮮 マグネサイト生産量は世界第2位(17%)であり、その埋蔵量は第3位(18%)である(表6)。
韓国 雲母(破片状)の生産量は世界第2位(18%)であり、けいそう土と黒鉛の埋蔵量はそれぞれ第1位(56%)と第2位(15%)である(表6)。
日本 生産量では、ヨウ素が世界第1位(45%)、パーライトとセメントが第2位でそれぞれ14%と6%、滑石・ろう石と炭化けい素が第3位でそれぞれ14%と10%を占める。

3.各国の地下資源にかかわる問題
(1)ロシア

 旧ソ連と比較するとロシアの地下資源は縮小しているが、旧ソ連を構成していた15ヶ国の資源量合計に占めるロシアのシェアからそれを見てみることにする(註4)。なお、ロシアの国土面積は旧ソ連の77%、人口は51%(1996年)である。
 まず、化石燃料(1996年)の原油埋蔵量〔旧ソ連構成国の合計91.0億トン、以下同じ〕は74%で、カザフスタン(12%)とアゼルバイジャン(11%)がこれに次ぐ。石油生産量〔3.53億トン〕は85%で設備面の優位さがでている(カザフスタン7%、アゼルバイジャン3%)。
 石油消費量〔1.97億トン〕は65%で、ウクライナ(9%)、ベラルーシ(6%)、カザフスタン(6%)と続く。天然ガス埋蔵量〔57.3兆立方メートル〕は85%(トルクメニスタン5%、ウズベキスタンとカザフスタンは3%台)、天然ガス生産量〔6,690億立方メートル(6.02億石油換算トン)〕は84%(ウズベキスタン7%、トルクメニスタン5%)、天然ガス消費量〔4.74億石油換算トン〕は67%(ウクライナ15%、ウズベキスタン8%)である。石炭埋蔵量〔2,410億トン〕は83%(カザフスタン14%、ウズベキスタン2%)、石炭生産量〔4.05億トン(1.91億石油換算トン)〕は63%(ただし、石油換算では60%)(カザフスタン19%、ウクライナ17%)、石油消費量〔1.81億石油換算トン〕は66%(ウクライナ17%、カザフスタン15%)である。このように、ロシアの石油と天然ガスの生産量と消費量のシェアは似ていて、その大きな差分は輸出に回されている。しかし、石炭は国内消費分にも不足気味である。
 なお、原子力エネルギー消費量〔5,270万石油換算トン〕は53%でウクライナ(39%)と分けあっており、水力エネルギー消費量〔1,930万石油換算トン〕は68%ではあるが残りの国々を引き離している。総合的な一次エネルギー消費量〔9.23億石油換算トン〕は66%(ウクライナ15%、カザフスタンとウズベキスタンは5%台)であり、GDP(購買力平価;1995年)〔1.17兆US$〕の68%(カザフスタン15%、ウズベキスタン、ベラルーシ、カザフスタンはいずれも4%台)に近い値を示す。
 鉱物資源については充分なデータはないが、主要な鉱種についてロシアの同様のシェアを生産量(1994年)について見てみると次のようになる。鉄(鉱石)54%(ウクライナ38%、カザフスタン8%)、アルミニウム(ボーキサイト鉱石)51%(カザフスタン42%)、クロム(鉱石)7%(カザフスタン93%)、銅61%(カザフスタン30%、ウズベキスタン8%)、マンガン(鉱石)0%(ウクライナ78%、グルジア18%)、亜鉛37%(カザフスタン49%、ウズベキスタン12%)、鉛15%(カザフスタン52%、ウズベキスタン18%、ウクライナ14%)、ニッケル96%、スズ86%(ウクライナ14%)、モリブデン82%、アンチモン74%(キルギス15%、タジキスタン11%)、タングステン87%(ウズベキスタン11%)、コバルト74%(カザフスタン26%)、銀58%(カザフスタン42%)、ダイアモンド100%、金58%(ウズベキスタン30%、カザフスタン10%)、白金類100%。全般的にエネルギー資源よりもシェアの低下がめだち、マンガン、クロム、鉛、亜鉛はカザフスタンあるいはウクライナに1位の座を奪われている。しかし、白金類、ダイアモンド、ニッケル、タングステン、スズなどは圧倒的に優勢である。
 ロシアは石油と天然ガスの多くを輸出しており、石炭はほとんどが国内消費されるものの埋蔵量は膨大であり、エネルギー資源にはとくに恵まれている。また、上記したように旧ソ連時代に比べると鉱物資源においては重要性が低下した鉱種が多くみられるが、総合的には依然として資源大国である。しかし、環日本海地域として考える場合にはロシアの東部地域に限定したほうが適当であるため、次にロシア極東の代表的な地下資源について見てみる。
ロシア極東
 表9に示すように、極東地域はロシアの36.4%の面積を占めるが、人口は5.2%(1994年)に過ぎず非常な過疎地である。さらに、経済活動の指標としての輸出入額は3%程度(1995年)で、発電量は4.5%(1994年)であり、人口比からみればロシアの平均に達しない。エネルギー資源も面積で比較すると乏しく、石油生産量は0.6%(1995年)で、そのほとんどがサハリン州からであり、他にはサハ共和国から少量産出するだけである。天然ガスも0.6%(1995年)であり、同じくサハリン州とサハ共和国からほぼ同量生産されるのみである。石炭は11.7%(1995年)で、サハ共和国と沿海地方からそれぞれ1/3程度、残りはアムール州やサハリン州などから生産され、前二者のように偏ってはいない。埋蔵量では、石油が4.7%(3.28億トン;1992年)、天然ガスが3.4%(1.598兆立方メートル;1992年)、石炭が9.9%(199.21億トン;1994年)の推定値が報告されている(註5)。鉱物資源の生産量では、ダイアモンド(サハ共和国)とホウ素がほぼ100%のほか、白金(ハバロフスク地方)、スズ、蛍石は大部分を占め、銀、タングステン、鉛、亜鉛、チタンなども多い(註6)。金の生産量は約68%(1995年)で、マガダン州とサハ共和国がそれぞれ1/3強を占め、残りをアムール州とハバロフスク地方が分ける。
 極東地域の石油と天然ガス生産量は埋蔵量のシェアと比較すると非常に少なく、また当地域における石炭などを含めた一次エネルギーの需要は満たされておらず、その生産消費率(生産量/消費量)は0.58(1993年)に落ち込んでいる(註7)。また、鉱物資源の多くも開発されずに地下に眠ったままである。現在、極東地域とザバイカル地域を対象に地下資源の開発を含んだ長期発展計画が国家プログラムとして推進されつつあり(註8)、このような状況の改善が期待される。
(2)中国
 中国におけるエネルギー資源の生産量は増加しているが、同時に消費量の伸びも大きいため、輸出余力は小さい。とくに石油の不足が増大する傾向にある。一方、鉱物資源は多種類の金属鉱物資源と工業鉱物資源に恵まれており、不足しているのはカリ塩・白金・ダイアモンド・クロムなどの一部の鉱種である。しかし、著しい経済成長を考慮すると、将来的に自給可能な鉱種は限定されることが予想される(註9)。ここでも、環日本海地域という視点から中国の東部地域について次に見てみる。
東北三省
 表10に示した東北三省は、面積では中国の8.2%で、人口では8.6%(1995年)であり、人口密度は中国平均を上回るが、輸出額と輸入額はそれぞれ7.9%と4.2%(1995年)で、平均以下である。しかしこの地域は歴史的に重工業地帯として発展してきたことからもわかるように、発電量は12.1%(1995年)、石油生産量は50.3%(1995年)、ガス生産量は25.2%(1993年),石炭生産量は12.1%(1995年)というようにエネルギー資源に富んでいる。また石油の埋蔵量は51.8%(17.8億トン;1995年)と推定されている(註5)。鉱物資源はニッケル、鉄、金、鉛・亜鉛、銅、スズ、黒鉛、ホウ素など多種類の鉱種を産出する。
 東北三省の1992年の一次エネルギー生産量と消費量はそれぞれ中国の20.7%と15.1%であり、この地域全体としては充分な余裕があるが、生産消費率をみると黒龍江省(2.5)以外の吉林省(0.87)と遼寧省(0.60)は1以下でエネルギーの自給ができていない(註5)。とくに、大慶油田の減衰により当地域での石油生産量の拡大は望めなく、石炭依存はさらに大きくなると予想されるが、それに伴う環境政策が強く求められることになる(註10)。
(3)北朝鮮
 北朝鮮は一次エネルギーの自給自足を政策的に行ってきたが、1996年の生産消費率は0.91で、自国から産出しない石油の輸入分が増加している。また一次エネルギー消費の81%(1996年)を占める石炭の埋蔵量も決して多くはない(R/Pは18年)。工業鉱物資源のマグネサイトに非常に恵まれ、金属鉱物資源では亜鉛、鉛、タングステン、鉄が比較的豊富に存在する。
 北朝鮮は地下資源全般にとくに恵まれているわけではなく、また資源開発も衰退しているため、地域開発のために自由経済貿易地帯指定などの新たな外資導入政策等を模索しているが(註5)、根本的な方針転換が必要である。
(4)韓国
 韓国の一次エネルギー生産消費率は0.12(1996年)で、石油と天然ガスは100%、石炭は91%輸入している。石油と天然ガスの合計は一次エネルギー消費の69%(1996年)を占めるが、増加の傾向が著しい。工業鉱物資源ではけいそう土、黒鉛、雲母(破片状)に非常に富み、ろう石、滑石、長石、カオリンも多い(註11)。金属鉱物資源では銀と金が比較的多い。
韓国は経済成長を支える一次エネルギーの9割近くを輸入に依存しており、一部の工業鉱物資源を除けば鉱物資源のほとんどを自給できない状況にあり、地下資源全体で比較すれば日本よりもさらに資源に乏しい国といえる。
(5)日本
 日本の一次エネルギー生産消費率は0.19(1996年)で、韓国と同様に石油はほぼ100%、天然ガスは97%、石炭は95%を輸入している。工業鉱物資源ではヨウ素が傑出して多く、パーライト、セメント、滑石・ろう石も多い。金属鉱物資源では亜鉛がやや多いが、国内需要をまったく満たせない。代表的な鉱種の自給率(1995年)をみると(註12)、鉄、クロム、マンガン、ニッケル、モリブデン、タングステン、コバルトはすべて0%、銅0.1%、アルミニウム0.5%、アンチモン1.1%、銀1.8%、スズ2.4%、金2.7%、鉛5.1%、亜鉛13.7%であり、金属鉱物資源はほとんどすべてを輸入に依存している。工業鉱物資源では、重晶石の自給率は0%であるが、石灰石100%、けい石99.4%、ろう石90.1%、耐火粘土79.9%、ドロマイト66.2%、けい砂62.6%のように比較的国内産出量が高いものが多い。日本も韓国と同様に自国内の地下資源では需要の大部分を満たすことができないため、国内はもとより世界各地で資源開発協力事業を行い資源安定確保をめざしている(註13)。

4.おわりに
 エネルギー資源に比べると鉱物資源関係のデータは入手が非常に困難である。国別であっても埋蔵量と消費量のデータは揃わないし、国内の地域別データとなると非常に限られ、その国の言語で書かれた資料を丹念に収集しなければまず詳細は知りえない。もしそのような情報が入手できても、多国間での比較に使える数値である保証はなく、内容を吟味して換算と補正を行う必要がある。残念ながら、本論文では各国の一次資料ではなく、大部分は比較的入手が容易な印刷物に引用されたデータとインターネットに公開された統計データを用いたため、五ヶ国について等質のデータを揃えることはできなかった。また、文献によっては異なる数値が使われている場合も多かったが、文献に厳密な出典が記載されていないこともあり、他との矛盾が少ない方を採用した。
 資源に富むとか富まないとかの表現はあいまいに使われることが多い。単位面積あたり、一人あたり、GDPあたりなどの基準を変えると、どちらとも言えることになるケースが多いし、時間とともに変わるケースもある。現実的には、国産の資源の生産量が国内消費量を満たした上で輸出に回せる量がどの位あるか、そして何年間可能かということが判断の基準となるようだが、そのためには消費量と埋蔵量の正確なデータが必要である。五ヶ国の中でとくに情報が少なかった北朝鮮については、よく資源に富む国といわれるが、今回の調査からはそれを裏付けるデータは得られなかった(註14)。いずれにせよ、情報公開がとくに待たれる。


(1)CIA World Factbook 1996(1997)から算出。
(2)鉱物資源の埋蔵量の定義は USGS〔立見(1983)を参照〕に倣うが、「埋蔵量」は既知(確認)鉱物資源のうちで現在経済的に採掘または生産できる量で、「埋蔵量ベース」は「埋蔵量」のほかに現在の経済限界すれすれおよび一部の経済限界下を含む量である。
(3)鉱山元の産出量が報告されていれば問題がないが、このように金属精製品量(純粋なメタルとしての量)データのみの場合は注意を要する。国別の資源量を比較するのにもっとも適するのは埋蔵量であるが、これは正確な量の見積りが簡単でなく国による質の違いが大きいという難点がある。
(4)エネルギー資源については主にBP Statistical Review of World Energy 1997(1997)から、鉱物資源については主にMinerals Yearbook 1995,1996(1997)から算出。
(5)北東アジア 21世紀のフロンティア(1996)参照。
(6)同上の他、石原・神谷(1994)、Ratkin(1994)、およびCIS諸国の地質と鉱物資源(1995)による。
(7)小川・村上(1991)および本多ほか(1995)参照。
(8)ロシア極東ザバイカル地域長期発展プログラム(1997)参照。
(9)岸本文男(1990,1991)、須藤定久(1995)、中国の非鉄金属鉱物資源(1989)による。
(10)中国エネルギー戦略(1996)および中国 2001年の産業・経済(1997)参照。
(11)岡野武雄(1988,1989,1990)による。
(12)鉱業便覧 平成9年版(1997)による。自給率(%)=国内鉱出×100/(国内鉱出+海外鉱出+輸入)。1996年4月現在で、金属鉱山数は258、そのうち稼動中で生産があるのは17鉱山、さらに従業員100人以上は豊羽(北海道;鉛・亜鉛)、神岡(岐阜;鉛・亜鉛)、菱刈(鹿児島;金・銀)の三鉱山のみ。非金属鉱山数は980、そのうち544鉱山が生産しており、さらに従業員数80人以上あるいは年間生産量200万トン以上あるのは39鉱山、鉱種は石灰石がほとんどで一部はドロマイト、耐火粘土、けい石、ろう石。
(13)鉱業便覧 平成9年版(1997)、コール・ノート 1997年版(1997)、石油年鑑 1997(1997)、正路(1997)参照。鉱物資源は通商産業省所管特殊法人の金属鉱業事業団、とくにウランについては科学技術庁所管特殊法人の動力炉・各燃料開発事業団、石油と天然ガスは通商産業省所管特殊法人の石油公団、石炭は通商産業省所管の新エネルギー・産業技術総合開発機構がそれぞれ実施あるいは支援している。
(14)鉱物資源は鉱石と呼ばれる一種の岩石として存在するが、それぞれ地質学的な生成環境の条件に支配されて濃集しているため、一般的な岩石・地質の情報があればどのような資源が存在するかはある程度予想できる。そして、各資源を元素単位でみると、各元素が地殻中に最大どの程度存在するかも計算可能である。立見(1986,1987)は世界の地域別に元素の濃集程度を示す鉱化度を推定して、各元素の最大資源量を求めた。北朝鮮の地質をその結果と照らしても、莫大な資源が北朝鮮に眠っているとは考え難い。

文献
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表1:環日本海五ヶ国のエネルギー資源量(1996年)
表2:環日本海五ヶ国の一次エネルギーの生産量と消費量の推移
表3:環日本海五ヶ国の化石燃料資源の生産量と消費量の推移
表4:環日本海五ヶ国の原子力および水力エネルギー消費量の推移
表5:世界の金属資源と工業鉱物資源の生産量と埋蔵量
表6:世界の金属資源と工業鉱物資源の生産国と埋蔵国
表7a:金属資源の価格と用途
表7b:工業鉱物資源の価格と用途
表8:環日本海五ヶ国の主要鉱物資源の生産量の推移
表9:ロシア極東地域のエネルギー資源と金の生産量
表10:中国東北三省のエネルギー資源の生産量

付表1:環日本海の五ヶ国のデータ
付表2:環日本海五ヶ国の金属資源の海外依存度(1995)
付表3:世界の金属資源の生産量と埋蔵量


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